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さっそく読んでくれてありがとうございます✨ 言葉遣い・所作には本当に気をつけて書いているのでそこに気づいてくれるおかゆさん最高です!!! 続きですね!!おまかせください💪 このコメントみてアイデアがまた浮かんできました!!
最高です‼️😭勇作殿が生きていた世界線のお話とかガチ最高です。前の投稿でもお話しましたけど、時代背景や当時の女中さんの仕事?(役割?)をしっかりと捉えてて、言葉遣いとか、それこそ行動全てがThe・明治の人って感じがひしひしと伝わってきて、凄く読んでて物語そのものに引きずり込まれました😳この世界線の勇作様には、奥さんが居るので、女中さんとはどのような関係になっていくのかとても続きが気になります✨
日露戦争後,ある軍人さんを養子に迎えた.頭を撃たれたが奇跡的に一命を取り留め,その代償に記憶を失ったらしい.そんな彼をいつまでも軍に置いておくわけにもいかず養子として迎えてくれる名家を探していたところ,この家に白羽の矢が立った.
「おはよう.顔色が良くないようだが.」
「長雨のせいでしょうか,頭痛がいつもより酷くて.」
「後でお薬を用意させましょう.朝食も無理なさらず.」
「はい.ありがとうございます.」
旦那様と奥様とそんな会話をする側で,奥様は私に朝食が終わり次第お薬を用意するよう耳打ちされた.
「お薬をお持ちしました.」
彼の部屋のドアをノックしたのち,入室の許可が出たので入る.
「いつもすみません.」
「いえ.頭痛はお天気が悪い時によく起こるものです.私もたまになるんですよ.」
「そうなんですね.」
彼が薬を飲んでいる間にベッドの敷布をはがす.
「では一旦失礼いたします.ご用があればいつでもお声かけください.」
「はい.ありがとうございます.」
「お加減はいかがですか.」
10時にお茶を持っていくとベッドの上で本を読んでいる.
「おかげさまでだいぶ良くなりました.」
紅茶を飲む姿には気品が溢れている.
「いつも美味しい紅茶,ありがとうございます.」
「いえ,とんでもございません.」
「このお菓子もとても美味しいです.」
「そのお菓子は奥様の大好物なんです.」
「そうなんですね.こうしてお茶を飲んでいると….」
「いかがされました??」
「いえ.前にも誰かとこうしてお茶を飲んでいたような.」
「お友達,とかですか.」
「どうなんでしょう…やっぱり思い出せない.」
「そのうち思い出だせますよ.」
遠慮がちに笑う彼に一礼して,空になった器たちを下げ退出.初めて記憶の断片を話してくれた.誰かとお茶を飲むということがよほど彼にとって大切なことだったに違いない.
それから,旦那様の跡取りとなるべく勉強されつつ穏やかな日々を過ごしたある新年のこと.
「明けましておめでとうございます.」
「明けましておめでとうございます.お早いですね.」
「初日の出をここから拝もうと思いまして.」
正門に掲げる旗を持って石畳を歩いていると彼と一緒になった.
「左様でございましたか.夜中は雲が多くて心配でしたが,綺麗に晴れましたね.」
と旗を掲げようとしたところを支えて手伝ってくれる.
「毎年おひとりで掲げているのですか??」
「はい,先代の給仕係から引き継いでからずっと.」
「この旗結構重いですよ.」
「はい.でももう慣れました.」
「片付ける時,僕も手伝います.」
「いえいえそんな.お気持ちだけ頂戴しますね.」
そうこう話しているうちに朝日が昇ってきた.新年とはいえ自分にとってはいつもと変わらない朝.でも彼は朝日に照らされなびく旗を雷に打たれたかのように直立して見ていた.
「勇作様??勇作様,大丈夫ですか!!」
「すみません,立ち眩みが….」
倒れこみそうな彼を支え部屋へ急ぐ.他の給仕係とも連携し,旦那様へ報告.直ぐにかかりつけの先生を呼んだ.夕食前に鎮静剤を打って眠る彼の様子を見に部屋に入ると.
「進め!!とどまるときではな…い….」
大きい声が,だんだんか細くなる.そう言えば日露戦争経験者だったことをすっかり忘れていた.
「(旗を見ていたことと何か関係あるのかしら….)」
ずれている掛け布団をかけ直して部屋を出ようとすると.
「あにさま…??」
「勇作様…お目覚めですか??」
「すみません.おかしな事を言ってしまって….」
「いえ,お気になさらず. 」
お食事をお持ちしますね.と言い残し部屋を後に.念のためさっきのうわ言や旗を見ていたことを旦那様や奥様に報告した.
「どうやら彼は日露戦争で聯隊旗手をしていたようだ.」
数日後,夜遅くまで仕事をしている旦那様にお茶を持っていくとそう仰って,旗だけを持って真っ先に敵陣に突っ込み,兵士を鼓舞する人の事だよと付け加えた.記憶を無くす前の彼の情報は今後一切開示しないという約束で受け入れたので,兄弟のことは分からないとも言われた.
「(そんな状況でよく一命を取り留めたなんて….)」
誰もいない厨房で後片付けをしながら,思いを巡らす.彼が何故戦場の最前線でそんなことをしなければならなかったのか.
あれ以来うわ言は言わなくなったが,以前の記憶を断片的に思い出すようになっていった.
「ここに来る前の記憶がお戻りになったら,どうしたいですか.」
遅くまで仕事をしている彼に夜食を持って行った時に訊ねると,彼は啜った湯呑みを静かに置いて.
「兄に会ってみたいです.貴女のことを兄様と呼んでしまう程ですから,私にとって兄はとてもかけがえのない存在だったのでしょう.」
「その時は美味しいお紅茶とお菓子,たくさんご用意しますので,是非うちにお招きくださいね.」
「もちろんです.」
にこやかに笑う.いつの間にかお互いの仕事の手は止まり,ああしよう・こうしようと記憶が戻った時の話をするのに夢中になってしまっていた.