テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「瑞奈」
語りかけるそばから、俺の声が部屋の中で行き場を失っていくようだった。それでも、俺は声をかけ続ける。「瑞奈」彼女からの返事は無いと分かっているのに。「瑞奈」何度でも口にする。
瑞奈の頬や額に手をあてた。冷たくなっていると感覚が伝えてくるのに、彼女の温もりを探り当てるようにその柔らかな髪をとく。髪の束をなかば噛むように口にあてた。匂いが残っていた。残酷なまでに瑞奈だった。
枯れ果てたはずの涙がまた溢れてくる。寂々たる室内でしゃくりあげる度に意識を失いそうだった。
「あの」
咲良がそっと俺に声をかけてくれた。
「姉が、晴翔さんに内緒にしていたことがあって」
覚悟を決めるように、咲良が息を吸う。
「姉は視線入力を練習していたんです。文字盤を使った会話ではたくさん喋ることができないから。晴翔さんといっぱい喋りたいから。晴翔さんに色々な気持ちを遺したいから。でも、視線入力しているところは内緒にしたかったようで。たぶん、……驚かせたかったんじゃないでしょうか」
「瑞奈が」
あの機械音痴な瑞奈が――。
「ようやく長い文章を視線入力で書けるようになって。その時に書いた文章を保存しているんです。晴翔さんへの想いに満ち満ちた文章が」
ぽっと瑞奈の顔が浮かぶ。
どんな時でもあきらめない瑞奈らしい情熱を漲らせた表情で、にいいっと笑む。
「咲良さん、瑞奈が視線入力した文面を見せてくれませんか」
直後だった。
声が、聞こえた。
3、2、1とカウントダウンする瑞奈の声。
そうして――