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くるりと振り向いた長峰は頬を掻く。

それはいつも自信満々の長峰とは違って、見たこともないような困った顔だった。


「シュークリーム、買いに行きましょう」


「……うん」


「コンビニですよね? ま、レトワールは今日は時短営業だし」


さっき見た顔は何だったのか、長峰はいつもみたいに飄々とした態度に戻っている。さっさと玄関で靴まで履いて「行かないの?」とこちらを見る。


「行くわよ。ちょっと待ってよ」


急いでコートを羽織って駆けよれば、乱れた首元の襟を綺麗に直された。


「ふっ、相変わらず寒そう」


「長峰がモコモコすぎるのよ」


外に出れば夕暮れで、吐いた息が白かった。

コンビニまでは歩いてすぐ。お互い無言で歩く。隣に並んで触れそうに近い距離なのに、無言のせいでコンビニまでの距離がいつもの倍くらいに感じられた。


何か喋ってほしいのに、自分からも何も喋ることができずにいる。もどかしい。なんでこうなるの。


年越しデート設定だなんて言うから。

……言ったのは私だけど。


ちらりと横目で長峰を見る。

背が高くて少し見上げてしまうくらい。ただ、普通にかっこいい。たぶん世間一般でのイケメンの部類なんだろうな。


ずっと一緒に働いていたけど、そんな風に長峰を見たことはなかった。私に恋人がいたから、他の男性に興味が向くことがなかったのだ。貴文と別れて、そのフィルターが外れたのかもしれない。


コツンと手が触れた。


「手、冷たっ」


「あー、すみません」


長峰が両手を擦る。

そういえば手袋を借りたままだった。


「ごめん、手袋。寒かったでしょう?」


「いつもこんなもんですよ。パティシエ的には手が冷たいの最高なんですけどね」


「そうなの?」


「そうなんですよ。生クリームとか扱いやすい」


「だから長峰が作るケーキは綺麗なんだ?」


てっきりいつもみたいにドヤ顔するんだと思った。当然でしょうとか言いながら、自信満々に。

なのに――。


「ありがとうございます」


長峰はにっこり微笑んだ。

その顔は今まで見たこともないくらいに嬉しそうに。


ドキッと心臓が高鳴る。

思わず胸のあたりをぎゅっと握った。

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