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両片思いをこじらせている二人の話。

37話

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2022年05月16日

#青春恋愛#コメディー#甘々

第37話 「終わりと始まり」

「責任感とか、友達だからとか、そんなのどーでもいいんだよ。だって、俺は――」

続く言葉は一瞬のはずなのに、夏実にはとても長い時間に思えた。

「――ずっと桜木が好きだった」

「……え?」

言われた言葉そのものが、夏実の脳内に届くまでに時間がかかったからだ。

「あの日だって……責任がとか色々言ってたけど、そんなのほんとは……二の次で……ああ、これなら……付き合う理由ができるって思って……」

「あ、え」

「今だって……他人から見たら、落ち込んでる子につけ込むようなもんだし……しかも、別れたばっかのヤツが傍にいたって……いい気分じゃないよな」

言いながら、京輔は小さく笑う。

「でも、桜木のこと好きなんだ。好きな子が落ち込んでるの、遠くで見てるだけなんて……嫌だ」

笑っているのに――京輔が缶を握る手に、力が篭ったのがわかった。

まるで――怯えているように。

何に、怯えているのか。

「無理して……何でも話してほしいわけじゃない。だから桜木が嫌じゃないなら――」

「――待って!」

ようやく、夏実は言葉を発することができた。

勢いよく出た声に、京輔が固まる。

「あたし……こんな……心配してもらえるよう人間じゃない……」

好きだと言われた。

責任感でも、友達としてでもない。

傍にいたい人として、好きだ、と。

だからこそ、夏実は黙っていられなかった。

「桜木?」

「あたしが、何で別れようって言ったかわかる?」

その問いに返事はなく、京輔は夏実を見つめるだけだった。

「あたしは――その他大勢になりたくなかっただけなんだよ」

京輔に彼女ができるたびに傷つきながらも、「自分は女友達。すぐに別れる彼女たちとは違う」と思い込もうとした。

「篠塚がどんな気持ちなのかとか、自分の気持ちとか――そんなのより、自分の立場が大事だっただけ。だから……篠塚の彼女になれて嬉しかったけど、ずっと怖かった」

「……っ」

京輔が何か言いかけるが、すぐに口を閉じる。

「いつか別れるくらいならって……あたしは保身を取った。自分の都合で、別れようって言った」

「……お前が、彼氏を捨てたのか。夏実」

父親の言葉が、夏実の頭をよぎる。

「あたしは――卑怯だ」

缶を持ったままの手が震える。

喉が潰れそうなくらい苦しい。

こんな汚い自分を、京輔はどう思うだろうか――

「――どうして、その他大勢になりたくなかったんだ?」

「……え?」

突然の問いに、夏実は目を見開いた。

どうして――そう返されて、咄(とっ)嗟(さ)に返事ができない。

「――俺のこと、好きだからじゃないのか?」

嬉しそうでもあり、それでいて不安そうでもある――そんな複雑な表情で、京輔はまっすぐ夏実を見つめる。

「す、好きな人にとって……他の人と違う、特別な立場になりたいって……そう思うのって、そんなに悪いことか?」

「っ」

「俺は……そうは思わない」

「篠塚……」

急に色んな情報が溢(あふ)れ、自分が何を言えばいいのかわからなくなっていた。

「けど……俺の勘違いかも、しれないから……桜木の本当の気持ち、聞かせてほしい」

「で、も……」

「俺は、もう言ったからな! 今度はそっちが正直に言って! 俺がどうとかはどーでもいい! 桜木の、本当の気持ちを――知りたい」

期待するような眼差しには、やはりどこか不安も見え隠れしている。

――言っても、いいんだ。

夏実は、今までのことが嘘のように――そう思うことができた。

「あた、しは……」

唇も、声も、震えているのがわかる。

まだどこかで、怖い気持ちが消えない。

(でも、伝えなくちゃ――)

夏実は覚悟を、決めた。

「あたしは篠塚が――京輔が、ずっと……好きでした……!」

「!」

顔が熱い。

夏実を見つめる京輔の表情が――みるみる幸せそうに緩んでいく。

「……気を遣ってとかじゃ、ないんだよな」

「うん……」

「ホントに……そう思ってくれてたんだよな」

「うん……高校のときから、ずっと……」

「!? そ、んな前から!?」

「そ、そうだよ……!」

「っ……んだよ……ほんと……もっと早く……言えばよかった……」

「!」

ほっとした声と同時に、京輔は夏実に腕を伸ばし――抱きしめる。

あたたかい。

缶をベンチの端に置き――自然と、夏実の手は京輔を抱きしめていた。

しばらく抱きしめ合い――ふと身体が少し離れる。

「っ」

――顔が、思ったよりも近い。

「――夏実」

呼ばれた名前が、身体中に甘く響いた。

「……キス、してもいい?」

「! こ、ここで?」

「すぐ、離すから」

「……」

真剣な目に射すくめられ――答えるように、目を閉じる。

同時に、京輔の気配が近づき――

唇が、触れた。

いつかのキスのように長いものではなく、ほんの少し触れただけで、気配は離れていった。

「――ありがとう」

目を開くと、頬を染めた嬉しそうな京輔の顔が見つめる。

「……あたしたち、今まで何してたんだろうね」

「……ほんとにな」

「でも、お互い様……だよね」

「いや……俺がだいぶ悪い」

「そう、かな。何にしても、これから……だよね。あたしたち」

申し訳なさそうにする京輔だったが――ふと、再び表情を引き締めた。

「だな。これから……しなきゃいけないこともあるし」

そう言って、京輔の真剣な眼差しで夏実を見つめるのだった。

次回へつづく。

両片思いをこじらせている二人の話。

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