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わあ……第102話、一気に読んじゃいました!秋谷さん、税務調査でまさかの黒歴史発掘のピンチとか、ドキドキしすぎて息が止まるかと思いました(笑)「完璧すぎる帳簿」と「魔のダンボール」のギャップ、そして猫のヨモちゃんのまさかの“暴露アシスト”に思わず笑ってしまいました……でも秋谷さんの必死さに感情移入しちゃいます。続き、どうなるんだろう……黒歴史、見られちゃうんでしょうか?
第102話:魔のダンボール、再開封〜完璧すぎる帳簿と、暴かれる原資〜
北海道、帯広市。
春の冷ややかな空気が漂う、築三十年のボロアパートの四畳半。
俺、株式会社インフィニティ・ワン代表取締役・秋谷雪(四十歳)は、三万円のゲーミングチェアの横で、冷や汗を滝のように流しながら直立不動の姿勢をとっていた。
視線の先には、ホームセンターで買ってきたパイプ椅子に腰掛ける、帯広税務署・法人課税部門の調査官、黒岩。
「……なるほど。売上台帳、経費の仕訳帳、ならびに総勘定元帳。一通り拝見しました」
黒岩は、銀縁メガネの奥の鋭い目を細めながら、机の上に積まれた分厚いファイルの束をパラパラと捲っていた。
俺の耳に突っ込んだワイヤレスイヤホンからは、裏回線に繋がっているアシスタント・結愛(ゆあ)の自信に満ちた声が聞こえてくる。
『ルシフェル社長、堂々としていてください。私とジェミニさんで構築したその帳簿は、法的な隙を一切排除した完璧な芸術品です。いかなる税務調査官であっても、あの数字の羅列から不備を見つけることは不可能です』
結愛の言う通りだった。
徹夜で仕上げたその帳簿は、白紙になったPCの領収書すら代替資料で完璧に補強し、一円の狂いもなく貸借が一致している。
「……いかがでしょうか、黒岩さん」
俺は、少しだけ胸を張り、引きつった笑顔で尋ねた。
「我が社の経理は、AIを用いた最新のシステムで管理しております。不正や申告漏れなど、一切ございませんよ」
黒岩は、ファイルをパタンと閉じ、ゆっくりと顔を上げた。
「ええ。確かに、数字上は完璧です。……完璧すぎますね」
「……へ?」
「一千万円を超える一時所得(優勝賞金)の処理から、法人成りに伴う資産の引き継ぎまで、税理士が作成したかのような見事な仕訳です」
黒岩の言葉に、俺は心の中でガッツポーズをした。
(勝った……! さすが結愛とジェミニ先生だ! これで実地調査はクリアだ!)
そう確信し、緊張の糸が解けかけた、その瞬間だった。
「ですが、秋谷社長」
黒岩の声のトーンが、一段階低く、そして冷酷なものに変わった。
「これほどまでに完璧な経理処理ができる『優秀なIT企業』が、なぜ、このような生活感とニンニクの匂いに溢れた四畳半をオフィスとし……」
黒岩は立ち上がり、俺の部屋をゆっくりと歩き始めた。
「そしてなぜ、このような『杜撰な書類管理』をしているのでしょうか?」
ピタリ、と。
黒岩の革靴が、部屋の隅で止まった。
彼が見下ろしているのは。
俺が「あとで整理しよう」と思い続け、コンビニのレシートから公共料金の明細、そして様々なゴミまでを無差別に放り込み、昨夜中身をぶちまけたまま放置されていた……
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레몬인
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そあち♡໒꒱
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なんたろ
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通称、【とりあえずダンボール】の残骸(紙の山)だった。
「あ……っ!」
俺の喉から、カエルが潰れたような短い悲鳴が漏れた。
「秋谷社長。帳簿というのは、あくまで『最終的な結果』をまとめた表に過ぎません」
黒岩は、銀縁メガネを中指でクイッと押し上げ、俺を真っ直ぐに射抜いた。
「我々税務調査官が本当に見たいのは、綺麗に整えられたエクセルの表ではなく……その数字の根拠となる『生(なま)の一次資料』です。つまり、日々の取引の痕跡が残る、こういった雑多な書類の山の中にこそ、真実が隠されているのです」
「ま、待ってください!!」
俺は慌てて黒岩と紙の山の間に立ち塞がった。
四十歳の身体が、かつてないほどのスピードで動いた。
「そ、それは違います! それはただのゴミの山です! 経費の領収書は全部そのファイルに綴じてありますから! そっちには、俺の個人的なゴミしか散らかってません!!」
『ルシフェル社長。極端な隠蔽行動は、調査官の心証を著しく悪化させます。あの紙の山は私が昨日ある程度仕分けましたので、見られて困るものは入っていないはずです。落ち着いてください』
イヤホンから結愛の冷静な声が飛んでくる。
確かに、経理に関するヤバい書類は残っていないはずだ。
だが、俺が恐れているのは「脱税の証拠」ではない。
あの紙の山の、一番奥底。
昨日、俺が白紙の領収書を探して中身をひっくり返した時に、奥底からチラリと見えた【ある紙切れ】の存在だ。
それは、俺がまだ何者でもない、絶望的な40歳のニートだった数年前。
某大手VTuberに向けて書き殴り、送信した……
『40歳高齢無職オタクの、惨めで痛々しい悩み相談メール』の、印刷した下書き(黒歴史)だった。
(あんなものを見られたら……! 脱税で捕まるよりも重い、社会的な、いや精神的な死を迎える!!)
「黒岩さん! ほんと、ただのゴミなんです! 見る価値なんて一ミリもありません!」
俺が必死に両手を広げて紙の山を守ろうとすると。
『にゃーん』
「うおっ!?」
足元から、茶トラ猫のヨモが突然飛び出してきた。
ヨモは俺の股をすり抜けると、見知らぬスーツの男(黒岩)に対する警戒心など微塵も見せず、そのまま【紙の山】のど真ん中にヒョイッと飛び込んだ。
そして、散乱した書類を、前足でワシャワシャと掘り起こし始めたのだ。
「ヨモォォォ!! バカ! やめろ!! 今すぐそこから離れろ!!」
俺の絶叫も虚しく、ヨモは「楽しいおもちゃ箱」を見つけたかのように、レシートやメモ用紙を次々と外に掻き出していく。
「……秋谷社長。猫の遊び場にするには、少し書類が多すぎるようですね」
黒岩は、ヨモが掻き出した紙切れの一枚を、スッと拾い上げた。
「あ……」
それは、電気料金の督促状だった。
「なるほど。完璧な帳簿の一方で、数ヶ月前の電気代は滞納の危機にあったわけですか。……ますます、この会社の『実態』に興味が湧いてきました」
黒岩の目に、税務調査官としての、獲物を絶対に逃さないハンターの光が宿る。
「く、黒岩さん、それは……っ」
「秋谷社長。税務調査において、どの書類が事業に関係し、どの書類が個人的なものかを判断するのは、あなたではありません。我々です」
黒岩は、俺の制止を完全に無視し、ズカズカと紙の山の前に歩み寄った。
「これより、ここに散乱している全ての資料、メモ、紙切れの一枚に至るまで。全て、拝見させていただきます」
「いやああああああああっ!!」
帯広の四畳半に、四十歳の代表取締役の、断末魔のような絶叫が響き渡った。
「だめだ! 奥底は見ないで! それだけは! 俺の尊厳が! 40歳のリアルな絶望が詰まってるんだよォォォ!!」
『ルシフェル社長? 経理データ以外の何にそこまで怯えているのですか?』
結愛の訝しげな声がイヤホンから響くが、俺には答える余裕などなかった。
黒岩の手が、容赦なく紙の山の中に突っ込まれる。
税金をごまかしたわけではない。
しかし、法人を設立し、IT社長としてイキっていた俺の、最も隠したかった『底辺の質感』が、今まさに国家権力の手によって白日の下に晒されようとしていた。
完璧な帳簿という防壁は、俺自身のズボラさが生み出した「魔のダンボール」の残骸によって、いとも容易く突破されてしまったのである。
四畳半の最終防衛戦は、最も恐れていた形(黒歴史の暴露)で、最悪のフェーズへと突入していった。