【前回のあらすじ】
いつも118号室だけだった『紫』が203号室に現れ、岳山はその正体を確かめようと休憩室を出る。
――その時だった。
「岳山さん……あの『紫』って、 どういう意味なんですか?」
背中越しに声をかけてきたのは、新人の西谷だった。
入ってまだ日の浅い、俺が面倒を見ている後輩だ。
「……あー、その……」
言葉に詰まる。どう説明すればいい?
そもそも俺だって『紫』の正体なんて知らない。
頭の中に、ある先輩の言葉がふとよみがえった。
――「岳山くんはまだ日が浅いからね。知らなくても大丈夫だよ」
(……そうだ、これだ!)
俺は苦笑を浮かべ、肩をすくめて答えた。
「あー……西谷さんも、まだ知らなくていいかな。気にせず休憩してて大丈夫だよ」
「……そうですか?」
納得したのか、首をかしげながらも西谷は黙り込んだ。
よし、なんとかごまかせた。ありがとう、先輩。今この場で、あなたの言葉を使わせてもらいました。
俺は心の中でそう呟き、休憩室を後にした。
「……203号室、ここだな」
部屋を開けて中に入る。
続く
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