テラーノベル
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玄関の壁。
エリオットの背中はまだそこについている。
チャンスの腕が壁についたまま。
距離はほとんどゼロ。
ネクタイはまだエリオットの指に巻かれている。
くい。
また引かれる。
「チャンス、まだ本気じゃないじゃん」
エリオットは笑っていた。
完全に煽っている。
数秒。
沈黙。
チャンスは動かない。
ただじっとエリオットを見る。
サングラス越しでも分かる。
空気が変わった。
エリオットも少し気付く。
「……チャンス?」
その瞬間。
ネクタイがぐっと掴まれる。
強く。
そして。
引かれる。
エリオットの体が前に引き寄せられる。
バランスが崩れる。
「え、」
言い終わる前に。
チャンスがそのまま方向を変える。
数歩。
リビング。
そして――
ドサッ。
エリオットの背中がソファに沈む。
クッションが大きく揺れる。
金髪が散る。
一瞬、天井が見える。
次の瞬間。
視界に入るのはチャンス。
ソファの上から覗き込んでいる。
片手はソファの背。
もう片手は。
まだネクタイを握っている。
エリオットは少し目を丸くする。
「……」
チャンスが低く言う。
「本気じゃないって?」
さっきより低い声。
エリオットは数秒黙る。
それから。
小さく笑う。
「……今の」
少し息を吐く。
「ちょっと本気っぽい」
チャンスは答えない。
ただ距離を少しだけ詰める。
エリオットの胸元にネクタイが落ちる。
まだ掴まれている。
「エリオット」
低い声。
「煽るなって言った」
エリオットはソファに沈んだまま肩をすくめる。
でも。
手が動く。
ネクタイをまた指に巻く。
くい。
チャンスの体が少し前に傾く。
ソファの上。
距離はもうほとんどない。
エリオットは笑う。
「でもさ」
少し挑発的な声。
「来たじゃん」
チャンスの眉が動く。
「ここまで」
ネクタイを軽く引く。
くい。
エリオットが言う。
「本気で」
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