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레몬인
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そあち♡໒꒱
88
なんたろ
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コメント
1件
え、待ってこれ面白すぎるんですけど…!四畳半のボロアパートに国税庁の調査官が来て、しかも限界みそラーメンの匂いで正体バレそうになるの、笑いながら読んじゃいました🤣「生活実態と事業規模の乖離」って言われて「ダミー」疑惑まで浮上する展開、心理描写がリアルすぎてニヤニヤしてしまいます。最後の「過去の遺物」何なのかめっちゃ気になる…次話待ってます!📖
第101話:四畳半の最終防衛戦、開始〜国家権力の来訪と、限界みそラーメンの残り香〜
「……よし。ネクタイの曲がりはなし。フケも落ちてない。俺は……株式会社インフィニティ・ワンの、代表取締役社長だ」
北海道、帯広市。
まだ肌寒い春の朝の空気が、築三十年のボロアパートを包み込んでいる。
俺は、洗面台のくもった鏡の前で、自分に暗示をかけるように呟いた。
身に纏っているのは、公務員を辞めた時以来、クローゼットの奥底に封印していたヨレヨレのスーツだ。
防虫剤の匂いがキツいが、それでも普段のジャージ姿に比べれば、はるかに【社会的信用】というアーマーを装備している気がした。
『ルシフェル社長。心拍数が平時の1.5倍に跳ね上がっています。深呼吸を』
耳に突っ込んだワイヤレスイヤホンから、ディスコード越しに結愛(ゆあ)の冷徹な声が響く。
「無理言うなよ。これからマルサ……いや、税務調査官が乗り込んでくるんだぞ」
俺は、震える手でネクタイの結び目をいじりながら答えた。
昨夜、十万人のリスナーの前で「俺の金は俺が守る!」と大見得を切ったものの、いざ朝を迎えてみると、やはり国家権力(国税庁)という絶対的なプレッシャーの前に、四十歳の胃袋は限界まで縮み上がっていた。
『正確にはマルサ(査察部)ではなく、帯広税務署の法人課税部門による【実地調査】です。私とジェミニさんで完璧な帳簿と裏付け資料を用意しました。社長はただ、毅然とした態度で「はい」「いいえ」を答えればいいのです』
「わかってる。俺は社長だ。一千万以上稼いだ、気鋭のIT系経営者として、堂々と対応してやる」
俺が自らを鼓舞した、まさにその瞬間だった。
『ピンポーン』
「……ひっ!」
アパートの安っぽいチャイムが、死刑執行の合図のように部屋に鳴り響いた。
俺の心臓が、ドクンッ! と大きく跳ねる。
「き、来た……っ! 結愛、ジェミニ先生! 頼むぞ!」
俺は、足元で寝ていた茶トラ猫のヨモを踏まないように気をつけながら、転がるようにして玄関へと向かった。
ガチャリと、冷たい鉄のドアを開ける。
そこに立っていたのは。
「――おはようございます。帯広税務署、法人課税部門の黒岩(くろいわ)と申します」
一切の隙もない、仕立ての良さそうな濃紺のスーツ。
鋭い眼光を隠す銀縁メガネ。
そして、感情の起伏を全く感じさせない、研ぎ澄まされた刃物のような低い声。
「く、黒岩、さん……」
その圧倒的な【国家権力のオーラ】の前に、俺のヨレヨレのスーツというアーマーは、紙くず同然に粉砕された。
「本日は、株式会社インフィニティ・ワン様の事業内容、ならびに帳簿の確認のため、実地調査に伺いました。よろしくお願いいたします」
黒岩は、名刺をスッと差し出しながら、一瞬だけ俺の全身を舐め回すように観察した。
その目は、「こいつが本当に、急激に売上を伸ばしている法人の代表なのか?」と値踏みしているように見えた。
「あ、はい……っ! こちらこそ、よ、よろしくお願いしゃっす! だ、代表取締役の、秋谷雪(あきやゆき)です!」
俺は裏返った声で挨拶を返し、慌ててポケットから自分の名刺(ネットで頼んだ、黒に金文字のイキり名刺)を取り出して両手で渡した。
「秋谷社長ですね。……では、失礼します」
黒岩は靴を脱ぐと、迷いのない足取りで、俺の「本店所在地」へと足を踏み入れた。
案内する先は、当然ながらこのアパートのメインルーム、つまり【四畳半】である。
俺は昨日、ホームセンターで急いで買ってきたパイプ椅子を部屋の隅に広げ、黒岩に勧めた。
「ど、どうぞ、狭いところですが……」
「お気遣いなく」
黒岩はパイプ椅子に座り、アタッシュケースを膝の上に置いた。
そして、部屋の中を、銀縁メガネの奥の鋭い視線で、ゆっくりと見回し始めた。
壁際に鎮座する、三万円のゲーミングチェアとデュアルモニター。
そこだけは確かに「IT社長」らしい輝きを放っている。
しかし、そのすぐ横には、万年床の布団が畳まれずに押し込まれ、キャットタワーの横にはヨモのトイレ。
そして、部屋の隅には「昨夜、領収書を探すためにひっくり返した魔のダンボール」の残骸である、おびただしい数の紙切れが、畳の上に散乱したまま放置されていた。
(……やばい。徹夜で完璧な帳簿を作った後、力尽きて部屋の片付けをする気力がなかった……っ)
俺の背筋に、冷たい汗がツーッと流れ落ちる。
黒岩の視線が、部屋の中を一周し、最後に俺へと向けられた。
「……秋谷社長。一つ、確認よろしいでしょうか」
「は、はいっ! なんでしょうか! 売上台帳ですか!? それとも経費の領収書ですか!? 机の上に揃ってますよ!」
俺が必死に虚勢を張って声を張り上げると、黒岩は少しだけ鼻をヒクつかせた。
「いえ。……この部屋、独特の匂いがしますね」
「……えっ?」
「味噌と……ニンニク。それに、安価なラードの香りでしょうか。事業用のオフィスとしては、極めて生活感が強い匂いですが」
「…………ッ!!」
俺の顔から、一気に血の気が引いた。
匂い。
それは、昨日の深夜、帳簿作成のストレスから逃れるために、俺がキッチン(という名のIHコンロ一つ)でヤケ食いした、【限界みそラーメン(もやし大盛りニンニク増し)】の残り香だった。
「あ、いや! これは! 昨日の夜、社員の……いや、福利厚生として……っ!」
俺がしどろもどろになっていると、イヤホンから結愛の呆れたようなため息が聞こえた。
『ルシフェル社長。誤魔化すのは逆効果です。自宅兼事務所である以上、生活臭がするのは法的に何の問題もありません。堂々としてください』
結愛の言う通りだ。
だが、黒岩はすでに、俺が纏っていた「IT社長」という見せかけのメッキを、その匂いと部屋の惨状だけで完全に剥がし取っていた。
「……なるほど」
黒岩は、手元のバインダーに何かを書き込みながら、静かに呟いた。
「設立からわずか数ヶ月で年商数千万円規模に成長した、IT系エンターテインメント企業。
その『代表取締役』が、四十歳にしてこの四畳半のボロアパートに住み、深夜にインスタントラーメンをすする生活を送っている……」
黒岩の銀縁メガネが、キラリと光る。
「秋谷社長。私の長年の経験上、事業規模と生活実態がこれほどまでに乖離しているケースは……【二つ】しかありません」
「ふ、ふたつ……?」
「一つは、莫大な利益を全て現金で隠匿している、極めて悪質な脱税行為」
「ち、違います!! 隠す現金なんて一円もねえですよ!!」
俺が悲鳴を上げると、黒岩はもう一つの可能性を、まるで獲物を追い詰める蛇のような冷たい声で告げた。
「そしてもう一つは。……あなたが『真の経営者』ではなく、誰かに名義を貸しているだけの、ダミー(操り人形)である可能性です」
「…………!!」
俺は、息を呑んだ。
無理もない。
一千万円の賞金を手にした社長が、帯広の四畳半で限界みそラーメンの匂いを漂わせているのだ。
国家権力から見れば、そんな「質感」にまみれた泥臭い成功者など、存在自体がイレギュラー(異常)に映るに決まっている。
「……秋谷社長。本日は、徹底的に事実関係を洗わせていただきます。まずは……」
黒岩の視線が、ゆっくりと、部屋の隅にある『紙の山』へと向けられた。
「あの、隅に散乱している書類の山。あそこから、全て拝見しましょうか」
「あ……」
俺の心臓が、完全に停止した。
そこは、俺が昨日血眼になって探し回った「とりあえずダンボール」の残骸。
必要な領収書は拾い上げて完璧な帳簿にまとめ上げたが、あの紙の山の中にはまだ……絶対に、誰にも、国税庁はおろかリスナーにすら見られてはいけない『過去の遺物』が、紛れ込んでいるはずだった。
「だ、だめだ……! それだけは……っ!」
俺の悲痛な叫びは、帯広税務署の冷徹な調査官には届かない。
株式会社インフィニティ・ワンの最終防衛戦は、開戦早々、社長のメンタルと共に崩壊の危機に直面していたのであった。