第7話 秘密
「今更戻ってきてなんの用かな、デリット」デリットは背丈よりも随分高い扉、そこに手をかけ開こうとする。その瞬間後ろから声が聞こえ振り返らずに、返事を返さずにじっとしていた。
「無視?昔はもっと可愛げがあったのに、今はもう私に口すら聞いてくれないんだね」此方に近づいて来てはデリットの肩から顔を覗き込む。デリットはため息を落としてそっと口を開いた「貴様がこの天界の中で最も狂ってる、ウィング。」そしてドアノブを握った手の上に手を重ねようとしてきたウィングから離れ、一定の距離を保つ、警戒した様子で。
「ヘリックがおかしくなったのもお前のせいだろうウィング、以前までお前に依存するような奴じゃなかったはずだ」周りの天使は誰も知らないこと。それはウィングがヘリックに対して何らかの魔術を定期的にかけている事だ。
「何が言いたいのかわからないよ、デリット」にっこりと笑う、その笑顔にはなにか裏があるようにしか見えない。
デリットは影ひとつないこの空間が気持ち悪いということもあるが、最も自分にとって嫌悪感を抱いていたものがこのウィングだ。こいつは光しかない(影ひとつない)この空間の唯一の影だとデリットは認識している。
「とぼけるな、他の奴らの頭が腐っているが故にお前に気づいていないんだろうが、お前はヘリックに洗脳魔法を掛けてるだろう。」その発言にウィングは先程まで顔に着いていたその笑顔が消える。デリットの方に歩みを進め近づいてくるだろう、デリットはジリジリと後ろに下がり、壁へと背をつける。そんなデリットにウィングは至近距離まで近づき、片手を壁に着いた。
「私はヘリックが大好きなのさデリット、分かってくれるかな」ふわりと靡く袖がデリットの肌を優しく撫でる、ゾワッと背筋が凍れば自分の腕を前に持ってきてその箇所を握りしめて。
「男同士の癖によく言うな、ウィング、このことを洗脳の解けたヘリックが知ったらなんて返されるんだろうな」引きつった笑顔を向ける、嫌でもこの空気に余裕は見せられない
「でも安心してデリット、昔は君のことが…」
「ウィング~!」ウィングが何か口にしようとした瞬間、ヘリックの声が廊下に響いた、俺らは其方を向けばウィングはにこりと笑った
「じゃあねデリット、ヘリックが私を呼んでるみたいだからそろそろ行くよ」壁から手を離しデリットに背を向ける、コツコツとなる靴音はどんどん離れていくだろう。
デリットは床に腰を下ろし後頭部を壁につけ、深いため息を零す。
ウィングが完全に去ったと思えば、突然上から逆さまでタムチャがデリットを見つめていた
「デリット弱いねー、あんなのに怖気付いちゃって、まぁたしかに気色の悪い天使だったよ」タムチャが向きを変えて足を床につける。左右非対称のツインテールを揺らせば笑みを浮かべ
「まぁ頑張りなよ、グランは堕天使様をせっかく期待してくれてるんだ、私たちを失望させないでね」デリットの胸ぐらを掴み顔を引き寄せる、クスクスと笑えば手を離し、デリットの腕を掴んで身体を起こす。
「なんでここまで来てくれたのかな、タムチャ」デリットは優しい声色へと変わる、背の低いタムチャに向けて柔い表情を向ければポケっとしたタムチャはデリットを見上げほくそ笑んだ。
「グランからデリットと行ってこいってさ、突然そんなこと言い出すからどうしたのかと思ったよ」タムチャは正面を向き直し、扉を足で思い切り開く。
「もちろん最初は我儘言ったよ、だってそりゃあ──こんな忌々しい天使が沢山いるんだもん」扉を開けた先は大図書館となっていて、本がずらりと並んでいる。そこには下級から一部中級天使が蔓延っていて、その図書館にタムチャは嫌そうな表情を浮かべながらデリットの後ろに隠れた。
突然入ってきた2人に驚いた表情を浮かべた天使達は手に持っていた本、座っていた席を立ち上がり、しばらくした後、なんの考えも無しに突然此方を襲ってくる。その様子にデリットは驚いて手のひらに魔力を溜める、そして攻撃しようと手を振りあげた時、後ろに隠れていたタムチャが前に出てきてフレイル型のモーニングスターを両手に持って勢いよくぶん回し、天使を消滅させる。
「グランに頼まれたのは天使の処理だよ、堕天使じゃ”慈悲の心”で天使を壊すことは出来ないだろうから、ってさ」タムチャは足首に魔法陣を展開させれば宙へと飛ぶ、モーニングスターを上手く天使の頭部に直撃させ、キャハハと高笑いを零しながら、大人数の天使を壊していくだろう。
デリットはクスッと笑い「皮肉だね」と一言落とす。そして大図書館の奥にある小さい、けど丈夫な扉に歩みを進めて、正面へと立つ。そこは何重にも魔法陣が掛かっていて、解くのは難しいだろう。
両手を扉にかざし黒い魔法陣を3つほど展開し、詠唱を唱え始める。すればタムチャを倒すために攻撃を繰り返してた天使達は視線をデリットに変えてそちらに向かって飛び回る。タムチャはそれがわかっていたかのように「だろうねぇ”!!」と言って天使たちが固まっていた床にでかい魔法陣を展開して「壊せ!!」と大声で叫び、天使達は円柱の結界に囲まれる。その中は魔力が密集していて、天使達はそれに耐えきれず、消滅するだろう
「キャハハハハ”!弱い、弱いなぁ、手応えがないよ君たち天使は!!」あれだけ沢山残っていた天使達はタムチャの手によって全て壊されてしまった、つまりここには残ったのは2人の悪魔と本だけとなる。
「久々に暴れたけど手応え無さすぎ、これが下級天使?悪魔でももう少し強いよ」タムチャは床に足をつき、魔法陣を解く、詠唱を唱えているデリットの横の壁に背をつけて足を伸ばして座り、モーニングスターを地面に置く。
…
しばらくして、結界が破れそうなその時、突然地面から莫大な聖力を感じた、タムチャはその場から立ち上がりデリットの後ろにしゃがんで床に手を着く。「守って」と呟けば魔力で生成された結界が床に出来て、地面から伸びる複数の槍を抑える。共に拍手の音が鳴り響いた
「素晴らしいですわ貴方達…」
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