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「特別遠征……。聖女の泉の周りは、普段は魔物も滅多に出ない。そこに集団で魔物が出てきた。これはさすがにおかしい」


私が、真っ直ぐにリュゼを見れば、彼女はキョトンとした目で見つめ返してくる。


「あなたの『主人』である私が問う。あなたが手引きをしたのではないの?」


数秒の沈黙。まるでゼンマイの切れた人形のように固まっていたリュゼが、唐突に動き出した。


「はい、わたくしが、指示いたしました」


魔物を煽動して聖女の泉を目指す学校からの一団を襲撃するように、とリュゼが実家に頼んだ。魔物をある程度誘導するだけの仕事であるが、実行は裏家業の人間を使ったと思われる、と彼女は自白した。

うん、知っていた。特別遠征授業の日時は決まっているから、事前に手配は可能だ。この聖女覚醒イベントでの魔物襲撃は、リュゼの仕業とゲームの時から決まっている。


去年、自身の聖女覚醒に期待して参加したリュゼは、やはり聖女になれず、大きく落胆。こんな遠征、邪魔をしてやる!というのが動機だ。

だから私も不測の事態に備えて同行したのだ。過去のループで経験済ではあるけど、時々私が手を出さないと、ゲームにない大事故が発生することがある困ったイベントでもある。


これも本来のリュゼの立ち位置に私がいるということで、不確定要素が発生するのだろう。

閑話休題。


「あなたのしたことは許しがたい」

「お許しください、アイリス様」


リュゼが不安げな表情を見せる。自ら陰謀を隠すことなく告白しておいて、許してくださいなんて、何もしらない者が見れば、リュゼがおかしくなったのでは、と思うところだろう。

……実際、おかしくなった。おかしくしたのだ、私が。


「あなたは王子殿下の暗殺を企んだ」

「いいえ、わたくし、王子殿下を殺そうなどとは……」

「あなたの送り出した魔物によって殿下は死にかけた! 殺害の意図がなかったでは言い訳できないわよ!」

「お許しください! 誓って、殿下のお命を狙ったわけでは――」


そう、王子を狙ったわけではない。それは知っている。


「私が通報すれば、あなたは王族暗殺未遂で投獄され、そののち斬首か絞首刑でしょうね。ぶざまな死体をさらすことになるわ」

「……」


ガクガクと震えるリュゼ。私はテーブルに肘をついた。


「どうするのがいいかしらね? どうすればいいと思う?」

「……わ、わかりません、アイリス様」


リュゼは困惑している。


「わたくしはどうすればよろしいのでしょうか、アイリス様?」

「何故、私に聞くの?」

「それは……あなたがわたくしの『主人』だからです。先ほど、そうおっしゃいました」

「ああ、言ったわね」


『主人』として問う、と。どうやら毒入りのジュースは効果を発揮したようだ。


「毒リンゴを口にしたお姫様は死んでしまうの」


でも死因は、喉にリンゴが詰まったせいらしい。毒関係ないじゃん、というツッコミは野暮だが……まあ、ジュースなら喉に詰まらせることはないでしょうよ。


「はい?」

「独り言よ」


あなたに飲ませたジュースはね、シウメが作った魔法薬で、飲んだ人は飲ませた人に絶対服従する代物よ。

一種の奴隷製造薬というべきかしら? シウメは媚薬研究の最中に古代の資料でそれを見つけ、作ってしまった。


ヤンデレをこじらせると、マジで使うこともあるから怖いのだけど、彼女自身は、人体実験をしていないので効果があるのかわかっていない。

もっとも、よく効くお薬なのは、ループで私が実際に試験してあげたから知っているんですけどね! シウメには失敗だった、と言っておくわ。


「リュゼ、あなたの命は私のサジ加減よね?」

「はい、アイリス様」


コクンと迷いなくリュゼは頷いた。私は言った。


「じゃあ、こっちへ来て跪きなさい。私への絶対の忠誠を誓えば、ペットとして飼ってあげるわ」

「はい、アイリス様」


リュゼはすっと席を立つと、テーブルを避けて、私のもとにくると膝をついて四つん這いになった。


「言いなさい」

「はい。わたくし、リュゼ・キルマはアイリス様に絶対の忠誠と生涯の隷属を誓います」


うっとりとした目を向けてくるのは媚薬効果かもしれない。はたから見ると自分から喜んでやっているように見えるのが、始末が悪い。

私は残っているリンゴジュースを注いだ。


「全部飲みなさい」


リュゼは、魔法薬を口にした。

さて、これでメアリーへの直接手を出す敵は消えた。私が悪役令嬢らしく振る舞うための駒も手に入れた。


まあ、こういう手はあまり好みではないのだけれど、王族殺害の大罪を犯すところだったリュゼに対して、命があるだけマシかしらね。

これで王国の安泰にまたひとつ近づいた。


「アイリス様」


考えている間に、リュゼがジュースを飲み干した。


「あら、口についているわよ?」


少し垂れたそれを指で拭ってやると、すぐさまリュゼがパクリと私の指を加えて舐めた。


「全部飲めと言われたので……」

「よくできました」


その頭を撫でてやれば、リュゼはうれしそうに目を細めた。……薬、効き過ぎね。これで効果が永続するというのだから恐ろしい。だから全部飲ませて、他の人間が口にしないよう処分したんだけどね。






リュゼは墜とした。聖女メアリーへの一番の障害は取り除かれた。

このまま大きなトラブルもなければ、順調にゲームのシナリオに沿って進む。


残す最大の問題は……ループから抜け出す方法。

これが頭の痛いところ。どれだけこちらが王国ハッピーエンドを段取っても、ループで戻ってしまえば元の木阿弥。

これまでも調べてみたけど、手掛かりはない。


誰が、何の目的でループをしているのか?

私以外に誰かがループしても記憶を保持していると思うのだけれど、そんな人間には今まで会ったことがない。


唯一、メアリーの中の人が、ループすることもあるが毎回ではないし、中の人も変わるしでループには関わっていないと思う。……ゲーム的な見方で言えば、リセットできるのはヒロイン=プレイヤーだから、一番怪しくはあったんだけどね。


「アイリス様」


リュゼがニコニコと私を見ている。お菓子をつまみながら微笑み返し。

彼女の専属メイドがお茶のおかわりをいれてくれた。……ご主人様が私の支配下にあることに、まったく気づいていなかった。

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