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#ワンナイトラブ
息継ぐ間もなく、樹は私に触れた。
キスも、私に触れる指先も、昨日と何も変わらない。
私を抱き締めて、身体を伝うみたいにキスが落ちると、ふわりとした柔らかな髪も一緒に肌を撫でる。
『失敗しないで』
……失敗、か。
何だろう、何が間違えで何が正解なのか分かんない。
…………樹のそばに居たい。
それは正解じゃ無かったのかな。
それだけでいい。
難しいことは何も無いの。それだけなの。
いつも眠いって言って、私が寝るまで起きてくれてる。
いつもだるいって言って、ちゃんと私の話を聞いてくれる。
いつも面倒だって言って、最後まで私に付き合ってくれる。
樹、ねぇ、樹
どうやったら、嫌いになれるんだろう。
どうやったら、思い出にすることが出来るんだろう。
全身にそのキスを浴びると、彼は何故か動きを止めて私の身体を抱き寄せた。
胸板に顔を押さえられて、身動きも出来ずに瞬きだけをする。
「……どうしたの?」
「今日は、いいや」
「なん、で、しないの」
「泣きそうなのに、抱きたくない」
言われてすぐに、左目から涙が溢れて、彼のシャツに吸い込まれては消えた。
喉の奥で待ち伏せする嗚咽を押し込めようと口を結ぶ。
「……話してよ」
話して、何を?
別れよう、って、言えばいいの?
話して?言いたくないよ。言えないよ。
グルグルと理性と言葉が頭の中で鼓動とともに駆け回る。
考えろ、早く、勘づかれないうちに。
「……っ、えっとね、そう。……年末の書類が、溜め込んでて。来週また残業ばっかりに、なりそう。だからクリスマスもダメになりそうだなって、それで落ち込んで」
「依愛」
続けようとすれば更に強い力が込められるので、言葉は吸い込んだ息とともに呑まれていく。代わりに「ははっ、ごめん」と、乾いた笑い声を零す。
涙はとめどなく溢れて、止みそうになかった。
だけどもう堪えたくなくて、私は自分への抵抗を止めた。
「年下だから言えないの?」
「…………違うよ。」
“樹”だから。
“常葉くん”だから、
言えないよ。
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