大智君のお母さんに同居を提案されたあとも私は大智君の実家にとどまり、夕方になり大智君が帰宅してきた。
「おかえりなさい」
玄関で私に出迎えられ、大智君は顔を真っ赤にして分かりやすく照れていた。
夕食は四人で。すごいごちそうだった。たぶん全部お母さんの手作り。どうせ今まで暇だったのだから手伝えばよかった。
食事中は相変わらずお母さんばかりよくしゃべっていた。お父さんはニコニコしながらお母さんの話に耳を傾け、大智君は私にお酒をしきりに勧めてきたけど、
「このあと二人でだいじなことを話したいからお酒はやめとく」
と答えると、それ以上勧めてこなかった。お母さんは私たちのそんなやりとりをじっと見ていた。
「あのね、大智」
「はい」
「お母さんは詩音さんを気に入ったわよ」
「そうですか」
「そうですかって、もっと喜んだらどう?」
「ちょっと意外だったから」
「意外?」
「お母さんはもっと若くて……」
大智君が口ごもる。大智君が言えなかった言葉をお母さんが引き継いだ。
「清楚な人を好むと思ってた?」
「う、うん」
若さも清楚さもなくてすいません! 若さはともかく清楚さがないのは私自身が今朝バラしてしまったことだ。バラす必要はなかったかもしれない。でも今さらいくら清楚ぶったって、私が清楚でないことは私とセックスした大智君本人が一番よく知っている。
「当たり前でしょ。私は清楚な人が好きだし、清楚じゃない女が大智と結婚することは許さない」
「お母さん!」
やっぱりと思った。やっと居場所を見つけたと思ったけど錯覚だった。希望なんて持たなければ傷つかずに済んだのに、私はどうしてまたそれを胸の中に持ってしまったのだろう?
立ち上がり無言のまま立ち去ろうとした私の腕をつかんだのは、大智君でなくお母さんだった。
「どこに行くの? 大智だけじゃない。私も主人も詩音さんの居場所になると約束するわ」
「だって今、清楚じゃない女は大智君と結婚できないって……」
「私の言い方が悪かったみたいでごめんなさいね。詩音さんは自己肯定感が低すぎるんじゃないかしら? 私は詩音さんが清楚じゃないって責めてるわけじゃないの。むしろ逆。私は大智へのひどいいじめを止めるために、いじめっ子たちやその保護者たちと長いあいだ向き合ってきた。子どもたちはみんな大智を馬鹿にして、その親たちは言い訳と責任転嫁ばかり。ひどい人になると、いじめられる方にも問題があると逆に私たちを責めた。今日一日詩音さんと話して私は本当にホッとした。詩音さんは決して大智を馬鹿にしたり下に見てはいない。逆に自分を大智より下に見てる。詩音さん、清楚って過去に何があったかで決まるものなのかしら? 今現在の心のあり方――つまり謙虚さや愛する気持ちの深さで決まるものなんじゃないかと思う。だから私は詩音さんは誰よりも心が清楚な人だと思ったし、こんな素敵な人が大智を好きになって、大智と結婚してもいいとまで言ってくれて、大智がここまで成長するまでにつらいことや大変なこともたくさんあったけど、今日ほど大智を産んでよかったと思えた日は今までなかったんじゃないかしら? さっきお願いしたことでもあるけど、詩音さんにはぜひできるだけ早くこの家で私たちと暮らしてもらって、楽しい思い出をいっしょにたくさん作っていけたらいいなって心から思ってるのよ」
心臓に悪いとはこのことだ。おまえみたいなふしだらな女は出て行けと怒られたのかと誤解して、もう少しでこの家から逃げ出していくところだった。
四人での食事のあと、私は大智君の部屋に来ていた。もちろん大智君と二人きり。お母さんの前では泣かなかったけど、この部屋に入るなり緊張の糸が切れたように私は泣いた。そんな私を大智君は優しく抱きしめてくれた。
「詩音さん、母がごめんね。僕らの仲に反対してるのかってびっくりしたよね? 僕もびっくりしたけど……」
「大丈夫。私こそ話を最後まで聞かずに飛び出していこうとしてごめんなさい」
「いいんだ。ただこれからは僕を信じてほしい。たとえ母や父が僕らの敵になったとしても、僕だけはあなたの味方だから。両親に反対されたら二人だけで幸せになればいいんだ」
「大智君……」
私は幸せ者だと思った。でも君は私なんかといっしょになって本当に幸せになれるのだろうか?
「大智君、お母さんは私が誰よりも清楚な人だって言ってくれてそれはありがたかったけど、やっぱり私自身がそうは思えないんだ。かつての私は何人もの男たちに都合のいい女扱いされていたと打ち明けたけど、そうなるように強要されたわけでもないんだ。私は自分の意志で彼らの所有物になり、毎日違う男と会って、彼らとのセックスに溺れた。全然清楚じゃない。君にプロポーズされてうれしかった。でも君はそんな私を選んで一生後悔しないって言えるの?」
また言わなくてもいいことを言ってしまった。私はどうかしていた。もしかしたらどうせ別れることになるなら、早くそうなる方が傷も浅いんじゃないか、と無意識に思ってしまっていたのかもしれない。
「ごめん。あなたを選んで後悔したことなら、すでに一度あるんだ」
「えっ」
「僕らが初めて結ばれたとき。僕はどうしていいか分からなかった。全部あなたに言われた通りやっただけ。慣れてるなって思った。今まで何人の男と経験してきたんだろうって嫌な気持ちにもなった。僕はセックスどころかこの年になるまでキスさえしたことなかった。そんな僕が経験豊富な詩音さんをセックスで満足させてあげられるとは思えなかった。それでも生まれて初めてセックスできて僕は有頂天だった。そんな僕を詩音さんは叱ったよね。私は君を最後の相手だと思ってるのに、君は私を最初の相手だとしか見てくれないのかって。セックスが素晴らしいなんて言ってほしくない、好きな人とするセックスだけが素晴らしいんだって。そう言われて僕は恥ずかしくなった。経験が多いか少ないかなんて関係なかったんだ。愛とかセックスを軽く見ていたのは僕の方だった。あなたが僕を最後の相手だと、また僕とするセックスだけが素晴らしいんだと思ってくれるなら、僕もあなたを最後の相手だと思って、あなたとするセックスだけが素晴らしいんだって思うことに決めた。あなたを選んだことを一度だけ後悔してしまったことは謝ります。でも二度と後悔しないって約束します。それで許してくれないですか?」
「許さないわけないじゃん……」
体のどこにそんなに水がたまっていたのかと思えるくらい、涙がぼろぼろとこぼれ落ちていく。もう離れたくないと思った。違う。離れたくないんじゃなくて、離れられないんだ。私のすべてはもう君のものだ。
「ところで詩音さんは?」
「何?」
「僕を選んだことを一生後悔しませんか」
「死ぬまで後悔しないって誓うよ。というか死んだあともいっしょにいたいくらい。ダメ?」
「いいに決まってます!」
服の上から君の下腹部に手を触れると、服の上からでも分かるくらいそれは膨張していた。
「なんか痛そう……」
「詩音さんのせいだから責任取ってください」
「分かった。立って」
大智君のズボンとパンツを下ろし、とてもおとなしい君の、全然おとなしくない部分と対面する。
「君と初めてしたときは私がリードしたけど、そのあとは遊び慣れてるとかセックスが好きなんだとか君に思われるのが嫌で、経験少ない君が困るのを承知で全部君に任せようとした。清楚な女じゃないって言いながら実際は、君に嫌われたくなくて清楚な振りをしていたんだ。もうそういうことを気にするのをやめていいかな?」
「僕は詩音さんの過去も未来も、綺麗なところもそうじゃないところも全部受け入れるって決めた。もう自分を偽るのはやめてほしい。あなたはあなたの生きたいように生きればいいんだ」
「ありがとう。今までのどの男よりも大智君を気持ちよくしてあげる」
君のものを口に含み、私が彼らに教わったテクニックのすべてをそれに注入した。同時に肛門から指を入れ、前立腺を小刻みに刺激する。
「し、詩音さん……!」
「ごめん。痛かった?」
「そうじゃない。気持ちよすぎて立ってるのがつらい。横になっていい?」
そんな一方的な愛撫を二十分程度続けただけで君は放心状態になっていた。
「そろそろ私も気持ちよくなりたいな」
快楽の海に溺れている君に私の声は届かない。君と初めてしたときのように、私が上になり腰を落としていき、一つになった。もう何度も絶頂に達していたものの、すでに次の限界の寸前だったらしく、少し動いただけで君は射精した。
大智君が平常心を取り戻したのはそれから三十分以上経ったあと。私たちは二人ともまだ裸だった。
「かつてセックスに溺れていたことがあるって詩音さんにさっき言われたとき、それはその頃の詩音さんが心の弱い人だったからなんだろうなって思ってた。そうじゃなかったんだね。あんなセックスをされたら、そりゃ誰だって溺れるよ」
「大智君、私はお母さんにこの家に住んでほしいって言われて、君が許してくれるならそうしたいって思ったけど、君がセックスに溺れて、勉強に手がつかなくなって、教員採用試験も受かりそうにないというのなら、その話は一旦白紙に戻した方がいいみたいね」
「僕がセックスに溺れるのはセックスしてるときだけだよ」
君は優しく私を抱き寄せた。
「おとといの夜、夢はあるのと詩音さんに聞かれて、二つあると答えたけど、教師になるという夢の話しかしてませんでしたよね。僕のもう一つの夢はあなたを幸せにすることです。詩音さんは僕にとって最初で最後の人。僕はあなたを幸せにするために生まれてきた気がするんです。詩音さん、僕の夢を叶えるために僕といっしょに暮らしてください」
もうダメだと思った。君はさっき私とのセックスに溺れていたけど、私は今君自身に溺れている。
君の夢は私の夢だ。子どもに信頼される教師になるという君の夢を実現するために、私はいつも隣にいて君を支えていきたい。
「あの……。よろしくお願いします」
「僕の方こそ」
居場所のない男と女がお互いを居場所として、二人で生きていくことを誓い合った。二人で生きていく。なんて素敵な響きなんだろう!
七年前、あの街から一人で逃げ出したとき、こんな素敵な未来が私を待っているなんて、夢にも思わなかった――
前立腺刺激を私に教えたのは一年後輩組の足立史也という、十二人の中で唯一ぽっちゃりした体型の男だった。
史也はシックスナインを好み、肛門を舐めてほしいとよくせがんだ。嫌だったけど史也はそのあいだ私の肛門をせっせと舐めてくれるから、仕方なくお返しに舐めてやった。
今度は私の肛門に指が入ってきた。
「汚いよ」
「詩音さんの体に汚い場所なんてない。詩音さんもおれの肛門に指を入れて」
これも仕方なくお返しという形で肛門に指を入れた。
「もう少し先まで」
「そこでお腹の方に指を曲げて」
「指を小刻みに動かして」
「そうそう。そのまま」
注文の多い男だなと思った。目の前に勃起した立派なペニスがあるのに、肛門の愛撫ばかり要求される意味が分からなかった。
しばらくして史也はオーガズムに達して、雄叫びのような声を上げた。ただし射精はしていない。
「どういうこと?」
「男にしかない前立腺という器官を刺激してもらったんだ」
「気持ちいいの?」
「ペニスへの刺激よりもよほど気持ちいい」
史也は起き上がり、私の肛門の辺りを撫でた。
「後ろの穴に挿れられたことある?」
「ないけど」
「じゃあ、おれ挿れていい?」
「え? 普通に前の穴じゃダメなの?」
「そっちはほかの連中に任せるよ。おれはナンバーワンじゃなくオンリーワンを目指したい」
馬鹿な私はなるほどと感心した。
「でも、女には前立腺ないんでしょ?」
「前立腺はないけど性感帯はあるから気持ちよくなるよ」
「痛くないならいいよ」
「絶対に痛くしない」
私の処女を奪う前に竜星がしていたような丁寧で徹底的な愛撫が始まった。史也は愛液に濡れる前の穴には見向きもせず、ひたすら肛門周辺だけを刺激し続けた。
三十分ほどして四つん這いになるように言われ、ようやく史也のペニスが肛門に入ってきた。確かに痛みはなかったし、当たる場所によっては快感を得られた。史也は私をよく観察していて、私が気持ちいいと感じる辺りを集中して突きまくった。
史也が先に絶頂に達して、肛門の奥深くに精液を放出した。私がまだ絶頂に達してないことを申し訳なく思ったか、史也は今まで放っておかれた前の穴を指だけで愛撫し、私を何度も絶頂に導いた。
でも肛門を愛撫していたときの情熱が感じられず、それはあくまで機械的な作業のように見えた。そんななおざりな愛撫でイカされるのは嫌だなと思ったけど、どうしようもなかったのを覚えている。
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