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#山中柔太朗
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“なぜか疲れる”
“なぜか気分が乗らない”
“なぜか患者さんと上手くいかない”
そんな小さな違和感の積み重ねは、知らず知らずのうちに吉田仁人の心を酷く疲弊させていた。
自分の診療スタイルに疑問を抱き、悩み、勝手に自己嫌悪に陥る悪循環。
食事は喉を通らず、水分も満足に取らないまま無理を重ねた結果、言葉にはトゲが混ざり、周囲との間に目に見えない壁を作り出していた。
「……これじゃダメ駄目なんだよ」
頭では理解していても、一度絡まった感情の糸は解けない。
そしてついに、限界の時が訪れた。
「……ッ、んぁ……っ」
診察が終わった誰もいない夕方の外来診察室。
高熱とひどい貧血、全身を襲う強い怠さに耐えかね、仁人はデスクに突っ伏したまま動けなくなっていた。
指先は小さく細かく震え、呼吸をすることすら億劫なほど思考が痺れている。
カチャ、と静かにドアが開いた。
「……やっぱここか」
入ってきたのは山中柔太朗だった。
柔太朗は静かな足取りで仁人の側に歩み寄ると、デスクに埋められた冷たい手首にそっと触れた。
「……ひどい熱だし、手も震えてる。……よっしー、もう我慢しないでいいよ」
「……じゅ、う。……ほっとけ、」
掠れた声で強がろうとする仁人。だが、柔太朗は何も言わず、仁人の身体をそっと抱き起こした。
「はいはい。失礼しますね〜」
柔太朗は床に腰を下ろすと、ぐったりとした仁人の頭を優しく自分の膝の上へと迎え入れた。——静かな診察室で施された、柔らかな膝枕の体勢。
「じゅう、たろう………?」
「いいから。力を抜いて」
身をよじる仁人の額に、柔太朗は冷たく濡らしたタオルを当てた。
そして、熱で濡れた仁人の前髪を、まるで壊れ物を扱うかのように丁寧に梳かしていく。
膝の上から伝わってくる柔太朗の体温と、どこまでも穏やかな気配。
仁人の角立っていた心が、ゆっくりと解解されていく。
「……最近、ごめん……。患者さんとも……上手くいかなくて………」
膝の上で、仁人の目から静かに涙が一粒溢れ落ちた。完璧主義の彼が、ずっと誰にも言えず一人で抱え込んできた弱音。
柔太朗は優しく微笑み、仁人の頭を一定のリズムで撫で続けた。
「そんなことない。じんちゃんが誰よりも真面目に命と向き合ってるから、悩むんだよ。……上手くいかない日があってもいいじゃない。俺たちいるよ」
「……じゅ、う……」
「俺も、じんちゃんにはたくさん救われてきたから。今日は甘えて、元気だして」
誰よりも落ち着いた眼差しを持つ柔太朗だからこそ作れる、立ち入らせない安心感。
仁人はゆっくりと瞳を閉じ、柔太朗の膝の上で、久しぶりの安らかな深い眠りへと落ちていった。
「……お、静かに入れよ。仁人寝てんだから」
「佐野さん、点滴の準備できたでー」
「よし、いくぞ」
うっすらと意識が戻ってきた仁人の耳に、仲間たちの囁き声が届く。
目を開けると、膝枕をしてくれている柔太朗の向こう側で、勇斗、太智、舜太の3人が温かい眼差しで自分を見守っていた。
「……起きた?おはよう、じんちゃん」
柔太朗が覗き込み、静かに微笑む。
「……みんな……」
「まったく…。俺たちも忘れてもらっちゃ困る。あと仁人、点滴」
勇斗が笑い、太智と舜太も頷いた。
一人で悩み、倒れ、支え合いながら、全員でバトンを繋いできた体調不良ラッシュ。
けれどその度に、総合診療科の絆はより強く、より優しく結ばれていった。
「……ありがと、みんな」
「へぇ、珍しい。あの仁人くんが感謝なんて!」
「黙れ」
仁人の唇からこぼれた素直な感謝の言葉に、ナースステーションは今日一番の温かな笑い声で包まれたのだった。
コメント
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読了しました。このエピソード、とても沁みました。吉田仁人が一人で抱え込んで燃え尽きるところから、柔太朗の膝枕という究極の「受け入れ」に至る流れが素晴らしかったです。「完璧主義の彼が、ずっと誰にも言えず一人で抱え込んできた弱音」という地の文が泣けますね。しかも柔太朗だけじゃなく、勇斗たち総合診療科の仲間が全員で点滴を用意して見守る構図が、医療者の連帯として美しい。最後の仁人の「ありがと」と即座の「黙れ」の温度差が、彼のキャラを壊さずに成長を見せていて最高でした。