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『魔法少年のるか・ソルカ』 通称ノルソル。
想像通り、あの超メジャー『魔法少女』シリーズをオマージュ作品と言う名の侮辱(ぶじょく)作として、ネットの片隅で産声を上げた問題作。
主人公の女装男子『鴎(かもめ)ソルカ』は謎の宇宙生命体から魔法少年になって欲しいと誘いを受け、魔男達との戦いに巻き込まれていく。
『ソルカ』の親友、『欠伸(あくび)もぐら』は、ソルカが魔法少年になる事に頑な(かたくな)に反対し、一旦は『ソルカ』も魔法少年の道を諦める。
しかし、次々と登場する女装男子の魔法少年達との出合いと別れを繰り返す中で、『ソルカ』の中に眠る別人格『のるか』が目覚めてしまう。
『のるか』は封印され乖離(かいり)された『ソルカ』のオリジナル人格だったのだ。
失われた記憶を取り戻した『のるか』によって『もぐら』が持つ異能の力が仲間達に開示される。
『欠伸もぐら』はその名の通り、普段は土中でウトウトしており、空間転移能力を使用する事により、地球上のあらゆる土中を行き来出来るのだった。
『もぐら』はその力を駆使(くし)して、影ながら『のるか・ソルカ』を守っていたのだ。
『もぐら』の|危惧(きぐ)は的を射ており、魔男達との戦いの中『のるか・ソルカ』は自身の力と引き換えに世界の再構築、いや最高地区に家を手に入れる。
『もぐら』と暮らす中で、『のるか』は徐々に自堕落且(か)つ、自暴自棄になり過度の飲酒や、冷たいお薬に溺れて行ってしまう。
もう一度以前の『のるか』、又は『ソルカ』を取り戻そうと、『悪魔』になる事を決意する『もぐら』。
中二的な黒を基調とした女装に身を包み、自ら『闇水晶(やみずいしょう)』と名付けた硬く丸い鈍器で、『のるか』を殴打し続ける『もぐら』。
心の中で贖罪(しょくざい)の血涙(けつるい)を流しつつも、『のるか』を口汚く罵り(ののしり)ながら、日々繰り返される家庭内暴力の数々。
悲しくも、馬鹿馬鹿しい『愛』の形は、ネット民の心に大きなトラウマ、心的外傷(しんてきがいしょう)を残したのだった。
後半の暴力に目覚め、顔を歪め(ゆがめ)ながら、今まさに鈍器(どんき)を降り下ろさんとした姿がデフォルトで、善悪の手の中に在った。
こんな、邪(よこしま)なキャラクターが生まれる事が出来たのも、本家の製作委員会の方々の、マリアナ海溝より深い懐(ふところ)があってこそだ。
評価が賛否を分ける中、ある種のスピンオフと呼べるのではないか? との大英断を下したのだった。
本家の劇場版三作目に合わせた、『はーん、ギャグの物語』が意外な高評価だったとの噂もある。
何はともあれ、サイズ感ボリューム感共に、企画物とは思えないポテンシャルでの発売を実現させたのであった。
さらに、コレクションフィギュアには珍しく、各関節にはモデル用並の広範な可動域を持たせていたのだ。
これにより、作中のあらゆるシーンをポーズとして切り取る事が可能になり、業界全体としても、非常に野心的な挑戦作品ともなっていた。
最大の障害と言われていた、ポージングと衣装の齟齬(そご)については、エポパテ整の初期装備をキャストオフする事で見事な解決としていた。
もちろん、フィギュアその物は、全裸状態になってしまうのだが、この事がバイラルマーケティングを刺激する事になった。
六分の一スケールと大き過ぎも小さ過ぎもしないサイズが功を奏し、最初に参入してきたのは着せ替え人形のアウトフィットメーカーだった。
追いかけるように、大小様々なコスプレ衣装製作アトリエが参加を表明し、ミニチュア愛好家、新進デザイナー達まで加えての一大ムーブメントを巻き起こした。
発売前でこの状況である、やはり本家の製作委員会の方々は偉大であったと言えるだろう。
一躍、各業界大注目となった逸品が今自身の手中にあるのだから、善悪の喜びが特大なのも当然だった。
ひとしきりその造形を眺め回し満足すると、続いて善悪は可動部分の確認とばかりに首、胴、腰、指、足、手を曲げ伸ばししていた。
「ん?」
不意に善悪は怪訝(けげん)な表情を浮かべて手を止めた。
「あらら? 左肘が動かないでござるな?」
その言葉通り、善悪が一所懸命動かそうとするも、フィギュアの左肘部分は一向に曲がらず、デフォルトの位置のままだった。
ふと、記憶にある『ノルソル』の内容をトレースした善悪は不思議そうに言葉にする。
「ふむ? やはり『もぐら』の左腕が不自由なんて設定は無いのでござる」
動かないフィギュアの左肘に顔を寄せつつ、メガネに手を掛けながら確り(しっかり)吟味(ぎんみ)をする善悪、すると、
「ありゃりゃ~? 可動ギミックのボールジョイントにクラックが入っているでござるよ~」
初期不良を見つけてしまった様だ。
こんな時どうするか、善悪ほどのコレクターがそれを悩む事など無い。
どのような物であれ、商品の品質はメーカーへ寄せられる信頼に直結する。
ましてや、マニアがシリアルナンバーを奪い合う様な熱狂的な商品であれば尚更である。
ほんの僅か(わずか)な欠損とは言え、それを知る術(すべ)を持たないフィギュアメーカーの評判が落ちる事等、善悪が看過(かんか)出来る筈(はず)もなかった。
メーカーとしても、この事を知れば、ホームページで不具合の事前警告をしたり、最悪回収等の手が打てるだろう。
今、善悪に出来る事は、可及的(かきゅうてき)速やかに、この事実をお客様相談センターへと伝えるという一点に集約されていた。