テラーノベル
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佐野勇斗は、誰よりも強くて頼もしい絶対的エースである。
が、そんな勇斗にも、誰にも言えない傷があった。
その原因を作っていたのは、紛れもなく“悪質な患者”のせいである。
どこに行っても一定数居る。消えることはない。
診察中に受ける不快な身体接触。
繰り返しの勧誘。
どれも「俺が男だから」「我慢すればいい」と自分に言い聞かせ、胸の奥深くに押し殺してきた毒だった。
だが、蓄積されたストレスは、精神的な苦しみとなって己の体を内側から苛み始めた。
「……っ、……」
午後の診察の合間。激しい胃の絞痛と酷い吐き気に襲われた勇斗は、ナースステーションの奥にあるスタッフ用トイレへ駆け込み、内鍵をかけた。
便器の前に崩れ落ち、腹部を抱え込んで固まる。
吐きたい。
でも、出ない。
結果、胃の気持ち悪さばかりが増えていく。
込み上げる不快感に襲われるが、長年刷り込まれた恐怖と羞恥心が邪魔をして、うまく吐き出すことができない。
冷や汗が全身から吹き出し、呼吸ばかりが浅く乱れていく。
その頃、ナースステーションでは吉田が眉をひそめていた。
「あれ、勇斗どこ行った? 診察の途中で急にいなくなるか、普通?」
基本、勇斗がこの行動をした時、良いと思った試しは1つもない。
嫌な予感がした仁人は、足早にスタッフ用トイレへと向かった。
鍵のかかったドアの前。中で荒く乱れる息遣いと、必死に苦しみを耐える小さな呻き声を聞き逃さなかった。
「……勇斗?いる?」
「……ッ!? じ、んと……っ? だ、じょぶらから…、すぐもど……っ」
「鍵開けて」
拒絶しようとする勇斗だったが、早くこの苦しみから逃れたいという気持ちが優先され、解錠してしまった。
ドアが開くと、そこには狭いトイレの床にへたり込み、顔面蒼白で胃を押さえて震える勇斗の姿があった。
「勇斗、どこがつらい?言って」
「や、くんな……っ! みないで、おねがっ、」
鍵を開けたものの、惨めな姿を見られたくない勇斗は、顔を覆って必死に体を縮こまらせる。
だが、仁人は容赦なく勇斗の隣に膝をついた。
佐野の肌は冷たく湿り、精神的な過緊張でパニックを起こしかけている。
「……い、が、いたく、って、で、もはけ、なくて……っ」
「……分かった。もう我慢しなくていいから」
仁人は迷わず勇斗の大きな背中に手を回すと、もう片方の手の指を勇斗の口元へ添えた。
「ごめん、ちょっと荒療治だけど……、」
「ぁ、ん………っ、」
仁人の手指が容赦なく口内に差し込まれ、舌の奥を優しく刺激する。
「ひぁっ、……ぅ、……ッ、ぉえ……!」
「ごめん、苦しいよな、」
押し殺していた吐き気が一気に込み上げ、佐野は便器に向かって勢いよく吐き出した。
「ぁ、ぁ……っ、ぉ、えっ……っ!」
「大丈夫、大丈夫だから、そのまま全部吐いちゃいな」
仁人は勇斗の荒い呼吸に合わせて、大きな背中を一定のリズムで優しく擦り続けた。
何度も何度も込み上げる胃液を吐き出し、ようやく勇斗の肩から力が抜けた。
苦しみのピークが過ぎると、残ったのは耐えがたい羞恥心と情けなさだった。
「うっ……うぁ……っ……じん、と、ぉ……ごめ……っ」
勇斗の目から大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「…気づいてあげられなくて、ごめん」
仁人は涙と冷や汗でぐしゃぐしゃになった勇斗の顔を冷やしタオルで優しく拭うと、その頭を自分の胸元へ強く引き寄せた。
「勇斗はいつも頑張ってるから。今は、不快なことも、辛いことも、全部吐き出せ」
「じん、ちゃ……っ……うぁ……ん、は、」
子供のように仁人の白衣に顔をうずめて声を上げて泣く勇斗。
仁人は何も言わず、勇斗の心が落ち着くまで、その背中をずっと温かく抱きしめ続けていた。
誰にも見せられない弱さを分け合ったトイレの個室で、佐野と吉田の絆はまたひとつ、誰も入ることのできない深い場所で結ばれ直したのだった。
びび
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#山中柔太朗
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コメント
1件
あっ…これ、めちゃくちゃ胸にきたわ… 勇斗が「男だから我慢しろ」って自分に言い聞かせてるのがもうね、グッときた。 吉田が「鍵開けて」って一歩引かずに入っていくところ、信頼がないとできないよな。 吐き出したあと子供みたいに泣く勇斗を見て、こっちも泣きそうになった。 「トイレの個室で結ばれ直す絆」って表現がずるいわ。この2人の関係、もっと見たい🔥