午後の公園。
小学生たちの声が風に混ざっている。
ベンチに座っていた美津代は、リュックからスマホを取り出した。
アプリを開くと、編み物サークルの掲示板にメッセージが増えている。
『今日もオンラインでやります?』
『寒いけど外で編みたい気分〜』
指を滑らせながら、ふっと笑う。
“いい年してスマホ”と笑われたあの日から、もう半年。
いまでは、この掲示板が小さな居場所になっている。
少し離れたベンチでは、スーツ姿の真帆がノートを広げていた。
隣に座った子どもが、タブレットで動画を見ている。
「すごいね、ちゃんと作ってるんだ」
「うん。アニメの続き、ぼくが描いてるの」
「へぇ、いいね」
声をかけた真帆の笑顔がやわらかい。
そのやり取りを見ていた美津代は、思わず頬を緩めた。
“いい年して話しかけるなんて”──そんな言葉が浮かんで、すぐに消える。
夕方、二人の帰る方向がたまたま同じだった。
信号待ちの間、自然と会釈を交わす。
「寒くなりましたね」
「ええ。でも、悪くないですね」
青になって、歩き出す。
風が少し冷たい。
けれど、どこかあたたかい。
──“いい年して”という言葉が、そっとほどけていく音がした。
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