「それを単なる生霊と言う人もいますが、それは違います……。死期が近づくと人の魂は無意識のうちに体の外に出てくることがあります。それこそが『ドッペルゲンガー』____つまり、体の外に無意識のうちに出てしまった自分の魂です……。特徴としては、何もしゃべらない、ドアの開け閉めができる、自分にそっくりである、などです……。そして、これが単なる生霊ではない最大の特徴は《本人が見ると近いうちに必ず死んでしまう》ということです……。ちなみに、リンカーンや芥川龍之介の死因に関係しているとも言われています……。現在でもその存在の解明を進めていますが、未だに解明されていないため、モンスターとして扱われることがあります……。これに、スバル様が仰られた情報を照合すると、魂として存在する『ドッペルゲンガー』ではなく、個人として存在する『ドッペルゲンガー』となります。彼女は自分という存在を認識できており、しかも主に死ではなく共存を求めている心優しき『ドッペルゲンガー型』ということになります。そして詳細は不明ですがスバル様は彼女に認められています」
『………………』
俺たちはいつの間にか口をポカーンと開けていた。コユリって俺たちより物知りなんだな……って、そんなレベルじゃないぞ! なんで、そんなに詳しいんだよ! 逆に怖えよ!
コユリ(本物の天使)がもし、敵だったとしたら、いや、やめよう……考えたくもない。はぁ……スパイになったらやばいやつだな、コユリは……。
「え、えーっと、すみません。つい、熱く語ってしまいました……」
なるほど。知識はそこそこあるようだが、感情のコントロールはまだまだのようだな……。
コユリにはもっと多くの人と接してもらわないと、いけないな……。さて、そろそろ会話を再開しますか。
「い、いや、お前が俺以上に分かりやすく説明してくれたもんだから、つい」
「う、うんうん! とっても分かりやすかったよ! コユリちゃんは将来、学者さんになれるよ!」
「そ、そうでしょうか?」
「ああ、黒沢が言うんだから間違いない」
「ちょっと、それどういうこと?」
「気にするな、こっちの話だ」
「ふーん、ならいいけど……」
ふと、コユリの方を見ると、コユリがこちらの顔をじーっと見つめていたので、そばに行って話しかけた。
「コユリ」
「は、はい、何かご用ですか? マスター」
「……その、ありがとな」
「……えっ?」
「いや、その……俺が困ってた時に助けてくれたからそのお礼だ。深い意味はない」
「そ、そうですか。ど、どういたしまして」
「お、おう……」
なんだ? この空気は? 気まずいというより……あー! うまく表現できない! なんだこの気持ちは! 誰か教えてくれ!
その時、左肩をツンツンと、突かれた。なんだよ、今ちょっと手が離せないんだが……って、あれ? 黒沢は? キョロキョロと辺りを見渡したが、コユリ以外誰もいなかった。あれ? さっきまでそこにいたよな?
いったい、どこに行ってしまったのだろうか?
俺が首を捻って考えていると後ろから「わっ!」と声がしたため、俺はその場で三センチほど飛び上がってしまった。
俺が声のした方を向くと、黒沢がニコニコしながらこちらを見ていた。
「なんだ、お前か。お、おどかすなよ」
「ふっふっふ……。今のが、この子の力だよ」
黒沢の背後から顔をひょっこり出したその子は、確かに左目に黒い眼帯をしていた。
長く美しい漆黒の髪が光を反射していたせいで眩しかった。
肌は……白いな。あと、アホ毛が気になるな。しかも一本だけって……アンテナかよ。
俺がそんなことを考えていると、その子がこちらにトコトコと歩いてきた。すると、いきなり俺の右足に抱きついた。
「お、おいおい、俺はお前のマスターじゃないぞ? お前のマスターはこっちだ」
その子を抱きかかえると百八十度回転させ、黒沢の方に移動させた。
しかし、俺が進むごとにその子はジタバタと手足を動かし、行きたくない! という意思表示をした。
しゃべらないのに、わがままだな。でも、ミノリよりかはマシかな? (ハクション! とアパートにいるミノリは、くしゃみをした)
さて、どうしたものかな? 俺が黒沢の方を見ると、まあ、そういうことだからよろしく! というような顔をしていたため、試しにこう訊いてみた。
「おい、黒沢。まさか最初から俺に押し付けるつもりだったのか?」
「んー? なんのことかなー?」
「とぼけるなよ」
「いやー、だってさー、その子にナオトのことを話したら目をキラキラ輝かせながら、早く会いたいって顔してたから仕方ないでしょ? それに僕はその子の名前をつけてないからマスターじゃないんだよ。だから、その子にいい名前を付けてあげてね?」
「お、おい、話はまだ終わって……!」
「さてと、それじゃあ僕は他のみんなを探そうかな。お花さんたちー! 集まってー!」
どこに潜《ひそ》んでいたのかは分からないが葉っぱが手のような形をしているタンポポや巨大ひまわり、クルクルとバレリーナのように回転しながらやってくるパンジーなどが二足歩行で黒沢の周囲に集合した。
「おい! まだこの子の面倒を見るとは言ってないぞ! ちゃんとお前が面倒見ろよー!」
そんな俺の言うことなど聞かずに、巨大ひまわりに乗った黒沢は「行けー!」と言うと、どこかに行ってしまった。(いつのまにか蒼い髪と蒼い瞳が特徴的な妖精が黒沢の左肩に乗っていた)
あ、あいつ! 俺に面倒ごと押し付けやがった! 久しぶりに会ったから、そういうところがあったの、すっかり忘れてた……。
俺が頭を抱えながら、そんなことを考えている間に黒沢と不思議な花たちはもう見えなくなっていた。
「行ってしまいましたね、マスター」
「……えーっと、どうしてこうなったんだ?」
「……ナ……ナ……オト」
「ん? コユリ、今なんか言ったか?」
「いいえ、私は何も。その子じゃないんですか?」
「いやいや、さすがにこの子じゃないだろう。それに黒沢の話ではしゃべらないって……」
「ナ、ナオト」
「ほら、呼んでますよ。マスター」
「……どうして俺なんだ?」
俺はその子を抱き上げるとクルクルとその場で回転してみた。
すると、その子は「わー! わー!」と言いながら笑っていた。(そのまま数秒間、回転し続けていたので、疲れた)
「おかしいな。しゃべらないって言ってたのに」
俺はそう言いながら、その場で横になった。あー、疲れた。もう動けん、ギブ。
そのまま息を整えていたが、その子はもっと遊んでほしかったらしく……。
その子は勢いよく俺の胸に飛び込んで、嬉しそうに顔をスリスリと擦り付け始めた。
まいったな……。これじゃあ帰るまでに過労で倒れるぞ。どうしたものかな……って、ん?
視線を感じたので、ふと自分の右側を見ると、そこには『ダークウルフ』がその子をじっと見つめていた。
えっ? なに? なんなの? 赤ずきんちゃんはここにはいませんよー。おばあちゃんのところにいますよー。
アイコンタクトでそう伝えるが、無視された。オオカミには無理か……というか、言葉は通じるのかな?
そう思った瞬間、その子がオオカミに気づき、見つめ合い始めた。
ただ、じーっと見つめ合う両者は何かを探るように見えた。
な、何なんだ? こいつら……。いきなりどうしたんだ? まったく、動かないんだが……。
するとその子はいきなり、スッと立ち上がるとオオカミの背中に飛び乗った。
その後、天に拳を突き上げると「行けー! ウーちゃん!」と言いながら前方を指差した。
黒い影でできているオオカミは咆哮をあげながら、グルグルと同じところを何度も何度も回り始めた。
俺は、その光景に少々驚いたが、どちらもとても嬉しそうな顔をしていたので、しばらくそのままにしてやった。
____しばらくすると、オオカミは俺の影に戻り、その子は俺の目の前で両手を広げながらピョンピョン跳ねていた。
どうやら抱っこしてもらいたいらしい。おいおい、定員オーバーだろ。
さすがのコユリでも二人を運ぶのは……って、やる気満々かよ。
コユリは準備体操をしながら親指を立てて、私は大丈夫です! というような顔をしていた。
本当かな? まあ、本人が大丈夫ならいいか。
正直、半信半疑だったが、やる気に満ち溢れているコユリを裏切ることはできなかったため、帰りは俺とコユリとその子で、帰ることになった。(俺はその子の名前を考えながら帰った)
*
アパートに戻ると、ミノリたちは昼ごはんを作って待っていた。おっ! 今日は焼きそばか! うまそうだな! おっと、その前に……。
俺は昼ごはんを食べる前に、帰るまでに起こった一部始終をみんなに話した……。(それと同時にミサキ[巨大な亀型モンスター]に「もう大丈夫だから『紫煙の森』に行ってくれ」と念話で頼んだ)
俺が一部始終を話し終えると。
「ナオト、一つ言わせてもらうけど多分……というか確実にその子は……」
「この子は?」
『【嫉妬《しっと》の姫君】よ(だぞ)』
俺はミノリ(吸血鬼)とカオリ(ゾンビ)が同時にそれを言ったことよりもこの子が、大罪の力を持っていることに驚いた。
「……えーっと、何かの冗談だよな? あはははは、二人ともー、エイプリルフールはとっくに終わったぞー。あははははは」
『そんなわけないでしょ(だろ)?』
「……ですよねー」
なんで、日に日に増えていくんだよ……。というか、このままだと大罪の力を持ったやつら全員がうちに来るんじゃ……。
あっ! やばい、自分でフラグを立ててしまった!
あー、終わった。完全に終わった。うちに大罪の力を持ったやつらが全員来る……。(『モ○スト』の確定ガチャなら嬉しいのに)
俺はそんなことを考えながら、オオカミと遊んでいるその子を見ていた。その時、その子の眼帯が外れかけた……。
俺はとっさにその子の眼帯が外れる前に付け直した。
あ、あっぶねえ……。もう少しで何かが解放されるところだったぞ。俺が息を切らしながら、その子を見ると。
「どう、したの? ナオト」
首を傾げながら、そんなことを言った。
俺には、その子が大罪の力を持っているやつには見えなかった。
「いや、なんでもないよ。それより、お前に名前を付けてやるから、こっちに来い」
「うん!」
その子は満面の笑みを浮かべながら、オオカミから降りて嬉しそうに俺の後《あと》に続いた。
まったく、俺は子守じゃねえんだぞ? 今度、黒沢に会ったら一言ガツン! と言ってやらないとな。
名前を付ける、という言葉を聞いてワクワクしているのは、みんなも同じだった。
そういえば、ここにいる全員の名前は俺が考えたんだったな……。
まあ、これからも思いを込めながら名付けていくがな。
その子は、俺があぐらをかいて座ると、その時にできる逆三角形の空間にチョコンと座った。
はいはい、今考えますから、もうちょい待とうな。
……さあて、何がいいかな?
俺は目を閉じて腕を組むと、その子の名前を考え始めた。
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