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こはる
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期末試験先行審査も終わり、一夜明けるとその結果が発表された。審査基準は知らされていないが、見事全員が合格したようである。
それと同時に発表されるのが、一緒に組むパーティメンバーだ。それは教師たちが適切に決める。必ずしも仲の良い友達と組めるとは限らないが、仲間外れにもならない。ボッチに優しい仕様である。
これは協調性を見るための重要なポイントの一つだ。生徒たちは逸る気持ちを抑えながらも、遠征の準備に胸を躍らせている様子。
何せ初めての城外遠征。中には修学旅行気分の者も多いだろう。
俺が引率するのは六十人の生徒たち。生徒たちはバランスよく割り振られた四人一組のパーティで行動することになる。総勢十五組にもなる生徒たちの総責任者はネスト。その下に俺が付き、ダンジョン管理担当業務も兼任する。
その補佐としてあてがわれる教師が二人で、生徒たちに付ける試験官として前衛担当の冒険者が十五人の構成だ。
現在は、それら責任者が一堂に会するための会議の場へと赴いている。
学院の会議室での待ち合わせ――と言っても、城外での流れはある程度決まっている為、お互いの顔見世が目的のようなものらしい。
俺の横にいるのはカガリだけ。ミアと他の従魔たちは別の用事のため、街へと出払っている。
ネストと二人の教師とは軽く挨拶を交わし、試験官となる冒険者たちを待っているのだが、その内の二人は知っている。
まずはバイス。学院の試験で俺のダンジョンを使うということを知り、面白そうだと首を突っ込んできた。
試験官の冒険者はランダムに割り振られるが、バイスだけは自分達の所に来るように仕向けている。
そしてもう一人はフィリップである。バイスとは違い、このグループに割り振られるとは限らないが、裏で貴族の誰かが手を回しているなら、確実にこの部屋に姿を現すはずである。
しばらくすると会議室の扉が開き、姿を見せたのは十五人の冒険者。胸に輝くプレートがその証明だ。
シルバーが十二人にゴールドが三人。その中にいる見知った顔は、予想よりも一人多かった。
その者の名はロイド。スタッグギルドでミアに不正を働かせようとしたクズだ。
俺と目が合うと、酷く引きつった表情を見せ、スッと目を逸らす。俺がここにいるとは思わなかったのだろう。
とはいえ、あれは終わった事。今更蒸し返そうとは思わないし、向こうからちょっかいをかけて来ることもないだろう。
ミアがこの場にいなかったのが、唯一の救いである。
「九条じゃねぇか! 久しぶりだな!」
大きな声で真っ先に握手を求めてきたのは、フィリップだ。
俺はそれに愛想よく応える。
「お久しぶりですフィリップさん。炭鉱の道案内の時以来ですかね」
「そうそう、覚えててくれたか。懐かしいなぁ」
どの口がそれを言うのか……。演技をしているように見えないのは、恐らく本心だからだろう。
フィリップの目的は、俺のダンジョンのマップを手に入れ、雇い主である生徒の試験を有利に運ばせること。
シャーリーが行方不明の今、俺に直接その話を振ってくる可能性もある。
仲良くなってこっそり聞き出そうとするのか、はたまた金を積んで聞き出そうとするのか……。
今のところそういった素振りは見せてはいないが、呑気なものだ。俺たちを騙せていると思っているのだから。
「シャーリーがいないのが残念だが、あの時の面子が四人も揃うなんて世界は狭いなぁ!」
はらわたが煮えくり返りそうではあったが、それを顔に出せばすべてが水の泡である。
そんな怒りを微塵も見せず、黙々と話を進めるネストは、さすが貴族だけあってポーカーフェイスが板についている。
「久しぶりねフィリップ。まあ積もる話もあるでしょうけど、一旦座って自己紹介といきましょう。お互い初めての方も多いでしょうし」
全員が着席するとネストから自己紹介を始め、それが終わると合宿についての注意事項などが読み上げられる。
それに全員が同意すると、引率者の顔見世はひとまず終了。後は質疑応答の時間。
「九条さん。一つ質問してもよろしいですか?」
「ええ。どうぞ」
恐る恐る手を上げて質問したのは、神聖術の教師をしているロザリーだ。
黒髪長髪の女性。年齢はネストと同程度で、着ている白衣が研究職であることを思わせる。
おどおどと自信がなさそうに喋るのは、俺に恐怖を感じているのか、性格なのかはわからない。
「担当ダンジョンの魔物にアンデッドが多いのはなぜでしょう? 例年であればスパイダー種やワーム種など自然界の魔物が多いのですが……」
「あー、それはですね。少し前にダンジョンに巣食っていたゴブリンとオークを全て一掃したのですが、その亡骸を放置していた為だと思われます。低級のアンデッドだった為、特に対応などはしていなかった――というのが現状ですね。彼らはゴブリンやオークたちとは違って農作物や家畜を奪ったりはしないので。それらをそのまま活用しようと思ったまでです。ここの生徒たちならスケルトンやゾンビ程度に後れを取ることはないと思いますが……」
「そうですか。理由が聞きたかっただけなので大丈夫です。ご回答ありがとうございます」
「気になることがあればギルドで調べて下さって結構ですよ? 履歴に残っているはずですから」
「いえいえ、滅相もない。プラチナの方が嘘を付くとは思えませんし、今の解答で十分です」
機嫌を損ねてしまったのかと焦り、誤解を解こうと必死に両手を振るロザリー。
フィリップはそれを見て感嘆の声を漏らした。
「やっぱ九条はプラチナなんだなぁ。なんつーか、あの頃とは全然違って見えるわ」
「そうですか? プラチナといっても殆どが従魔たちのおかげですし、死霊術は役に立ちませんし、あまり大差はないと思いますけど……」
「でも、あの時のダウジングは凄かったぜ? 迷路みたいな炭鉱を全く迷わずに抜けたんだからな。あー、そういえばネスト。俺達にはダンジョンのマップは明かされないのか?」
「ええ。これは生徒たちの自主性を見るための物でもあるから」
「そうか……。でも、ほら。何があってもいいように、知っておいた方がいいんじゃないか?」
「それじゃ試験にならないわ。生徒たちに助言することは禁止されてるけど、先入観は意図せずとも働いてしまうもの。分かれ道に立たされた時、試験官の顔色で判断しようとする生徒がいるとも限らないからね。何もないから安心して? それとも九条が信用出来ない?」
「いやいや、そんな事はないが、もしもってこともあるかと思ってな……。まあ、そこまで言うなら大丈夫だろう。悪かったな……」
少々不満そうにも見えるが、無理に取り繕っているようにも見える。
その内心をわかっている俺たちから見れば、どうにか地図を入手しようと必死な様子は滑稽だ。
「これ以上質問がなければ解散ということで構わないかしら? 集合は一週間後。生徒たちの馬車の準備が出来れば出発よ。冒険者の皆さんは宿泊や食事に掛かる費用は全て学院持ちだって聞いているでしょうけど、用意された食事以外は自腹だから気を付けてね。あとは試験前まで不必要に生徒たちとの会話は避けること。さっきも言ったけど余計な先入観は与えないようにお願いね」
それに無言で頷く冒険者たち。各自に配られた注意書きを懐に仕舞うと、そそくさと会議室を後にする。
ネストが畳みかけるように会議を締めくくると、そこに残ったのは俺たちと僅か数人の冒険者だ。
「九条、久しぶりに会ったんだ、ちょっと飲みにでも行かないか?」
その内の一人であるフィリップは俺の肩を叩き、気さくに振舞う素振りを見せた。
それに返事をしたのは俺ではなくネストだ。
「ごめんなさい、フィリップ。九条はまだこの後やることがあるの、それが終わってからなら……」
わざとらしく見えるのは、俺に何の用事もない為だ。
「フィリップ。俺なら空いてるぜ?」
「いやいや……。ならいいんだ。バイスもすまんな。気を遣わせて。街中でばったり会う事もあるだろうし、その時はよろしくな」
そう言うと、フィリップは諦めたように去って行った。
その後ろ姿は、何か未練でもあるかのように、暗い影を落としていたのだ。
「……」
しばらくすると、会議室から激しい衝撃音が響いた。その原因はバイス。
振り下ろした拳がテーブルに直撃し、それが真っ二つに割れたのだ。鋼の手甲を纏っていれば、その威力も当然の結果である。
「くそッ! フィリップがあんな野郎だったとは……」
バイスが冒険者として行動する時、他の貴族たちの息のかかっていない冒険者を探すことが多い。故にフィリップとは長い付き合いだったと聞いている。
ベルモントまで足を延ばす必要はあるものの、その実力は折り紙付き。ネストと俺を除けば、一番親密にしていた冒険者でもあるのだ。
この話を聞いたバイスは、半信半疑だった。だが、酷く地図に固執するフィリップを見れば、それが確信へと変わってしまうのも頷ける。
仲間を裏切らない。他人の獲物を奪わない。余計な詮索はしない。これらは冒険者の三大タブーと言われるものだが、フィリップはそれを犯したのだ。
そんな傷心のバイスに掛けられたネストの言葉は、なんとも辛辣な一言であった。
「テーブル代は報酬から引いておくから」