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職場でパート仲間が口にする。
「うちの孫がスマホ教えてくれてね」「いい年して覚えられる?」
笑い合う昼下がり。
——“いい年して変われる”、それがどれほど誇らしいことか。
昼下がりの休憩室。
湯気の立つ紙コップのコーヒーと、スーパーの袋に入った菓子パン。
蛍光灯の音がかすかに響いている。
「うちの孫がさ、スマホ教えてくれてね」
「えー、いいじゃない」
「でも、覚えられなくて。ほら、いい年してでしょ」
笑いながら、千代子が手を振った。
その隣で、美津代はやさしく笑った。
「でも、覚えたんでしょう?」
「うん、まぁね。スタンプの送り方とか」
「すごいじゃない」
言葉にした瞬間、自分でも胸の奥が少し温かくなった。
昔は、変わることが怖かった。
歳を重ねるほど、「もういいや」「今さら」と口にする機会が増えた。
でも──。
昨日、孫に教わって初めて送ったスタンプ。
画面に「ばあば、かわいい!」と返ってきたメッセージ。
あの一言だけで、世界がちょっと広がった気がした。
「いい年して変われるって、案外、誇らしいことよ」
ぽつりとつぶやくと、隣の千代子が目を丸くした。
「ほんとね。なんか、若返った気がする」
二人して笑い合う。
窓の外では、午後の日差しが穏やかに街を照らしていた。
バスが通り過ぎるたび、光がテーブルの上をかすめていく。
美津代はスマホを取り出し、そっと画面をなぞった。
カメラを開いて、休憩室のコーヒーとパンを撮る。
「これ、送ってみようかな」
「いいね!」
笑い声が、午後の空気に溶けていった。
──“いい年して変われる”、それがどれほど誇らしいことか。