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こうなることは分かってた。と言うか、こうなると思ってた。だから、嫌だった。遠足じゃないんだし、二人も子供を連れて行くとか。
別に二人が弱いからーとか、足手まといになるからーとか、そういうのは一切無いけれど、無いけれど、嫌だった。嫌というか、面倒くさいという感情が推しで邸Kル。今私がどんな顔してるのか、自分でも分かった。
「い、いや……でも、本当に遠足じゃないんだし。次の機会にしたら?」
「でもでも」
「でもでも」
と、二人は譲れないというように迫ってくる。こうなったら、私の負けである。押しに弱い、オタクである。
私は、詰め寄ってくる二人を見て後ずさりをしたがひょいと、後ろでラヴァインに受け止められてしまう。
「ちょ、ちょっと」
「何で、逃げるのかなあって、別にいいじゃん。遠足」
「だから、遠足じゃないって言ってるのよ。アンタは、どっちの味方なの?」
「面白くなる方の味方」
ああ、私の味方なんていないんだ、って思った。絶望。いや、そんな重いものじゃないけれど、ラヴァインが私の味方をするわけなかった。此奴は、自由人で、自分が楽しいと思ったことに素直だった。
分かっていたはずなのに、味方になってくれると思っていた。というか、ラヴァインの記憶を取り戻すためにいくというのに、ラヴァインこそ良いのだろうか。
「ちょっと、でも、アンタの記憶を取り戻すためにいくのよ?いいの?外野……外部の人間が」
「うーん、それはちょっと考えたんだけどね。でも、大勢の方が楽しいんじゃない?」
と、絶対に心にも思っていないことを口にしている。最悪だ。何て最悪な人間なんだ。
そう、私は心の中で何回かラヴァインをなぐった。
ラヴァインの為にって動いてきた自分がアホらしく思えてきて、何だか虚しい気持ちになった。なら、私じゃなくても良いんじゃないかって思うぐらいに。
「エトワールは嫌?」
「勝手にして。アンタの記憶が戻ろうが、戻らまいが、関係無いの」
「……怒ってる?」
「まだ、決定事項じゃないから、別に」
それ、怒ってるじゃん。って、また神経を逆なでするようなことを言うので、本気で殴ろうかと思った。今日だけで、殴りたい人間が、シチュエーションが何回来るんだと、そう思うぐらいに。
ラヴァインはそれ以降何も言わなかった。何を言って私を怒らせるか、分からなかったからなのかも知れない。まあ、何を言われても、今少し怒っているから逆ギレしてしまう可能性があるわけで、話し掛けないっていう選択肢をとった彼はよかったのかも知れない。
「お、お坊ちゃま達、それは、まだ伯爵様に聞かないと……」
「僕達がルール」
「そうだ、そうだ!」
と、ヒカリを困らせる二人。もう、行く気満々だって言うことは分かった。頭が痛い。どうしてこうなった。
矢っ張り、二人の前で言うんじゃなかったと、何度も公開した。この二人といるのは、別に嫌じゃなかったけれど、今回は目的が目的の為、連れて行って危ない目に遭わせたら、それこそ責任が取れないんじゃないかって。
「そもそも、何でいきたいのよ」
「だって、幻の島だよ?」
「幻の島だよ?」
確かに、ヘウンデウン教に占領されてからは、悪しき島とか、歴史から消されたけど、幻の島ではない気がした。でも、二人枯らしたら、そんな幻だの空想上の島だの、子供っぽい考えで、頭で思ったんだろう。そういう所は、子供らしくていいと言うべきか。好奇心旺盛なのは良い子だ。でも、好奇心は猫をも殺す。危険だからついてきて欲しくないって言うのが本音だ。
彼らは、戦場を知らないだろうが、私は知っている。この間の事も、あの肉塊のことも。人間がしてきた、欲にまみれた悲劇を目にしているから。
かといって、彼らが何も知らないわけじゃないし、奴隷売買とかのあのオークションにも言ったわけだから、危険な事が世の中にはあるって事、知っている筈なんだけど……
(それでも、好奇心が勝っちゃうっていうのは分からないでもないけどね……)
そういえば、あのオークションの時、私の隣にいたのはラヴァインだったな、何てうっすらと思い出していた。そんなことすら、ラヴァインは忘れているんだろうけど。あれは、ヘウンデウン教の幹部として、監視の意味であそこにいたのだろうか。それとも、本当に奴隷を買うつもりであそこにいたのだろうか。
今となってはどうでも良いことで、掘り返しても意味ないことなのだが、記憶のあちこちにラヴァインがいて、何か、居心地が悪い気がした。
あっちは何も覚えていない。だからこそ、モヤモヤするのかもだけど。
「ラヴァイン……」
「ラヴィだって」
「……ラヴィ、アンタあの二人のこと覚えている?」
「二人?いーや。大富豪の息子って事ぐらい?ダズリング伯爵ってのも、まあゆーめいだし。でも、双子の性格とか、何があったかって事は、覚えていないかな」
と、言ったラヴァインの顔は、本当だった。まあ、嘘をつくのも上手な男だから、吟味しかねるけど、でも、覚えていないという感じだった。
彼が、あのオークションを裏で手を引いていたら……いや、関与していたから、もう黒いんだけど、ルクスとルフレにとって最大の敵になるんじゃ無いかと思った。双子は気づいていないようだったけど、ルフレの方は、ラヴァインを見るなり、警戒するように目を細めていたから、何かしら勘付いているのかも知れない。
ラヴァインは、相変わらず薄い笑みを貼り付けていて、愛想を振りまいている。それが、身についてしまっているという感じだろう。
「なあ、そこのお前」
「そこのお前って誰のこと?」
突っかかってきたのは、ルフレだった。
敵意むき出しといった感じに、ラヴァインに向かって歩いて行く。危ないから近付いちゃダメ、という意味で、私はラヴァインとルフレの間に立ちふさがる。
それを見て、少しだけルフレは驚いた表情になる。
「聖女さま、何でそいつのこと庇うの?浮気?」
「浮気じゃないって。というか、その言葉何処で覚えてきたの」
「浮気する女とは付合っちゃダメって、お父様が言ってた」
「それじゃ、お父様が浮気されたみたいじゃん」
「正式には、お父様のお友達が、だけど」
と、補足するようにルフレは言う。だから、浮気って言葉知ってるんだ、成る程。と思ったが、成る程じゃないんだ、と自分に活を入れる。
(いやいや、誰と浮気?私とラヴァイン?冗談じゃないし、と言うか、リースと私の関係知ってるって事?)
色々思う伏はあったが、私はそこら辺には触れずにルフレを見た。
「まあまあ、エトワール。俺達が、愛人って事は置いておいて、俺は別に子供に興味ないから大丈夫だって」
「大丈夫じゃないのは、アンタの頭の方なんだけど?いつ、私がアンタの愛人になったのよ」
「じゃあ、恋人?」
「もっと違う」
じゃあ、何? と言われたが、それは返せずにいた。元敵、と言えばよかっただろうか。でも、友人でもないしなあ何て考えていれば、スッとラヴァインは私の前に出て、ルフレを見た。ルフレは、自分よりも背の高い男に行く手を阻まれて……いや、目の前にたたれて肩を大きく上下させていた。
ラヴァインの満月の瞳は、ルフレをじっと見ている。
「何だよ……」
「何だよって、君から話し掛けてきたのにその反応は酷いなあ?それとも、俺の事怖いって思っちゃった。子供だね」
「子供じゃない!」
そう、ルフレは怒ったが、そういう所が子供なんだよ、と言われて、今度はピタリと黙ってしまった。ラヴァインはすぐにルフレの扱い方をマスターしたようで、くすくすと笑っている。彼らが、やった煽りと似ていて、煽り返されるのが苦手って言うことを理解したらしい。さすが、ラヴァインと、誉めては無いが思った。
「それで?俺に用があるんだろ?怒らないから、言ってみてよ」
内容に寄るけど。と、小さな声で聞えてしまってアウトだった。此奴、ダメだ。と私は思う。内容によって何かするんじゃないかとびくびくしていれば、ラヴァインは「嘘だって」と笑う。何処からが本当で嘘かなんてもう分からない。
それに怯えてか、ルフレは小さくなってしまっている。いわんこっちゃない。
「そっちから、喧嘩ふっかけてきたんだから。いいよ?俺、その喧嘩買うよ?」
と、ラヴァインは笑う。
笑顔からじゃ何も分からないその男に、私ですら鳥肌が立つのに、ルフレなんてもっとだろう。それでも、ルフレは自分のプライドからか口を開く。
「お前、前どこかであわなかったか?」
「うーん、ごめん。俺、今記憶喪失なんだ。だから、君の記憶の中にしか、過去の俺はいないかな?」
「……会った気がする。でも、目が違う」
そう、ルフレは言って私を見た。助けてくれっていう目を向けられてどうすれば良いか分からなかった。ルフレは勘付いているけど、確信が持てないんだろう。でも、ラヴァインと言えど、記憶があろうがなかろうが、自分に興味が無いものは覚えていないかも知れないと思った。
瞳が違う。
確かに、今のラヴァインの瞳は綺麗で澄んでいる。だからこそ、確証が持てないのかも知れない。じゃあ、あの時のラヴァインは……
「エトワール?」
「ああ、ごめん。何か言った?」
「別に。こうやって、俺を覚えているかも知れない人に会っていけば、記憶が戻るのかなー何て思っただけ」
そう言って、ラヴァインはまたにこりと笑うのだ。