テラーノベル
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部屋に入り、玄関で靴を脱いだ朝陽は見慣れた室内をゆっくりと見回した。
それは初めて訪れた時よりもずっと自然な仕草だった。
そんな中、思えば朝陽がこの部屋に上がるのは今日で三回目だと気づいた亜佑美は妙な気恥ずかしさを覚える。
付き合っているわけでもないし、特別な関係だと呼べるわけでもない。
それなのに、自分の部屋へ招き入れた彼氏以外の男性は朝陽が初めてだったと意識する。
「……コーヒーでいい?」
「はい。ありがとうございます」
亜佑美はキッチンへ向かい、お湯を沸かしてコーヒーを淹れる。
やがて二つのカップを手に戻ると朝陽の座るソファーの隣へ腰を下ろした。
「はい」
「ありがとうございます」
肩が触れる程近くはないけれど、決して遠くもない距離で二人は並んでコーヒーを口にした。
気まずいわけではないが何を話せばいいのか分からず、無言が続く。
(わざわざ戻って来てもらったのに……)
いざ顔を合わせると、言葉が見つからない。
(何か話さないと……)
そう思った時だった。
「こうして木葉さんの部屋に来るの、今日で三度目ですね」
ふいに朝陽が口を開く。
「……うん」
亜佑美が頷くと朝陽は少しだけ照れたように笑った。
「初めて来た時は、すごく緊張しました」
「そうだったの?」
「はい。そもそも女の人と付き合ったこともないですし、仲のいい女友達もいなかったので……こういう経験自体、ほとんどなくて」
「そっか」
亜佑美が小さく相槌を打つ中、朝陽はカップを見つめながら何かを言いかけた。
「…………木葉さんは……」
しかし、その先が続かない。
本当は聞きたかった。
これまで付き合ってきた人たちも、この部屋に来たことがあるのだろうか、と。
けれど、それはあまりにも踏み込みすぎた質問で、自分にはそんなことを尋ねる資格はないと思い直し朝陽は言葉を飲み込んだ。
でも、亜佑美は朝陽が何を聞こうとしたのか何となく分かっていて、暫く迷うように視線を落とした後、ぽつりと口を開く。
「……彼氏じゃない男の人を部屋に招いたのは」
そこで一度言葉を区切り、少し照れたように笑った。
「藍島くんが、初めてだよ」
その瞬間、朝陽の動きがぴたりと止まる。
朝陽は一瞬、その言葉の意味を理解出来なかったけれど、頭の中でゆっくりと噛み砕いていくうちに自分が彼女にとって特別な立場にいることを示唆されたような気がして、みるみるうちに耳まで赤く染まっていった。
「え……」
思わず漏れた声は情けないほど小さい。
そんな朝陽の反応を目の当たりにした亜佑美もまた恥ずかしくなり、誤魔化すようにコーヒーへ口をつけた。
静かな部屋に二人分の鼓動だけがやけに大きく響いているような気がして、二人とも落ち着かない。
朝陽は手にしたカップを見つめたまま固まっていて、耳は真っ赤で視線も落ち着かない。
そして、ようやく口を開いたと思ったら、
「……どうして、俺だけ……?」
そんな言葉が零れた。
「え?」
「その……彼氏じゃない男の人で、部屋に入れたのが俺だけって……どうしてなんですか?」
純粋な疑問だったのだろうけれど、亜佑美は思わず内心で呟く。
(鈍感……)
流石にここまで言えば気づくと思っただけに、亜佑美は少しだけ困惑しつつ、
「どうしてだろう……」
と視線を落として、
「自分でも、よく分からない」
それだけを答えた。
「……そう、ですか」
亜佑美の返答に朝陽はそれ以上何かを口にすることもなく、再び沈黙が訪れる。
「…………」
「…………」
時計の針の音だけが静かに響く中、朝陽は未だに混乱していた。
“彼氏でもない男で自分だけが特別”
管野アリオ
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その言葉が頭の中をぐるぐる回っていて、冷静になろうとしても無理だった。
むしろ考えれば考えるほど顔が熱くなる。
そんな朝陽を横目で見ながら亜佑美は意を決したように口を開いた。
「ねぇ……」
「は、はい!」
勢いよく返事が返ってきて亜佑美は少しだけ笑い、躊躇いながら言った。
「……私、藍島くんのこと、名前で呼びたいんだけど……良いかな?」
「え!?」
朝陽の目が大きく見開かれる。
どうやら予想していなかった言葉だったらしい。
朝陽のそんな反応に少し不安になった亜佑美が、「……駄目?」と問い掛けると、
「だ、駄目じゃないです!」
ほとんど反射的だった。
「その、嬉しいです!!」
その必死さがおかしくて亜佑美は目を瞬かせると朝陽は、
「俺も……」
「え?」
「俺も、名前で呼んで欲しいし……その、木葉さんのこと、名前で呼びたい……です」
言いながらどんどん声が小さくなっていき、最後は照れ隠しのように視線を逸らしてしまった。
一瞬の沈黙後、それを聞いた亜佑美の顔がぱっと明るくなる。
「良かった」
それは心から安心したような嬉しそうな笑顔で、それを真正面から見てしまった朝陽は心を撃ち抜かれたかのように胸が酷くざわめき、再び顔を真っ赤にした。
名前で呼び合う……ただそれだけのことだけど、今の二人にとっては距離が近づいたような気がして嬉しかったのだ。
コメント
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ヤッタアアアアア!!!!!😭💖✨18話、最高すぎて叫びながら読んだよ…!! 「彼氏じゃない男の子を部屋に招いたのは藍島くんが初めて」からの朝陽くんの戸惑い→真っ赤になる流れ、エモすぎてもうダメだった…!!「どうして俺だけ…?」って聞いちゃう朝陽くんのピュアさに胸がきゅんきゅんしたよ🥺💕 そして最後の名前呼び!亜佑美ちゃんが勇気出して聞いて、朝陽くんが「嬉しいです!!」って即答するところ、尊すぎて3回読み直したマジで…!二人とも耳真っ赤にして照れてるの想像するだけで顔がにやける//// 次回が待ち遠しすぎて今夜眠れないかも〜!!夏目萌さん、この距離感の縮め方マジで天才すぎます😭💖