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管野アリオ
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「じゃあ……」と言いながら亜佑美は少しだけ姿勢を正した。
自分から言い出したはずなのに、いざ名前で呼ぶとなると急に緊張しているようだ。
「……呼んでみる?」
「は、はい……」
その問い掛けに朝陽もどこかぎこちなく頷いた。
暫く互いに視線を泳がせるその姿はまるで学生みたいだと亜佑美は思った。
(名前を呼ぶだけなのに……)
それだけなのに、胸が妙に騒がしい。
「……朝陽くん」
意を決して名前を呼んだ瞬間、亜佑美の心臓が跳ねた。
そして、呼ばれた本人は耳まで真っ赤にしながら目を見開いて固まっていた。
「……っ」
そんな反応をされると呼んだ側まで恥ずかしくなる。
「な、何……その反応……」
「いや……その……」
朝陽は口元を押さえた。
「嬉しくて……」
それはあまりにも正直な返答だった。
そして、今度は朝陽が恐る恐る口を開く。
「それじゃあ……俺も……」といいながら一度深呼吸をした後、「……亜佑美さん」と呼んだ。
「…………っ」
呼ばれた瞬間、さっき朝陽が浮かべていた表情の意味を理解した亜佑美。
(ただ名前を呼ばれただけなのに……どうしてこんなにドキドキするの?)
ましてや亜佑美は恋愛経験だってそれなりにあるはずなのに、これまで名前を呼ばれただけでこんな反応になったことなんてある訳もなく戸惑いしか無い。
「す、すみません!」
「え、何で謝るの!?」
「いや、何か急に馴れ馴れしかったかなって……」
「いやいや、名前呼ばれるくらいでそんな風には思わないよ?」
「そ、そう、です……よね……」
顔を見合せた二人は顔を赤くしながら言い合う。
こんな状況がどこか甘酸っぱくて、少しむず痒くて、それでも嫌ではなくて。
何度か言い合いを続けていた二人は気付けば緊張から解放されたのか、どこか可笑しくなって自然と笑いに変わっていた。
暫くして二人が落ち着いた頃、朝陽がぽつりと口を開いた。
「……実は」
「ん?」
「ちょっと羨ましかったんです」
ふいの言葉に亜佑美は首を傾げる。
「羨ましい?」
「はい」
朝陽はカップを両手で包み込みながら、少し視線を落とした。
「合コンに参加した先輩たちは亜佑美さんのこと普通に名前で呼んでたし……今日、亜佑美さんに言い寄ってた人、いたじゃないですか」
「……ああ」
「あの人も当たり前みたいに亜佑美さんって呼んでて」
それはどこか拗ねたような声だった。
「……羨ましいなって。少し狡いなって思ってました」
その言葉に亜佑美は思わず息を呑む。
まさかそんなことを考えていたとは思わなかったし、本人は気付いていないのだろうが、それはどう聞いても嫉妬にしか聞こえない。
「……狡いって」
胸の奥がじんわりと熱くなるのと同時に顔が赤くなるのを誤魔化すように、亜佑美はそっと視線を逸らした。
そんな様子に気付いたのか朝陽は不思議そうに首を傾げる。
「俺、変なこと言いました?」
「ううん」
むしろ嬉しかったし、今すぐにでも気持ちを伝えたくなるくらいに気持ちは昂っていく。
好きだと、貴方が特別なんだと。
けれど、その言葉は喉の奥で留める。
朝陽は優しくて真面目だから亜佑美が告白すれば、きっと真剣に向き合ってくれるだろう。
だからこそ、今はまだ言えなかった。
朝陽自身、自分の気持ちを整理しきれていないように見えるし、自分へ向けられている好意があったとしても、朝陽がそれを恋愛感情だと自覚しているかは分からない。
それに、もし断られれば今の関係は壊れてしまうかもしれないし、仮に想いが通じたとしても、その先で何かが噛み合わなくなって今みたいに隣で笑い合えなくなるのは怖いと亜佑美は思ってしまう。
(今は――ただ、傍にいたい)
同じ時間を過ごして、他愛ない話をして、こうして笑い合っていたい。
亜佑美にとってはそれが何より大切だから、今はまだ気持ちを伝えることはしなかった。
コメント
1件
あ〜〜〜〜〜もう、じんわりきた!🥺✨ 「名前呼び」だけでここまで甘酸っぱくなる空気、めっちゃわかる…。朝陽くんが「羨ましかった」って拗ねるシーン、完全に嫉妬じゃん!って思わず声出た(笑)。でも亜佑美が気持ちを押し留める理由もすごくリアルで、今はこの距離感が大事なんだなって胸がぎゅってなった。続きが気になる…!