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俺は、恋をした。

二つ上の先輩に。


知り合いの先輩の友達として出会ったのが最初だ。あの日、軽い挨拶を交わしただけなのに、不思議と視線が離せなかった。理由はすぐに分かった。先輩は、力は弱いけど、誰にでも頼られる強くて真っ直ぐだった。だけど驚くほど小さかったからだ。

身長は一四七センチ。

俺は一八五センチ。

この差は、きっと俺たちの立場の差でもある。


――だけど、目を奪われてしまった。


人混みの中では、いくら背を伸ばしても先輩を探せない。小さすぎて、影に隠れてしまうから。だけど、ふと見つけた瞬間、俺は一歩も動けなくなる。小さな背中が視界に映ると、どうしようもなく心臓が騒ぎ出す。

「おーい、何ぼーっとしてんだよ」

友人に肩を叩かれて我に返る。俺は慌てて首を振った。

「別に。、、眠いだけ」

それがいつもの俺の答えだ。無気力系男子、なんて言われるのは慣れている。でも、心の奥で跳ね回る鼓動だけは誤魔化せなかった。

先輩と話す機会は、意外と少なくなかった。共通の知り合いを介して一緒に帰ったり、学祭の準備で顔を合わせたり。

ただ、俺はいつも遠回しな言葉しか言えなかった。

本当は「先輩といるのが楽しい」と伝えたい。だけど口から出るのは「まあ、暇だから一緒に行くだけっすよ」なんて冷めた調子。

先輩はきょとんとした顔をして、笑う。

「そっか。じゃあ、これからも暇つぶしに付き合ってね」

その笑顔がまぶしくて、俺は俯いた。

アピールのつもりで出した言葉は、全部空回りする。

それでも先輩は気づかない。いや、気づかないふりをしているのかもしれない。どちらにしても、俺の気持ちは届かない。


――それでも、先輩と過ごす時間は、何よりも大切だった。


部活の大会の応援に行った日、先輩は小さな体で誰よりも声を張り上げていた。周囲をまとめる姿は堂々として、俺よりずっと大きく見えた。

「すげー、、」

思わず漏らした言葉を、誰にも聞かれなかったことに安堵する。

俺は誰よりも目立つ体格をしているのに、何もできない。声を枯らす先輩のほうがずっと強い。そう思うと、ますます惹かれてしまった。

「先輩」

帰り道、勇気を出して声をかけた。

「今日の応援、すごかったです」

先輩は一瞬驚いた顔をした後、にこっと笑った。

「ありがとう。一緒に応援してくれたらもっと心強かったんだけどな」

冗談めかして笑う声に、俺は返事ができなかった。

心臓の鼓動がうるさすぎて。

先輩は、俺の片思いに気づいていない。

きっと、これからも気づかない。鈍感な人だから。

でも、それでいいのかもしれない。

目の前で笑うその顔を見られるだけで、今は充分だから。

俺は眠たそうなふりをして、先輩の横を歩いた。


ほんとうは一秒でも長く隣にいたいくせに

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