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大智君のご両親とも相談して、私は次の土曜日に今住んでるアパートを引き払い、同居生活を始めることになった。入籍は大智君が教員採用試験に合格してから。
新潟県に住む私の両親には、日曜日の夜、大智君の部屋から電話で報告した。母は驚いていたけど怒ってはいなかった。
「よかったじゃないの」
「事後報告みたいになってしまってごめんなさい」
「死ぬまで一人で生きていくって七年間ずっと聞かされてきたからね、そうなるよりはずっといいわ」
母は笑ってさえいた。隣で聞いているはずの父も喜んでくれてるのだろうか。
「勝又大智さんだっけ? その人はどんな人なの?」
「五歳年下の大学生。来年卒業で、今年教員採用試験を受験して合格したら来年から高校の先生になる予定。今回は同棲だけで入籍はまだだけど、彼が試験に受かったら入籍もすることになってます」
「詩音は大学中退といっても実質高卒と同じ。年も五歳も年上なのによくあなたでいいって言ってもらえたわね」
「それは私も気にしてたけど、彼がそんなことは気にするなって言ってくれて」
「いい人なのね」
「うん。最高にいい人」
なぜか母は年齢差にこだわった。
「五歳年下ということは詩音が高校一年のとき相手の人はまだ小学六年、ランドセルしょってたわけね」
「そうだけど……」
「あなたが二十歳のときは十五歳、中学三年生」
「何を言いたいの?」
「七年前、どうして新潟から出ていかないといけないのとあなたに聞いたら、〈おつきあいした相手が……〉と言い出したけど、それ以上教えてくれなかった。交際相手が既婚者だったというなら詩音は奥さんに慰謝料は請求されるけど、街を捨てて逃げてくほどのことでもない。交際相手がヤクザとかそういう人たちで、別れたくても別れてくれないということだったなら、警察に相談して守ってもらえばいい。でも詩音は絶対に警察には言わないでと私たちを止めた。詩音、あなた大智さんと七年前から恋仲だったんじゃないの? その頃あなたは二十歳になったばかりと言っても法律上は大人。十八歳未満の子どもとわいせつな行為をして捕まる大人はたいてい男だけど、同じことをすれば実は女だって捕まる。もしそういうことだったとするなら、当時謎だったことが全部解決するんだけどね」
「大智君と知り合ったのはこっちに来てからで……」
「どうだか。まだ大学を辞める前に詩音が一人暮らしするマンションに行ったとき、タバコを吸わないあなたの部屋にタバコのにおいがこびりついてたし、ゴミ箱には使用済みの避妊具が何個も転がってた。高校の三者面談で成績も真面目さも学年でトップですよって先生に褒められた詩音がそんなことになるなら、一人暮らしなんて認めなければよかった。うちから大学まで電車で片道二時間弱かかるけど、通えない距離じゃなかったしね」
「突然大学を辞めたことは申し訳ないって思ってる。でもそれは今言わないといけないことなの? 今隣に大智君もいるっていうのに」
「そばに大智さんがいるなら代わってちょうだい」
代わった大智君に変なこと言われても困ると思ったけど、ここでガチャ切りするのも、それはそれで大智君を不安にさせると思って、スピーカーフォンにして、通話内容が私にも聞こえるようにした上で、スマホを彼に手渡した。
「はじめまして、勝又大智です。申し訳ありません。本当ならこちらから出向いて挨拶しなければいけなかったのに」
「詩音の母です。どうしてか七年前から詩音がこっちに来たがらなくなってね、挨拶はこっちから出向くので大丈夫」
「ありがとうございます」
「大智さん」
「はい」
「詩音は五歳年上といっても、精神的にはあなたよりかなり幼いと思う。いろいろ失敗もするでしょうけど、温かい目で見守ってもらえますか」
「僕もまだ学生で頼りない人間です。不完全な者同士支え合って生きていきたいと考えてます」
「ありがとう。よろしくお願いしますね。主人に代わっていいかしら?」
「どうぞ」
とっくに代わったはずなのに、一向に父の声が聞こえてこない。
「大智さん」
「はい」
「そっちに行ったら一発殴らせてもらっていいか」
「十発でも百発でも」
「一発でいいんだ。でも将来君が詩音と別れると言い出したら、僕は絶対に君を許さない」
「お父さんのその言葉、一生肝に銘じます」
大智君の返事を聞いて、また涙が溢れ出した。四人の中で泣いてるのは私だけ。母の言うとおり、私が大智君より精神的にかなり幼いのは間違いないことのようだった。
七年前、夏休みが終わった頃、見ず知らずの女が二人マンションに訪ねてきた。女といっても私服姿だから分かりづらいけど二人とも高校生くらいか。でも私に高校生の知り合いなどいない。
「どちらさま?」
「隣の子は広田豪君の彼女。あたしはその友達」
豪は二年後輩組で、私が童貞でなくしてあげた四人のうちの一人。
彼とは夏のあいだに三日デートした。女を覚えたばかりだから仕方ないけど、部屋で二人きりになったあとは必ず朝まで十回以上私を抱いた、そんながっついた男だった。
何かの間違いだろうと思いながら、とりあえずドアを開けた。
「西木詩音さんですか」
「そうだけど」
「N大の二年生?」
「うん……」
どこまで私のことを知ってるんだろう? 二人の女の意図が分からず薄気味悪かった。豪の自称彼女の友達という女が畳み掛けてきた。
「いくら勉強できたって、頭クルクルパーじゃしょうがないんじゃないの?」
「なんで初めて会ったあなたたちにそんなこと言われないといけないの?」
「あんた、豪君たちになんて言われてるか分かってるの?」
「知らない。教えて」
「ヤリ捨てされてもしょうがない女って便利でいいよな、だってさ」
「まさか! 人を売春婦みたいに……」
「あんたさ、頼まれたらイヤって言えないなら、売春婦扱いされてもしょうがないよね?」
目の前が真っ白になった。姫、姫ってあんなにちやほやしてくれたくせに。おれを一番に選んでほしいって、みんな会うたびに言ってたくせに。
次に口を開いたのは自称彼女だった。
「あたしは豪と未経験同士で結ばれるのが夢だった。でもあなた相手に童貞を捨ててたことを最近知った。豪本人を問い詰めたら、あなたとのことは浮気じゃない、風俗で女買ったようなもんだって開き直られた。浮気も許せないけど、開き直られたのがもっと許せなくて、彼とは別れた。でも元はといえばあなたが豪とセックスしなければこんなことにはならなかった。一言文句言ってやろうと思って、あなたに会いに来たってわけ。もう用はないから帰る。さよなら、売春婦さん」
竜星に電話してそのことを全部伝えると、確認してすぐ折り返すとのことだった。それから一時間後もしないうちに、竜星は会う予定の日でもないのにわざわざ私に会いに来て、報告してくれた。
竜星の報告は要約するとこんな感じ。
豪の自称彼女はただのストーカーで、彼女でもなんでもない。豪の好きな女はあくまで私一人。でも今回私に嫌な思いをさせたことを反省し、当分のあいだ謹慎し私にも近づかない。
それから竜星は優しく私を抱いてくれた。愛撫されて心の中を真っ白にされて、私の不安と憤りはすでにすべて溶けてなくなっていた。珍しく焦らされることなく挿入してもらえた。私は竜星にしがみつき、愛してると叫び続けた。
おれも詩音を愛してると竜星に言われた瞬間、私は絶頂に達した。三ヶ月ほど前に竜星に処女を捧げてから、十二人の男たちに毎日のように抱かれながら絶頂感を与えられ続けてきたけど、今の瞬間が今までで一番気持ちよかったと思えた。
私がもっととせがむと、
「おれだって詩音がもっとほしい」
と耳元でささやいて、いつもクールな竜星が今まで見せたことなかった荒々しさを見せて、激しく私を抱いた。
気持ちいい、愛してる、気持ちいい、愛してる……
私はうわ言のようにそう繰り返しながら、絶頂の海に漕ぎ出してそして溺れた。
中に出すよと言われて、うんと答えた。その日、竜星は私にせがまれるままに五回も私の膣を精液で汚した。確かにその日、危険日ではなかった。でも今度こそ妊娠すればいいと心から願った――
結局私は竜星の報告を信じ、豪を気の毒に思っただけだった。