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「朝食、食べていかないのか?」
「んや、そこまでお世話になるつもりねーし。もし、そうなる未来があるとしたら、星埜が俺のお嫁さんになってくれた時♥」
「いってる意味わかんねえし、食わないなら、学校に行く準備しろよ」
「え~どーせ、今日終業式だろ? いかなくていーじゃん」
「ダメだ」
「星埜って、ほんと堅いよなあ。そういう所」
悪かったな、堅くて。と言いたかったが、別に言う必要性を感じず、俺は、口を閉じた。言わなくても、朔蒔は分かってるだろうなってのがあったのと、あんまりしつこく言って嫌われたくないっていうのもあった。
手元で、焼いている目玉焼きが焦げそうになって、俺は慌ててお皿に載せた。食べると思って、二つ作ってしまった。勿体ないので、食べるが、少し寂しい気もする。
(嫌われたくないって何だよ)
此奴のせいで寝不足だ。
なんて、朔蒔は知るよしもないだろうけど、俺は、朔蒔のせいで寝不足だった。他人のせいにするのはいけないって分かっているが、それでも、此奴のせいにしずにはいられなかった。此奴が、俺の中に入ってきたから。俺の事ぐちゃぐちゃにして、その馬鹿でかい引力で俺の事引っ張って、他のものなんて目に入れられないくらい輝くから。
満天の星空の中からでも見つけられてしまう、一等星のようなそんな存在。朔蒔は、俺にとってそんな存在になっていた。
だって、学校でも、何処にいても見つけられてしまうのだから。
前までは、意識的にではなく、無意識的に見つけられたが、今思えば、あれは無意識の中の意識的に見つけられていたんだろうなって思った。何言っているか自分でもよく分からないけれど、兎に角、琥珀朔蒔という存在が、俺の中で大きなものになったと言うことだけは、確かだった。いい話なのか、悪い話なのか分からないが。
恋愛に性別は関係無いし、たまたま好きになったのが男だった、っていうだけで誰も何もいわないだろう。そもそも、人の恋路に足を突っ込むこと自体が可笑しいのだから。
(まあ、そんなことは良くて)
「で、帰るのか」
「何? 星埜はずっとここにいて欲しいわけ?」
「いて欲しいわけじゃ……ないけど、いや、いて欲しくはない」
「どっち」
「お前の家じゃない」
今の俺には、こうやって答えるのが精一杯で、朔蒔は「あっそ」と、また感情をストンと落として答える。その顔が怖いんだよな、と、最近思い始めた。ううん、もう、全てが意識的に行われるせいで、朔蒔を意識せずにはいられないのだ。
本当に最悪だ。
何で好きになったんだろうか。好きな要素とか、あげろって言われたらあげられないのに。なのに、好きっていう気持ちは、そこにあるわけで。
恋のマスター楓音に聞くのが手っ取り早いか。でも、友達っていう関係を壊しそうで怖いって言うのも若干ある。楓音は俺の恋愛対象が今回たまたま男だって知っても、嫌いになったりはしないだろう。だが、問題はそこにあるわけじゃない。
「はあ……」
「俺みて、溜息ついてんの? 溜息って幸せにげるじゃん」
「うっせえ、今色々考えてんだよ」
「星埜ってば、変なの~」
と、朔蒔は、興味があるのかないのか分からない言葉をかけて、玄関へ向かう。
多分、学校には来てくれるんだろうが、学校に行ってから、ちゃんと顔を合わせられるか心配だ。
俺は、多分意識するとダメなタイプなのだ。意識してしまったから、自覚してしまったから、これから朔蒔と顔を合わせるのが億劫になるかもしれない。恋をしているくせに億劫とかあわない言葉を使うが、いつもの俺でいられない気がするのだ。
「じゃあ、星埜行くけど、また、あとで学校でなァ。遅れんなよ」
「誰に向かって言ってんだよ。はあ……ああ、うん。また、あとで」
朔蒔は、俺がこうやって返したのが嬉しかったのか、満足げに笑って、俺の家を出て行った。
彼奴がいなくなって静かさを取り戻した部屋は本当に空っぽで、一気に力が抜けた俺は、IHを切って、その場にへたり込む。
今までの会話、普段通りだったか。それとも、可笑しかったか。
(そういえば、彼奴、結局身体見せてくれなったけど……いや、見たかったというか、何隠してるのか知りたかっただけで)
紛らわすために、浮かんだのは結局朔蒔のことで、何故朔蒔が昨日夜訪ねてきたのか、身体を肌を見せなかったのかその理由は何も分からずじまいだった。あとから聞こうという気にもなれず、嵐が去った、という風に流して、俺は俺の支度を始める。
鏡の前に立って、笑顔を作って、いつもの俺だという暗示をかける。
「平常心、平常心……大丈夫だ」
パシンッと自分の頬を叩き、俺はもう一度鏡を見る。けれど、その鏡に映っていたのは、今までの俺ではない、何処か、ソワソワと落ち着かない、常に頬を染めているような、女の子の顔をしている俺だった。
可笑しい。
矢っ張り、可笑しいよな……
(全部、彼奴のせいなのに……好きだって、止ってくれない)
クソ、最悪。暗示をかけたのに、すぐに魔法が解けたように、俺は洗面台にひれ伏した。