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#現代ドラマ
ゆうき あきや
4,038
259
#心理描写重視
第110話:逆転サヨナラと、銀行家のスポンサー契約
『十勝地区・親善草野球大会』決勝戦。
七回裏、ツーアウト満塁。スコアは2対5。
泣いても笑っても、これが最終イニング。長打が出れば同点、一発出れば逆転サヨナラという、漫画のような極限のシチュエーションである。
「アキヤくん! 頼む、村の未来は君のバットにかかっとる!」
ネクストバッターズサークルから打席に向かう俺の背中に、村長(御年70歳・満身創痍)の悲痛な叫びが刺さる。
ベンチの最前列では、村の特命応援団であるもふもふ達が、必死のエールを送っていた。
『ミャーウ!(ホームラン以外許さないわよ)』
シロが村の赤いバンダナを揺らし、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を輝かせながら、俺に向かって気高い鳴き声を上げる。
「キュンッ! キュンッ!」
コン吉とコン次郎は、小さなメガホンを器用に前足で叩きながら、ピョンピョンと飛び跳ねていた。
この最強に可愛すぎる応援団の姿は、ジンバルに固定された俺のiPhone miniを通じて、一千万人のリスナーに生配信されている。
相手チームのエースは、隣町の強豪クラブチームを率いる元・甲子園球児。
彼はマウンド上で、ベンチのモフモフたちから放たれる『圧倒的癒しオーラ』になんとか耐えながら、必死に闘志を奮い立たせていた。
俺はバッターボックスに立ち、愛用のミズノのバットをゆっくりと構えた。
陸上自衛隊『需品科』として、前線(塁上)で補給(生還)を待つ仲間たちに、最も確実な弾道で物資(ボール)を届けるための演算が始まる。
相手の球速、約140キロ。十勝の夏の風はレフトからライトへの微風。
第一球。
ピッチャーの指先から放たれた白球が、唸りを上げて迫ってくる。
「……ここだ」
俺は全身の筋繊維を爆発させ、完璧なロジスティクスに基づくフルスイングを敢行した。
カキィィィィィンッ!!!
金属バット特有の甲高い爆音が、球場全体に響き渡る。
ボールは重力を嘲笑うかのような放物線を描き、十勝の澄み切った夏空の彼方——ライトスタンドの遥か奥の防球ネットへと突き刺さった。
「…………逆転、サヨナラ、満塁ホームラァァァァン!!!」
実況を兼ねていたウグイス嬢の絶叫がマイクを通して響き渡る。
「うおおおおおおっ!! アキヤくぅぅぅん!!」
「やった! やったぁぁぁ!!」
村のベンチから、おじいちゃん選手たちが涙を流しながら雪崩れ込んでくる。
小春ちゃんも「お兄さん! 最高です!!」と叫びながら飛び跳ねている。
俺がホームインすると同時に、シロがふわりと反重力で浮き上がり、俺の肩に『ポスッ』と着地して喉を鳴らした。コン吉とコン次郎も俺の足元にまとわりついて大喜びだ。
そして、ジンバル越しのチャット欄は、この日最大の、いや、MeTube史上最大の『大爆発』を起こしていた。
『うおおおおおおおお!!!』
『サヨナラ満塁ホームランきたあああああ!!!』
『主、もはや草野球のレベル超えてるww』
『シロ様もキツネも大喜びで尊すぎる(号泣)』
その熱狂の最中、画面の右端で、とんでもない額のスーパーチャットが光り輝いた。
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト×100連発)=”Beautiful! This passion! This cuteness! I am moved to tears!“(美しい! この情熱! この可愛さ! 私は感動で涙が止まらない!)』
さらに、スイスの銀行家からのコメントは続いた。
『”I have decided! I will offer a 500 million yen sponsorship contract to this village team! Use it for Shiro’s premium food and a new stadium!“(決めた! この村のチームに5億円のスポンサー契約を申し出る! シロの最高級キャットフードと新球場の建設に使ってくれ!)』
「……………………は?」
小春ちゃんが、スマホの画面を見たまま完全にフリーズした。
騒ぎを聞きつけた村長が、老眼鏡をずらして画面を覗き込む。
「ご、ご、ご……5億円!? スイスの銀行から、ワシらのお年寄り草野球チームに、5億円のスポンサーじゃとォォォ!?」
村長は白目を剥き、そのままグラウンドの土の上にバタッと仰向けに倒れ込んだ。
「そ、村長ーーーっ! 誰かAED!!」
「ダメだ、みんな5億円って聞いて腰抜かしてる!!」
限界集落のおじいちゃんたちが、スイスの巨大資本の暴力的な数字の前に、次々とパニックを起こして倒れていく。
『草野球チームに5億円のスポンサーwww』
『プロ野球球団かよwww』
『おじいちゃん達の心臓が持たないww』
『シロ様のキャットフード代が数億円という事実』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Don’t monopolize them, Banker! I will offer 1 billion yen!“(独占するな銀行家! 私は10億円出そう!)』
もはや草野球の試合後とは思えない、国家予算レベルのオークションがチャット欄で始まりかけていた。
俺は倒れた村長を日陰に運びながら、キリッとした真顔でカメラの前に立ち、いつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「皆さま、落ち着いてください。この5億円という数字ですが、スイスフランと日本円の『為替レートの計算エラー』によるものです。決して草野球チームに投資されたわけではありません。これはただの、十勝の農業インフラに対する少額のふるさと納税であり、キャットフード代というのは『ネズミ駆除のための衛生管理費』の誤訳ですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
小春ちゃんが、持っていたスコアボードを俺の背中にフルスイングで叩き込んだ。
「計算エラーで5億も出ませんよ!! 石油王さんに至っては10億って言ってるじゃないですか! どう見てもシロちゃんとコン吉くんの可愛さと、お兄さんのホームランに感動しておかしくなってるだけでしょ!! 現実を見なさい!!」
『小春ちゃんのスコアボード・スマッシュww』
『為替レートのエラー(5億円のスポンサー)』
『衛生管理費(最高級キャットフード)』
『適応力バグおじさん、ついに国際金融のシステムまで言い訳に使うww』
一千万人のリスナーが大爆笑の渦に包まれる中、俺は「痛ぇな」と苦笑いしながら、ベンチに置いていた自分のタッパーを開けた。
村のチームメイトたちは、優勝の喜び(と5億円のパニック)のまま「今夜は町で一番高い寿司屋で宴会じゃあ!」と騒いでいる。
だが、俺の勝負メシは、どれだけ周囲がインフレしようと一切ブレることはない。
タッパーの中身は、完璧な水加減で炊き上げた『玄米』と、衣にまでこだわった自家製の『大豆ミートのソースカツ風』である。
「お兄さん……チームの皆さんはお寿司食べに行くのに、お兄さんはここで大豆のカツ食べるんですね」
「当然だ。ホームランを打つために消費したエネルギーを最も効率的に補填できるのは、玄米のビタミンと大豆の良質なタンパク質の組み合わせだ。陸上自衛隊需品科たるもの、兵站の乱れは許されない」
俺は真顔のまま、玄米と大豆ミートカツを口に掻き込んだ。
プチプチとした玄米の確かな歯ごたえと、ソースの染み込んだ大豆ミートの旨味が、激闘を終えた体に極上の多幸感をもたらしてくれる。
「コンッ!(ちょうだい!)」
「ダメだ、お前らには塩分が強すぎる」
足元でねだるキツネたちをたしなめながら、俺はシロの放つ冷感マイナスイオンを全身に浴びた。
数億円のスポンサー契約が飛び交い、村中がパニックに陥る中、俺はただ一人、ブレずに大豆と玄米を噛み締めている。
真っ青な夏の十勝の空の下。
限界集落からお届けする世界一バグったスローライフ野球は、圧倒的な平和とカオス、そして極上の癒しを世界中に撒き散らしながら、最高のフィナーレを迎えるのだった。
コメント
1件
(読了後の一言) いやっ…これ、最高でした……! 草野球の決勝で逆転サヨナラ満塁ホームランからの、スイスの銀行家が5億円スポンサー契約って情報量エグすぎて頭追いつかなかったんですけど(笑) シロ様の「ホームラン以外許さないわよ」も小春ちゃんのスコアボードスマッシュも、全部ツボでした… でも何より、みんながパニックになってる中で一人玄米と大豆ミートカツをブレずに食べてるアキヤくんの適応力バグに笑ったし、なんかじんわり温かくなりました… 癒しとカオスのバランスがめっちゃ好きです、ゆうきさん…!