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その女性の瞳はとても不思議な色をしていた。黒とも灰色ともつかず、見ようによっては虹色と表現しても良いだろう。長い髪を腰のあたりまで垂らしており、優しそうなほほえみで、カウンターの向こう側に立っていた。
私はその女性に、改めて訊ねてみる。
「本当に、魔法を売っているお店なんですか?」
するとその女性はこくりと小さく頷いて、
「えぇ」
と短くそう答えた。
魔法だなんてどうにも胡散臭い話だけれど、この女性からはそんな胡散臭さはあまり感じられなかった。
――まぁ、人は見かけによらないので、実際のところは判らないのだけれど。
私がこのお店の存在を知ったのは、職場の同僚から渡された一枚の名刺からだった。
『魔法百貨堂 楸真帆』
その名刺には、片面にだけそのように印字されており、店の所在地や連絡先などは一切書かれていなかった。
それでいてその名刺からはふんわりと花のような甘い香りが漂っていて、どこか不思議な印象だった。
同僚は私にその名刺を手渡しながら、
「本当に必要になったら、この名刺を持ってお店を探し歩いてみるといいよ。その名刺が、きっと遥をお店まで連れて行ってくれるから」
その言葉に、私は半信半疑で名刺片手に町の中を歩いていたわけなのだけれど、まさか本当に、このお店まで辿り着いてしまうだなんて思いもしなかった。
私はそのお店の人――たぶん、彼女が楸真帆さんだろう――の前まで歩み寄ると、意を決して口を開いた。
「――探して欲しい人がいるんです」
「……人探し、ですか?」
キョトンとした表情で小首を傾げる真帆さんに、私は「はい」と頷いてから、
「ただ、名前も何もわからないんです。だからこそ困っていて――」
「なるほど、なるほど」
真帆さんはこくこくと何度か頷いて、
「よろしければ、詳しくお話していただけますか?」
そう言って、にっこりとほほ笑んだ。