テラーノベル
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目に飛び込んできたのは、まばらに穴の空いた白い天井だった。消毒液の匂いがつんと鼻を刺し、次の瞬間、少年は自分が“病院のベッドで寝ている”ことを何となく理解する。しかし何故だろう、頭に霧がかかったように、それ以外のことを思い出せない。
わけも分からないまま動けずにいると、病室のドアがガラガラと開いた音がした。そちらを見ると、長い黒髪に美しい顔立ちをした女が、自分のことを驚いたように見つめていた。
「………君、目を覚ましたの?」
声が低く、そこで少年は、目の前の人間が、女ではなく男であったのだと理解した。
「こんにちは、ボクは田代 夕。君は、自分が誰だか、わかるかい?」
少年は自己紹介をしようとして、黙った。……自分の名前が、わからないのだ。名前だけではない、自分に関する何もかもが、わからない。
「君は自分に関することを、思い出せない……違うかい?」
「……はい。」
「そうなんだね。いや〜、参ったな。まぁ、とりあえず、君の目が覚めて良かった。なんたって君は、犯人の顔を見たかも知れない、唯一の生き残りなんだから。」
夕と名乗った男が何を言っているのかわからず、少年は固まったまま、彼の顔を見た。夕は少年にほほ笑みかける。
「おにーさんといっしょに、記憶を取り戻して……君たちを地獄に落とした悪魔をとっ捕まえようね。」
冷え込んだ夜だった。服の隙間から流れ込む風が、少しずつ、体の熱を奪っていく。寮が並ぶ道の真ん中に、海斗は、ぽつんと立っていた。
「ごめんね、こんな夜中に呼び出しちゃって。」
みずなは細心の注意を払い、海斗と適切な距離を取りながら、少し声を張って尋ねた。
「話って、何ですか。」
「うーん、何だろうね。心当たりはある?」
「全くないです。」
「嘘はついちゃだめだよ。」
不思議な感じだ。この男のような、何を考えているのかさっぱりな人間と話をするのは、あまり好きではない。彼の心を読もうとすればする程、こちらの心まで見透かされているような感じがして……類は友を呼ぶ、とは言うが、彼とは友人になれる気がしない。
「僕は嘘をつくのが得意じゃないけど、嘘を見破るのは得意なんだ。」
「いや、本当にないんですけど……。」
「………そっか。口を割る気がないのなら、僕から言うしかないみたいだね。単刀直入に言うと、何でもするから、僕の過去の事を誰にも言わないで欲しいんだ。」
「……過去の事?すみません、本当に何の事だか………。」
「さっきから言ってるけど、とぼけても意味ないよ。僕は知ってるから。ミズナくんに性癖異常者だなんて言われて、悲しかったな。」
みずなはため息をついた。どうやら、この男に、隠し事はできないみたいだ……覚悟を決めて、口封じの提案に乗るしかない。
「何でもする、って……具体的には?」
「文字通り、何でもさ。お金が欲しい?それとも何かの情報?君が誰かを殺して欲しいと言ったら殺すし、僕に腹を切って欲しいと言ったら、死なない程度に腹を切ろう。毒の件を誰にも言わないことを条件にね。」
「……お言葉ですが、縷籟警軍学校に、そこまで命を張る価値があるとは思えませんが。」
「あるんだ、それが。ほら、何がお望みかな。」
みずなは暫く、黙り込んだ。そんな急に何でも叶えると言われても、上手く思いつかないものだ。知的好奇心が人一倍高いみずなにとって、情報というのは、実に魅力的だが……海斗が一夕一朝で特定できるようなものに、今知りたい情報らが含まれているとは、到底思えない。
「……決めました。」
「うん、何かな。」
「ササメ先輩をいじめて、毒を盛った目的を教えてください。教えていただければ、誰にも話さないと、約束しますよ。」
「……えっ?」
海斗は少し拍子抜けしたように、高い声を上げた。みずなは海斗をまっすぐ見たまま、続ける。
「カイト先輩の事情もよく知らない僕が、性癖異常者だと頭ごなしに批判してしまったこと、謝らせてください。僕はカイト先輩が何を考えているのか、知りたいと思った。」
嘘だ。こんな性癖異常者に下げる頭などない。ただ、わざわざリスクを冒してまで、ささめを傷つけた理由は気になる。
海斗を見ると、まだ混乱している様子だった。無理もない、腹を切る覚悟をして来たのに、頼まれたのは過去の思い出話だったのだから。
やがて海斗は、少し照れ臭そうにしながら、口を開く。
「僕は、ササメくんに、恩返しがしたかったんだ。」
「………恩返し?」
「うん。初めてだったんだ、虐められてる時、誰かに庇って貰えたのは。僕は嬉しかったし、かっこいいササメくんのこと、好きになっちゃったから……ササメくんにも、同じ思いをさせてあげようと思った。」
「……はぁ、なるほど。」
「引いてない?」
「引いてないですよ、決して。」
嘘だ、物凄くドン引いている。何が恩返しだ、むしろ、恩を100倍くらいの仇で返しているではないか。
「毒を盛ったのは……なんでだろう、僕にもよくわからない。ただ……僕が盛った毒だと知らず、血と胃袋の中身を吐きながら僕に縋るササメくんは、馬鹿で、惨めで、滑稽だった。」
「それに興奮したんですか?」
「ううん、がっかりしたよ。ササメくんは毒に強いから、平気な顔して耐えてくれることを期待していたのに。」
「致死量以上の毒を盛って、それは理不尽というか……。」
「うーん……ミズナくんは、蛞蝓に塩をかけたことはある?」
「何ですか、急に。ないですよ。」
海斗は「ないの?変わってるね。」と驚いたような顔をする。世の中の人間の大半は、そんなこと、したことが無いと思うが……彼がズレているのだなんて、今に始まった事ではないため、みずなは必死にスルーをした。
「蛞蝓が塩で縮むだなんて、子供心にはわくわくするよね。本当に縮むのかな?半信半疑のまま縮むことを期待して、実際に縮んだら、すごく嬉しいでしょう?」
「だから、やった事ないので……。」
「でもね、僕の蛞蝓は、縮まなかったんだ。そんな感じだよ。逆に縮まないほうが悪いとは思わない?だって、生物として、塩で縮んでこその蛞蝓なんだから。」
「つまり先輩は、ササメ先輩が毒に強いという言葉を聞いて実際にやってみたくなった、ということですか?そして、実際は毒で倒れたササメ先輩を見て、落胆したと。実験が失敗した感覚に近いんですかね。」
「そう言われると、なんか相当悪い事してるみたいだな。間違っては無いんだろうけど。」
どんな言い回しをしたところで、海斗のやった事は、相当悪い事である。やはりこの男は、人間として備わっているべき物が、どこか決定的に欠けているような気がする。己の利益のため、いや、利益なんて立派なものではない。好奇心のため、興味のため、愛する人を簡単に陥れ、傷つける。それが悪い事だという自覚はありながらも重くは受け止めず、罪悪感も抱かない。
海斗はとことん、自分の母親に似ている。愛を言い訳に、ずっとみずなを監禁して、女として育てた母親に。監禁されていた当時、みずなは、母親のことが好きだった。外に出て初めて、自分の母親が異常で、自己中心的な者だったと気がついた。
ささめが気の毒でならなかった。彼は幸せそうだが……自分がいるのは海斗の掌の上であると知ってもなお、幸せでいられるのだろうか。悍ましい現実を知らないまま感じる幸福は、膨らむごとに、自分の人生を圧迫していく。
この幸福は偽物であると逃げ出してから、ふと振り返ってみると、それは現実よりも恐ろしく、歪な形をしていたことに気がつく。
「……納得しました。つまりカイト先輩的には、ササメ先輩は蛞蝓に見える、ということですね。」
「……うん………。うん?いや、絶対違うよね。」
「冗談です。それでは、僕はこれで。」
少し気分が悪くなってしまった。母親のことを思い出したからだ。今すぐ部屋に戻って寝たい。
「うん、君が満足したなら、それでいいよ。」
みずなは海斗に背中を向けて、こつこつと3年寮に歩を進める。途中、「パチン」という音が背後から聞こえたような気がするが……気のせいだろうか。みずなは気にせずに、そのまま進んだ。
その時だった。背後から、恐怖に全身の毛が立つ程の凄まじい殺気を感じて、みずなは思わず振り返る。
「……っ!」
刃物は、みずな脇腹すれすれの空を突いた。咄嗟に蹴り飛ばそうと足を伸ばすが、海斗はすっと避けて、みずなの腕を掴む。
「ごめんね、でも悪く思わないで。僕には会わないというコンくんとの約束を守らなかった君が、これを黙っていられる保証なんて、何処にもないでしょう。」
「……殺すんですか?」
海斗は答えなかった。真顔のまま、じっとみずなを見つめている。起こり得る事の中でも、これは最悪だ。しかしこんなことは、とっくに想定済みである。
するとその時。やけに平気そうな顔をするみずなが面白かったのか、海斗は突然、笑い出した。そのまま腕を離して、ナイフを地面に捨てる。
「ごめんごめん、冗談だよ。こうやってすれば、君は約束を守れると思った。」
「……だと思いましたよ。貴方、本当に嘘が下手なんですね。」
「そんなにわざとらしかったかな?」
「ええ。あと、僕はコン先輩との約束、破ってませんよ。いや、破ったは、破ったのですが……。」
みずなは道の端に並ぶ、大きな花壇に目をやった。海斗がそちらを見ると、花壇の裏から、紺がひょこっと顔を出す。
「……なんだ、コンくん、いたんだ。」
「うん、ミズナから、カイトに呼び出されたからこっそり同行してほしい、って。あ、ササメも一緒だよ。」
「……は?」
海斗の腕が、間違いなく、地面のナイフの方向に伸びた。紺は咄嗟に訂正する。
「ごめん、冗談。カイト……寒いだろうけど、そもそも呼び出したのはカイトなんだし、もう少しだけ付き合ってもらうよ。」
「えっ?何かな。」
紺は膝の土を払いながら、みずなの横に立った。そして、海斗の顔を真っ直ぐに見て、言う。
「カイト。べらべらとササメに対するお気持ちを暴露してもらったところで悪いんだけど、頼みたいことがある。これは俺たちだけじゃない、ヒナタとジュン先輩からのお願いでもあるんだけど……カイトにしか、できない。
そして、先に言っておくんだけど……これを断った場合、即、ヒナタにいじめのことチクることにした。拒否権、ないからね。」
「それは大変だ。随分とコンくんらしい、まっすぐな脅しだね。」
「俺たちは何も、カイトがやったことを黙認してる訳じゃない。でもカイトが、貴重な人材であることに変わりはないから。」
「弱みを握って脅して、組織の役に立たせようと。」
「うん、そういう事。もちろん、従ってくれたら、捨てはしない。」
「そういう事なら従うよ。で、僕にしかできない頼みって、何?」
「それは………」
紺の口から出てきた言葉は、海斗の想定通りのものだった。なんだ、そんな事か……海斗は先程の揉み合いで浮いた帽子を深く被り直してから、にっこりと笑う。
「うん、わかった。君たちの役に立てるように努力するよ。」
海斗はおかしな奴だが、話の通じない奴ではない、嘘もつかない。圧倒的な弱みと悪さができぬ程大きな後ろ盾を用意すれば、あっさりと従うような、割り切った潔さがある。
話が終わったので寮に戻ろうと、誰からともなく、扉に向かった時。ぱたぱたと、駆け足でこちらに向かってくる足音が聞こえた。
「……みんな、いた。目が覚めたら家に誰もいないから、すごくびっくりしたよ。」
ささめだった。上着を着ずにワイシャツのまま外出してきたようで、とても寒そうにしている。海斗は自分の上着を脱いで、ささめの肩にそっとかけた。
「ササメくん、そんな格好で外に出たら、寒いでしょう。もう、だめだよ、ちゃんと上着着ないと。」
自分の帽子まで被せて、海斗はささめの腕を引いて、足早に寮のドアに向かう。
「カイト、自分にこんなにかけたら、今度は君が寒くならない?」
「僕は平気だよ、寒いのには慣れてるから。」
「……そっか。」
取り残された紺とみずなは、顔を見合わせた。
「今のカイト、お母さんみたいだったね。」
「…………。」
「ごめん、家庭環境に配慮するの忘れてた。」
「もういいですよ。コン先輩のそれにも、慣れましたから。」
みずなは呆れたように、2人の後を追う。取り残された紺はとぼとぼと、少し減った腹を擦りながら、寮のドアに向かって歩き出した。
「おれの殺し方を訊かれた?」
灯向が、部屋中に響くような大きな声をあげた。徇は頷くと、少しだけ眉間に皺を寄せながら、話しにくそうに言葉を絞り出す。
「オトギリは親会社の命令で動いていて、そのボス……言わば、社長だな。いーんちょを殺すと、その社長が喜ぶらしい。オレもいーんちょ程ではないが喜ばれると言っていたな。」
「……なるほど〜、4年生を疎ましく思ってるのかな?戦闘能力の低いボクはまだしも、キャプテンも姫もジュンちゃんも、犯罪者からしたら、脅威だからね。」
「オレをそいつらと一括りにするのはやめてくれ。」
いつも通りの4年寮。4年生たちが思い思いに話すのを、桜人は、端の方から気まずそうに聞いていた。
「あの……どうしてぼくが。」
「うーん、寝ちゃったトトの代わり。」
「えっ。」
灯向はクスクスと笑った。からかっているのか……桜人が困ったような顔をする。
「……悪いな、オギ。呼んだ理由は、やっと来た初任務について話すためだ。」
「わぁ……やっと行けるんですか。ありがとうございます!」
感想は、それしか出てこなかった。もうすぐ1年生も終わるというのに、桜人は、まだ1度も任務に行ったことがなかったものなので、少し不安に思っていたところだったのだ。
喜んだところで、桜人はふと、何かに引っかかった。任務の知らせのためだけに呼ばれた、訳がないのだ。自分以外の1年特待は皆、配布された書類で任務の事を把握していたのに……わざわざ呼び出されたということは、何かがあるのかも知れない。
そんな随分と察しの良い予想の通り、徇はまた少し話しにくそうに、桜人に切り出した。
「ただしオギには、今回の任務を、拒否する権利がある。1年生の初任務として派遣するには、少し危険だと、オレたちが判断したからだ。」
「概要を教えてくださいよ。」
「ああ、もちろん。オギの派遣先は、鄼哆王国……それだけでも危ないのだが、敵がどうやらオトギリの中でもかなりの精鋭らしくてな。」
「えっ。危険じゃないですか……。」
「そうなんだ。同行者はもちろんいる、だがあいつは戦闘能力が高いから、桜人がいなくても、不可能な任務ってことはない。だからお前が決めろ。」
「その同行者っていうのは。」
「サヌキだ。」
「えっ、カイト先輩って、戦闘能力高いんですか?」
そこまで口走ってから、桜人は、自分がだいぶ失礼なことを言っていることに気がついた。徇が苦笑する。
「ああ、サヌキは強い。特段、身体能力が高い訳でもないが、ウエポンの使い方と戦闘の立ち回りがとにかく上手いんだ。あとはまあ、現地に友達がいるようでな。そいつらも戦闘力になってくれるらしい。」
4年生からこんなに褒められるということは、本当に強いのだろう。普段は目立たない彼だが、能ある鷹は爪を隠すというやつだろうか。しかし言われてみれば確かに、よく言えば人を欺くような立ち回り、悪く言えば陰湿な戦いをしそうな雰囲気はある、完全に偏見であるが。
「……その任務、カイト先輩だけで実力が足りるなら、なぜ国の人は、ぼくまでにも、任務の命令を出したんでしょうか。国はどうやら人数不足、それに伴う実力不足により、警軍にとって不利な状況を強いているような雰囲気があるという話じゃなかったですか。」
「国が特待生を見捨てている事を前提とした物言いは不本意だが、まあ、一理あるな。……もしかしたら、オトギリの目的が“特待生の殲滅”なら、そろそろ、焦っているんじゃないか。」
徇の言葉を聞いた灯向が頷いた。
「彼らの具体的な目的はわからないけど、オトギリの標的が元々本職だった事実があるし、少なくともこの特待生への集中攻撃は、本職を潰すことへの繋ぎだと、おれは思う。」
「なぜこのタイミングで急に乗っ取りを始めたのかは、わからないけど……本職を潰すためにとにかく特待生の数をできるだけ減らしたがっている可能性があるってことだね。まあ、わからないことを考えてたって仕方がないけどね〜。」
「何を想定したところで、今オギを鄼哆に連れていくことが危険なのは変わりない。サヌキは強いが、他人を守りながら戦うのがあまり得意じゃないんだ。」
やめておけ……そう言われているような気がした。それでも桜人は、なんの躊躇もなく、笑顔で答える。
「いや、行きますよ、ぼくは。鄼哆だろうとなんだろうとへっちゃらです!自分の身は自分で守りますから、カイト先輩の足も引っ張らないように、頑張りますね。」
「そうだよね、コイツ、トトの弟だもんね。おれはサクラならそう言うと思ってたよ。」
灯向はまた笑った。彼はあまり、桜人が危険に晒されることを危惧していないようだった。
徇は渋い顔をしたが、本人の意思を尊重する他なく、静かに頷く。桜人は紙を受け取ってから、4年寮を去ろうと、階段へ向かう。
「あ、サクラちゃん。最後に、訊きたい事があるんだ。」
「はい!」
桜人を引き止めた夕が発したのは、予想外の言葉だった。
「君は……カドクラ ソウくんという人物に、心当たりはあるかい?」
桜人は目を見開いたが、次の瞬間にはいつも通りの顔で、「うーん、知らないです。」と苦笑した。
「そうか……知らないなら、いいよ。」
何かもわからないがとりあえず申し訳なさそうに、桜人は玄関へ続く階段を降りていった。
「……オギはカドクラのことを、本当に知らないのか?」
「サクラちゃんが知らないって言ってるんだから、知らないんじゃないかな……或いは、覚えてない、とかね。」
ドアの閉まる音を確認してから、少し疲れたように体勢を崩して、3人は思い思いに口を開ける。
「覚えてない?そんな事が有り得る?だって、同じ空間にいたジュンは、覚えてるのに。」
「わからないな、オレはずっと飛んでいたから……少なくとも、かなり高いところをな。」
「まぁまぁ、わからないことを議論したって仕方がないよ、だってそれは憶測の域を出ないんだから。今ボクらが受け止めるべきなのは、サクラちゃんが、「ソウくんという名前の人物には心当たりがない」って答えた事実だけだよ。」
「どういうこと?」
「それ以上もそれ以下もないってことさ。答えは誰にもわからない、ソウくんが、記憶を取り返した場合を除いてね。」
「まずはカドクラの回復が1番か。」
「うん、ボクと医者たちに任せて。」
もう夜も遅いから寝ようか……夕はそう言って、自室に向かっていった。
「……どうにも、気持ち悪いな。」
「うん。おれも。なんか……ソウが目覚めた事は大きな進歩で、おれたちなりに考察をしながら真相に近づいて行ってる感覚はあるのに、どうも踊らされてる感覚がするね。」
「……いーんちょ。お前は、仮にこの件が全て同一人物の犯行だとしたら、そいつを殺したいと思うか?………オレはまだ心のどこかで、あの縷籟警軍がこんな事をするはずが無いって思ってんだ。オトギリの存在は……縷籟にとって、本当に、脅威になると思うか?」
灯向は徇を見た。徇はこういう時、たまに弱気だ。
「……例え今起きていることが全て縷籟の為だったとしても、おれは許さないよ。オトギリも、それを雇ってる会社も、こんな任務を手配してる縷籟警軍も。」
「そうかよ。」
徇は何が面白いのか、笑った。縷籟の絶対的な規則を信頼し、同時に正していた立場として……彼は少し、弱っているのかも知れない。
「自分が思う正義を追求すればいいんだ。その為なら、何人殺したって構わない。おれはコンを傷つけた奴を許さない、関わった人間は1人残らず殺したい。縷籟警軍って、元々そういう仕事でしょ?」
「人聞きが悪いな……。」
2人はどちらからともなく立ち上がる。どこからともなく纏わり付く重い空気を無視したら、どこか気が楽になったような気がして、2人は目を合わせる事もなく階段をのぼっていった。
続く
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