アタシやヘンタイメガネの部屋と造りは一緒だ。狭い1DK。
ただ角部屋なので玄関に収納が付いていて、お風呂に窓があるらしい。
それだけ聞くとちょっと羨ましく思えるが、この現状を目の当たりにするとちっともそう感じない。
ここはリアルなGM屋敷。
つまりゴミ屋敷。
あるいは|汚部屋《おへや》。
「なんでこんな暑いんだよ。もうヤだ。死ぬ」
山梨土産だろうか──えらく達筆で「風林火山」と書かれたTシャツの裾をパタパタして、有夏チャンがぼやいた。
その様をチラッと見た幾ヶ瀬の目が怖い。
明らかに欲情している。
このヘンタイメガネ、間違いなく変態だな。
インナーを着ていないから、Tシャツの裾から白い肌がわずかに覗いただけなんだがな。
ヘソも見えないくらいなんだがな。
なのに、ヘンタイメガネの眼ときたら!
血走っていてホント怖い。
だがアタシが思うより理性が残っていたらしく、彼はプルプル首を振ると、玄関先に転がるダンボールをたたみ始めた。
「そうだね、暑いね! でもエアコンのリモコンが出てこないんだから仕方ないよね!」
「本体にスイッチ付いてんじゃねぇの?」
「んー? このゴミための中で、エアコン本体までどうやって行くのかな?」
良かった、イヤミは健在だ。
良くはないんだが、この場合さっさと動く奴の手はありがたい。
ほら、玄関に積まれていた箱類が一瞬にして片付いたぞ。
あらためて、室内を覗いたアタシは「うわぁ」とため息をついてしまう。
短い廊下、それから部屋──見える範囲全部。
アマゾンの倉庫かってくらいダンボール箱が積まれている。
倉庫と違うのは箱が雑然と転がっていて、更に箱の中の緩衝材があちこちに散らばっていることだ。
幾ヶ瀬は入り口から順にそれらのダンボールを潰していっている。
壮絶な光景に見えるが、空箱なので片づけにはそれほど時間はかからない気はするな。
「いい、有夏? エアコン本体まで行くにはゴミを片しながら一歩ずつ進むしかないよね? その過程でリモコンが見付かったらいいんだけどね!」
ガムテープを引きちぎるようにはがして、蹴り倒すように箱をたたむ幾ヶ瀬。
「何怒ってんだよ、幾ヶ瀬」
有夏チャンが口を尖らせた。
不貞腐れている様子だが、口調は幾ヶ瀬に甘えているよう。
案の定、ヘンタイメガネは急に狼狽えた様子をみせた。
剥がしたガムテープを手の中で執拗に丸めている。
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