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俺はよく、女の子を口説く。
冗談めかして、軽口を叩いて、笑顔で「世界一かわいい」なんて言葉を渡す。その一言でみんな喜んでくれる。女の子の前では、みんなをお姫様のように扱うのが俺の流儀だった。
困っていたら助けるし、すぐに褒める。優しくするのは勿論のこと。
その結果、周りからは「白馬の王子様」。
整った顔立ちも背筋の伸びた立ち姿も、その呼び名を後押しした。
「先輩って完璧ですよね」
「笑顔が素敵」
そんな言葉をもらうたびに、俺は優雅に笑って応える。
でも、本当は俺だってただの普通の男子に過ぎない。
女の子がいない瞬間ふざけるし、お調子者。
完璧な王子様なんて、つくられた仮面にすぎない。
それでもその仮面を好きになる子がいる。
「王子様みたいで素敵です!」
色んな子と付き合った。みんな、俺に夢を見ていた。こんな事したい、あんな事して欲しい、これではまるで「魔法使い」のようだった。
そんな俺が、恋をした。
一つ下の後輩に。
部活の後輩の教室に顔を出したとき、偶然出会った子だ。
最初の印象は「無愛想」。
笑顔を見せず、人と馴れ合うのが苦手そうなその後輩は、俺の軽口にも反応を示さなかった。
「君みたいに真剣にノートを取る子、初めて見たよ。真面目で素敵だね」
「、、はあ」
俺の完璧なアピールは、見事に空振りした。
「ちょっと〜聞いてる〜」
「すみません、よくわかりません」
「AI!?」
気づけば王子様ではなくお調子者でいた。
拍子抜けと同時に、不思議と胸が高鳴った。なんで、この後輩に恋をしたのかわからない。
それでも、何度も話しかけた。
花のように笑う女の子たちにはすぐ距離を詰められる俺が、その後輩には一歩も近づけない。どんなに優しい言葉を選んでも、どんなに気取った笑顔を向けても、後輩の反応は素っ気ないままだ。
けれど、不思議とやめられなかった。
体育館で一人、練習後も残っている姿を見かけたとき。
教室で黙々とノートを埋めている姿を見たとき。
誰よりも努力を積み重ねる横顔に、胸が熱くなる。
――ああ、この子は俺にとって、特別なんだ。
そう思った。
女の子はみんなお姫様のように思っていた。
けれど、この子には華やかなドレス。かっこいいドレス。
いや、違う。
努力をやめない、その姿は騎士みたいだった。
この子は騎士のように剣を構えている姿のほうが、ずっと眩しかった。
「君は本当にすごいね」
素直に伝えてみても、返ってくるのは「、、、別に、当たり前の事をやってるだけですから」
という言葉だけ。
その、当たり前を誰しもが平然にできない。
「素敵だね」
「、、そうですか」
俺のアピールは、やっぱり届かない。
想いは積もっていくばかり。
笑顔を見せないその人が、不器用なその人が、誰よりも努力するその姿が、俺を強く惹きつける。
みんなにとって俺は白馬の王子様でも、俺にとっての白馬のお姫様は、ただ一人。
彼女だけだ。
空回りし続けるこの恋も、悪くない。
だって、その度に君の姿を探してしまうのだから。
俺は君の王子様になりたい。