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久しぶりに、ふたりの休日がそろった前日の夜、仕事終わりに一杯引っかけようということになり、陽さんと待ち合わせをした。
(いつもは遅刻ばかりする俺が、こうして先に来てるなんて、陽さんは思いもしないだろうな)
待ち合わせ場所に指定したコンビニの雑誌売り場で、車関連の本を手に取りながらニヤニヤしてしまう。頭の中で笑い皺を目尻に作った陽さんが、俺に微笑みかけながら褒めるところを妄想していた。
「車のパーツを見ながら、イヤラしい顔ができるとは、雅輝はマジですげぇのな」
「げっ!」
背後からかけられた声に、両肩が自然と竦み上がる。
「残念。やましい雑誌を読んでたら、ここぞとばかりにツッコミを入れてやろうと思ったのに」
「よよよ、陽さんっ!?」
「おまえ、驚きすぎだろ。それとも頭の中で、やましいコトでも考えていたのか?」
小さく笑いながら顔を寄せられただけで、いやおうなしに胸がドキドキした。
(大好きな陽さんの格好いい顔が傍にあるだけで、痛いくらいに胸が高なってしまう。未だに慣れないなんて)
「雅輝、図星なんだろ?」
「違いますよ。そうじゃなくてですね……」
「うん?」
照れまくる自分の顔を、どうしても見られたくなかった。持っていた雑誌で、目元の下まで覆い隠しながら、しどろもどろに話しかけてみる。
「珍しく、俺が先に来ていたでしょ?」
「そうだな。変なことがおこらなきゃいいけど」
「陽さんにその――。褒めてもらえたら嬉しいなんて思っちゃって」
俺のセリフを聞いた陽さんが、パチパチと瞬きをしたのちに、すっと顔を遠ざけた。
「なーんだ、そんなことかよ」
「そんなことなんて……」
車の運転以外で、陽さんに褒められることがない俺にとっては、そんなことではなかった。
「じゃあこのあと飲みに行ったあとは、なにもせずに、そのまま就寝でいいんだな?」
形のいい口角を意味深に上げた恋人が、さっさと背中を向けて、コンビニから出て行く。
「待ってくださいよ。これ買っていきたい!」
慌ててレジに向かった俺を、陽さんは店の外から呆れた顔で眺めたのだった。