テラーノベル
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十二月、都内、某フレンチレストランの個室で、俺とエミリは尊と向かい合って座っていた。
俺は三十三歳になり、エミリは二十六歳、尊は三十歳になった。
『こちらが丸木エミリさん。俺の恋人だ。結婚するつもりでいる』
俺が尊にエミリを紹介すると、彼は会釈した。
『速水尊です』
淡々と挨拶した尊に、エミリはニコッと笑いかける。
『エミリでいいですよ、尊さん』
彼女は初手からグイグイいき、案の定、尊は少し戸惑っている。
『……じゃあ、エミリさん』
『尊さんのほうが年上なんだから、呼び捨てにしてください』
『……未来の義姉になるなら、もっと砕けた話し方でもいいけど』
そっけないながらも、尊は譲歩してくれる。
『ありがとう、尊さん』
彼女の社交的な性格のお陰か、ファーストコンタクトは上手くいったようだ。
順番に料理が運ばれてくる中、俺は二人に頭を下げる。
『変な事になってしまってすまない』
『……別に謝る事じゃないだろ。あの人が勝手に決めたんだろうし。いつもの嫌がらせの一環だと思えば大した事じゃない。……ただ、エミリには気の毒な事と思うけど』
尊はぶっきらぼうながらも、きちんと答えてくれる。
『あら、尊さん、私と結婚する気あるの?』
エミリの言葉を聞き、俺はポタージュに噎せる。
『ある訳ないだろ』
尊が大きな溜め息をつくと、エミリは『そうよねぇ』とケラケラ笑う。
『尊さんって彼女いるの?』
エミリが興味津々に尋ねると、彼はチラッと俺を見てから目を逸らし、言いづらそうに答える。
『…………気になってる人はいる』
それを聞き、エミリはにんまりと笑った。
『お節介はしないけど、尊さんの恋が上手くいくよう願ってるわね』
『ありがと』
そのあともエミリが話題を振りつつ、俺と尊は微妙な空気で食事を続ける。
『今日は三人の気持ちの確認のため集まってもらったけど、尊もエミリも結婚する気はなし、でいいんだね』
『当たり前だ。結婚相手まで勝手に決められて堪るか。……丸木さんはいい人だと思うけど、兄貴が幸せにしてやれよ』
尊の答えを聞き、彼が俺を兄貴と呼んでくれた事に、むず痒い気持ちになる。
その時、尊がまっすぐ俺を見つめて尋ねてきた。
『……母親の事、好きか?』
言われて、ドキリと胸が音を立てる。
『……どういう意味だ?』
彼の真意を測ると、尊は溜め息をついて言う。
『分かっていると思うが、俺は〝篠宮家〟に一筋縄ではいかない感情を抱いている。父についてはピアノを習わせてくれ、進学させてくれた事に感謝している。……だがそれ以外については、あいつさえしっかりしていれば、母は不幸にならなかったという恨みもある。……そう言ってしまえば、自分の存在も否定する事になるがな』
俺とエミリは尊の話を真剣に聞く。
『兄貴については、ずっと〝空気〟だったと思ってる。怜香さんに俺がいびられる中、家の中で誰も味方になってくれなかった。その意味では、当時の俺は兄貴の事も恨んでいたかもしれない。……でも今は、浮気相手の子供である俺をいじめなかった分、感謝すべきだと思ってる。怜香さんの気持ちも、ある意味正当性のある感情だ。誰だって夫や父親の浮気相手の子供が家にいたら、嫌な気持ちになるよな』
『……尊、俺は……』
何か言おうとした時、彼は手を上げて俺の言葉を制する。
『俺は一人の人間として幸せになりたいと思っている。……その前に、裁かれるべき人間との決着をつけ、自由になりたい。……俺はお前の母親を陥れるつもりでいるが、それでも構わないか?』
覚悟の決まった目で見つめられ、尊が水面下で〝何か〟していたであろう事を知った。
『裁かれるべき……という事は、母は罪を犯したんだろう。今まで家庭内で尊を虐待していた事だろうか? あれについては俺もやりすぎだと思ったし、俺自身見て見ぬフリをした罪悪感がある。だから、尊が証拠を揃えて訴えるというなら反対しない』
そう答えると、尊は視線を逸らして溜め息をついた。
それからまた俺を見て、重々しく告げる。
コメント
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ああ、このエピソードめっちゃ良かった…!エミリのグイグイ感と尊の淡々としながらも少しずつ心を開いていく空気感が絶妙だったわ。特に「兄貴」って呼んだ瞬間はグッときたし、最後の母親の話に向けての重い空気の作り方が上手すぎる。尊が「裁かれるべき人間」って言ったときの背筋の伸びた覚悟、そして兄が「反対しない」と返したときの二人の距離感…936話まで来て、まだこんなに心情を揺さぶってくるなんて。続きが待ちきれない🔥
臣桜
50,509
畝澄ヒナ
119
#短編
五來 小真
29