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「星埜くん寝不足?」
「いや、まあ、そんなところ」
朝、学校に着けば、すぐに俺の不調を感じ取った楓音が心配そうに俺に駆け寄ってきた。少し前屈みで、俺の顔を覗くように、楓音は上目遣いで俺を見てくる。
可愛い、天使……なんて思いながらも、それは単なる可愛い感情だって気づいてしまって、俺は申し訳ない気持ちになってきた。別に、楓音と、朔蒔を比べるわけじゃないし、可愛さで言えば、楓音が一番だって分かっている。けれど、俺が好きなのは、朔蒔なんだって気づいてしまって、もうぐちゃぐちゃだ。
思わず、大きなため息を楓音の前でついてしまって、大丈夫!? と過度に心配される。
楓音が心配性な事をすっかり忘れていたため、俺は「大丈夫だから」とこちらもまた、大げさに言ってしまい、さらに、楓音の不安を煽る結果になってしまった。
(……てか、朔蒔来てないのかよ)
くるって、約束したくせにまだ朔蒔は学校に来ていなかった。まだ、時間はあるし、その内来るだろうと想いながら、俺は、朔蒔への恋心を、友達である楓音に打ち明けても良いものかと考えた。相談に乗って貰いたいという気持ちは多いにあるが、関係を壊したくないって言うのもある。だからこそ、打ち明けて良いものなのかと、躊躇ってしまう。
楓音の方をちらりと見れば、彼の大きな青い瞳と目が合ってしまい、彼に隠し事をする方がいけないのではないかという気持ちに駆られ、俺は、ごめん、と心の中で呟いたあと、楓音の肩を掴んだ。
「楓音、相談したいことがあって」
「相談? 僕で良ければ、相談に乗りたいな」
なんて、楓音は嬉しそうに笑う。それは、頼ってくれたことへの嬉しさというか、そういうものだと思うから、純粋な彼の気持ちを傷付けるような気持ちになって、またいたたまれなくなる。矢っ張り、いいや、とも言えない雰囲気になって、俺は、ゴクリと喉を上下させる。これでは、楓音に告白する前の人間みたいだと自分でも思った。幸い、まわりは、俺達の行動に興味を示していなかった。まあ、大きな声を出せば、注目されること間違いなしなのだが。
「あの、楓音……まずさ、俺が何を相談しても、受け入れてくれる?」
「うん? 何でそんなこと聞くの?」
「いや、だって……その、さ。友情踏みにじるようなことだったら、その、申し訳なくて」
と、俺が言えば、楓音は何を可笑しなことを言っているんだと言わんばかりに、目を見開いた。それから、キョトンと、首を傾げて、俺を見つめる。
大丈夫だよと、その目が訴えかけてきているようで、俺はギュッと胸が締め付けられる。
何を言われるかなんて、楓音は想像していないだろう。そもそも、俺は朔蒔が苦手だ、と公言しているから、あり得ない事だって思われるかも知れない。すぐには、受けいられられ無いだろう。俺だってそうだった。受け入れられなかった、気づかないフリをしていた。でも、愛おしさが生れてしまったのだ。
何処で、といわれると、難しい話だが。
昨日のあの件で、風呂場のことは抜きにして、何となく、琥珀朔蒔という人間を知りたいし、彼を受け入れたいと思ってしまった自分がいて。それが、恋なんだって俺の中で収拾がついて、そして、気づけば恋をしている、好きだって感情が表に出てきた。
「大丈夫だよ。僕は、星埜くんの味方だから」
「楓音……」
「恋の、悩み……じゃない?」
と、楓音は、的確に俺の悩みを当て、少し寂しげに瞳を揺らした。
それを見て、ああ、矢っ張り、言わなかった方が良かったかも知れない、と少し後悔してしまう。
彼自身気づいていないかも知れないが、楓音の眉がハの字にまがってしまっているのだ。諦めというか、悲しみというか、その表情に全てが詰まっている気がして、俺は、これで良かったのかと、すら思ってしまう。正しい選択が出来なかったんじゃ無いかと。
これは、俺の理念に反すると。
「ああ、大丈夫だからね。星埜くん、ドーンと構えて! 僕、これでも数多の恋愛相談乗ってきたんだから!」
「ごめん、楓音……」
「謝らないで!」
そういって、楓音は俺の口を塞いだ。長い前髪が、目を覆って表情は見えなかったけど、悲しみのオーラが伝わってきて、俺は口をそれ以上動かさなかった。
「惨めになるから」
「……」
「でも、大事な『友達』の星埜くんが、僕に打ち明けてくれたんだもん。何でも聞くよ。大丈夫、ね?」
なんて、顔を上げればいつもの楓音で。いつも以上の楓音で、俺は、唇を噛み締める。
でも、ここでまた、彼の心を裏切ったらいけないと、俺は、朔蒔への恋心を打ち明けることにした。本人に言えって話だけど、そんな勇気はまだないし、これが初めての恋だから。真剣に向き合ってみたいって思った。
「楓音、実は俺……朔蒔のことす、きになっちゃって、みたいで、さ」
「……っ、朔蒔くんを?」
「……ん」
「そっか……そうか」
と、楓音は何か納得したように、自分に言い聞かせるように、顎に手を当て考える素振りを見せたあと、俺を見て、おめでとう、と祝福するように笑う。
「いいと思う。矢っ張り、運命だね。二人とも」