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#宮舘涼太
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「俺、このバングルに合わせたいなぁ。」
そんな事を言いながら、康二が俺の横へぴたりとくっついてくる。
「そうやね、お前の分、佐久間さんが選んでやろうか?」
「さっくん、アクセサリーのセンスかっこええから、お願いいしてもええ?」
俺の胸の奥がほんのわずか、小さく騒いだ。
康二の顔を見ながら、どれが最適解か、見定める。
これなら似合うだろうか。
こっちのほうが、もっと康二らしいだろうか。
考えているうちに、ひとつのアクセサリーが目にとまった。
それはとても小さなピンキーリングだった。
小さいけれど、アリゾナの空を思わせる、美しい水浅葱色をしていた。
俺はそれを指さして、 「…これとか、どう?」
と、できるだけ何でもないことのように言った。
けれど、その一言を口にするまでに、胸のなかでは、ずいぶん長い時間が過ぎていた。
「…実は、俺もこれ、ええなぁ思っててん。気ぃ合うなぁ!」
そう言って俺に笑顔を見せる。
たったそれだけのことなのに、急に、そのリングが特別なものになった気がした。
同じものを見て、同じようにいいなと思ったこと。
それだけなのに、遠くにあった二つのものが、ほんの少しだけ近づいたような気がした。
「マジか!やったぜ!」
俺も康二に負けじとガッツポーズを決める。
それはもう、ただの飾りではなかった。
俺たちの間に、音もなく落ちてきて、気づかないうちにそこに残ってしまった、小さな合図だった。
それはきっと、これから先も、何度でも思い出してしまうような、小さな合図だった。
店主に決めたことを伝えると、
「Are you giving them one each?」
そう言って、俺を康二を交互に指さしてきた。
残念ながら、俺たちは英語が得意ではない。
お互い…give…与える…?
するとコーディネーターさんが言うには、ターコイズのパワーはプレゼントされると、より強力なものになると言う、だから、お互いにプレゼントするのか、確認してきたということらしい。
「さっくんがええなら、俺はさっくんにプレゼントしたいぁ。無理にしやんといてもええけど、どぉ?」
「俺もこーじにプレゼントしたい!」
「ほな、決まりやね。」
そう言って、康二は微笑んでくれた。
康二が笑った瞬間、頭の中が一度だけ白くなった。
次の瞬間には、耳の奥が少し熱くなっていて、自分の呼吸の音だけがやけに近く感じられた。
嬉しいのか恥ずかしいのか、そのどちらも同時に胸のあたりで小さくぶつかり合って、うまく言葉にならなかった。
嬉しい、という気持ちは、どうしてこういうとき、少し恥ずかしいのだろう。
それでも、胸の奥に残った熱はもうざわついてはいなかった。ただ静かに、呼吸に合わせてそこにあって、さっきよりも少しだけ、やわらかくなっていた。
「こーじ。手、出して?」
ん、と出された手。
なんでも包み込んでしまえそうな大きな手。ほっそりした指が美しい輪郭。
その小指に、さっき俺自身が選んだリングをはめる。
康二にとっては、きっとメンバーからもらった、ちょっとした思い出の品くらいのものだろう。深い意味なんてない。
そう思っていることも、わかっている。
だから俺は笑って、「似合うね」と言った。
本当は、少しだけ違う意味だった。
いつか何かが変わることを願ったわけでもない。
ただ、今日という日のどこかに、俺の気持ちを小さく置いておきたかったのだ。
彼が気づかなくてもいい場所に。
それを見ていると、嬉しいのに、ほんの少しだけ寂しかった。
「お二人とも、そろそろ会場に向かいましょうか。」
そう言われて、二人で店主に礼を述べて、店を出た。
外はいつのまにか少し日が暮れ始めていた。
車が走りだすと、西の空には、溶けた蜂蜜のようなオレンジ色がゆっくりと広がっていて、街の輪郭までやわらかくしていた。
まるで今日という一日を、空が名残惜しそうに撫でているみたいだった。
俺はさっき康二の指に触れた、小さな指輪の感触を思い出す。
どうか、あの子を守ってくれますように。
これから先、何があっても、ちゃんと応援しよう。
隣にいられるあいだは、隣にいよう。
そんなことを、ターコイズの水浅葱色にそっと預けた。
遠くでは、オレンジ色の夕陽が、ゆっくりと沈もうとしていた。
きっと今日のことは、いつか思い出す。
あの青と、あの夕陽と、隣にいた康二のことを。
そのとき俺は、今日のことをなんと呼ぶのだろう。
まだ名前のない気持ちだけが、夕暮れのなかで、静かに残っていた。
FIN