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4 - 人ヲ殺シテハイケナイ

♥

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2022年10月23日

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※バットエンド注意

人ヲ殺シテハイケナイ


いつだったか、友人が夜を酷く怖がるようになったのは。

「……もうちょい話しててもいいか?」

「いいけど……もう夜二時過ぎてるだろ?さすがに俺も、そろそろ限界……」

これが小学生の頃だ。中学、高校なら昼夜逆転もなくはないだろう。ただ、アイツの場合、それが小さい頃からで、付き合う俺はよく睡眠不足になった。


幼馴染で、親友だと俺は思っている。アイツが俺のことどう思っているかは知らないけど。

アイツが俺に言えないことがあることも、アイツが変なところで感が鋭いのも、夜じゃなくて寝ることを怖がっていることも知っている。

知っている上で、知らないフリをしているんだ。

俺も、アイツに言えないことがあったから。


ずっと昔、人を殺したことがあった。

違法な借金取りで、親が俺のこと売ろうとして。正当防衛だった、子供だからって警察は言うけど、その感触が今でもフラッシュバックするんだ。

あれ以来、ずっと分からないままなんだ。

なんで人殺しでも生きることが許されるのか。

そもそも人を殺して、正当防衛ってなんだ。

人を殺してはいけない理由って、なんだ。

人殺しはいけない。それは分かるのに、それが何故なのかは俺たちは知らない。

ずっとずっと分からないままで、気が狂いそうなんだ。


俺もアイツも、自分のことで手一杯だ。だからお互い適度な距離感を保ちつつ、ずっと付き合いを続けていたんだ。

過度に相手と一緒にいない。相手が話すまで何もしないし、何も言わない。

アイツも、その距離感が心地良かったのだろう。いつしかそれが暗黙のルールになっていた。


ピンポン、と珍しくチャイムがなった。

郵便を送ってくるような人はいないし、何も頼んでいない。よって、俺の家のチャイムを鳴らすのはセールスのやつが大体を占めていた。

たまーに親友がくるので、毎回ドアを開けるのだが。(俺の家に録画機能や会話機能のついたチャイムはない)

……ここでドアを開けなかったら、未来は何か変わったのだろうか。


「はーい、セールスならお断りですけど」

「いやいや、ただツキハライクトさんにお話しがあるだけですが」

「セールスマンって大抵そういいますよね」

「まさか。ワタクシは人殺しであるあなたに取材を申し込もうと……」

「!!」

わざと、人殺しを強調した。一体何処からその情報が漏れたんだ?

「……アンタ、何が狙いだ。金ならねぇぞ」

「それは困りますねぇ。なにしろあなたのご両親、息子さんの財産を担保にされてますから」

「?!」

何のために家を出て縁切ったと思って……!そもそも俺を人殺しにしたのはお前らなのに……!

「本当に何もないのか、ご友人やあなたの会社に伺ってもいいのですが……」

親友には、知られたくない。やっと普通に慣れてきたところだったのに。フラッシュバックも少なくなってきたのに。

「ッ……、中へどうぞ……」

「おやそうですか。では、遠慮なく」


ずっとずっと分からないままなんだ。

人殺しが生きてもいいのか。こんなに幸せになっていいのか。夢を描いてもいいのか。

分からないフリをしていただけなんだ。

幸せを作った後、また壊されるのが怖かったから。

答えはシンプルで、かつ簡単だった。


やっぱり人殺しは人殺しで、幸せになる権利なんてなかった。

幸せを願ってしまったなら……幸せな生活を築いてしまったなら。

それをどんなことをしても守りたいと思うのは、おかしいことなのか?


「お茶、淹れますから大人しく座って待っていてください」

キッチンに入って、包丁を探す。

男は大人しくするわけもなく、俺の家の中を舐めまわすように、値踏みするように歩き回っていた。だから、アイツが気付くはずもない。

震える手で、俺は、包丁を、……。



「イクト、いるか?いたら返事してくれ」

「ムーマから家くるなんて珍しいな。どうかしたのか?」

「……お前、大丈夫か?なんにもないのか?」

「はい?何にもないけど。ムーマこそ急に来るなんて何かあった??」

「……い、いや。ちょっとお前が心配になって……虫の知らせ?的な……」

……本当、どうして今来るんだよ。

「ッハハ、なにそれオモシロ。あ、そうだ。せっかく来てくれたし、上がれよ」

いつもと同じ調子で、俺は言った。きっと、アイツにはどう頑張っても知られてしまうだろうから。

「じゃあ、お邪魔して……、!!」

リビングに上がったアイツは絶句した。そりゃそうだろうな。不自然なほど赤く染まった床と、生臭い鉄の匂い。そして、そこにある死体。

「ッ、…………!」

「お前、変なところでカン鋭いよな」

今も、泣きたいのを我慢して笑う。せめて、アイツが俺のことを嫌ってくれるように。

人殺しを演じなきゃな。


「……ごめん」

「本当だよ。気付くならもっと早く気付けよ。そしたらお前も、コイツも、殺さなくてよかったのに」

違う。謝らなきゃいけないのは俺の方なんだ。

俺、お前と一緒にいちゃいけない人間だったんだ。

「ごめん……!」

「……俺、お前と未来で笑いあいながらずっといい友達でいたかったんだ。その夢は叶いそうもないけどな」

俺の言葉に、アイツは何かに気づいたように目を見開いた。

俺が話せないことがあったように、アイツの話せないことと何か関係があったのかもしれない。

「ごめん……!!」

なんで謝んだよ。悪いのはどう考えても俺だろ。

「……俺の方こそ、ごめんねムーマ」

「俺、お前のこと、殺せそうにないわ」



病院で、俺は一命を取り留めた。

人を殺してはいけない。

だって、人を殺すことは自分を殺すことだ。悲しくて、辛くて、苦しくて、涙が止まらなくなるから。

それが近しい人であればあるほど。


「……俺のせいなんだよ。俺が夢見たから、お前が、死にそうになったんだよ」

道は、二つに別れた。

「生人(イクト)。俺、お前と一緒にいちゃいけない人間だったんだ。いや、そもそも生きちゃいけなかったのに、夢見たから」

そんなん、俺もだよ。

「あのとき、お前が俺を殺してくれた方がよかった。俺もお前も、こんな生き地獄が続くなら」

……そう。生き地獄だ。死にきれなかった。俺もお前も。

「……さよならだ。もう来ねえよ」

ああ。俺もそれを願うよ。

死ぬことでしか報われない、バットエンドが絶対的な俺らが、幸せになれる未来はあったのか?

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コメント

1

ユーザー

これ、前回のお話と繋がってたんですね!お互いの立場を使ってお話を書くってすごい!

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