TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
シェアするシェアする
報告する

〜宮城リョータside 〜

フードを深く被り、ラジカセでジャズの音楽を流す。

建物のガラスを鏡がわりにしして、ガラスの中の自分と見つめ合いながら、音に合わせて手足を動かす。

気がつけば、キャリーケースを持ったおばさんが、ケースを椅子にして手拍子をしていた。

それに続き、夕方の街を歩くいろんな人たちが立ち止まり、俺に手拍子を送る。

けれど、俺は彼らの方を振り向いて踊ることはない。

彼らに背を向けて、ガラスにうつる自分を見て踊る。



小学生の頃、沖縄に住んでた。

そして、俺には、3歳上の兄、ソータがいた。

俺とソーちゃんは小さなダンススクールに通い、教室がない日も、家の窓を鏡にして、一緒に踊っていた。

ソーちゃんはダンスが上手かった。

いつもニコニコしながら、歌詞を口ずさむようにして踊っていて、そんなときのソーちゃんはキラキラして見えた。

休日は、米軍基地で働くアメリカの軍人さんたちの前で踊って、you are cool!だのwonderful!だの褒められて、たまに長い英語で話されて、意味もわからずサンキューサンキューと返していた。

「リョータも一緒に踊ろうや。」

そう誘われたこともあったけれど、俺はソーちゃんみたいに上手くないし、踊っていたら輝いて見えるなんてこともなかった。

そんな俺が、唯一、ソーちゃんと同じステージに立つのは、ダンススクールの発表会の時だった。

本番前、俺は毎回緊張して、泣き出しそうだった。

そんなとき、いつも舞台袖でソーちゃんは言っていた。

「俺も緊張してる。でもな、リョータ。心臓バクバクでも、めいっぱい平気なふりするんやぞ。」


そんなソーちゃんが、海の事故で死んだ。

内容も忘れてしまうようなくだらない喧嘩をして、俺は

「二度と帰ってくんなっ!」

と言ってしまった。

あの言葉を言ったことと、海の事故は繋がってない。

それでも、俺はあの言葉が呪いのように感じて、言わなければ良かったとずっと後悔している。


ソーちゃんが死んでから、ダンススクールに行けなくなった。

でも、ソーちゃんのことを忘れたくなくて、二人でやっていたように、ガラスに向かって練習を始めた。

もうステージに立つつもりなんてないけれど、なんかの間違いで、ソーちゃんは死んでなくて、数年後、またどこかで会ったときに、上手くなったなって言ってもらいたくて、今もずっと練習を続けている。



数曲踊り終え、ひと通り汗を流したところで、ラジカセの電源を切る。

早く帰らないと、母親と妹のアンナが心配する。

後ろでは、まばらな拍手が聞こえてくる。

俺は、自分とソーちゃんのためにしか踊ってないから、彼らにお辞儀はしない。

ラジカセを抱えて立ち上がると、背の高い、とにかくデカい男性に声をかけられた。

「私、こういうものですが…。」

渡された名刺には『湘北エンターテイメント 子会社社長 赤木剛憲』と書かれていた。

湘北エンターテイメント…。

安西光義の会社だ。


ソーちゃんが昔、テレビに流れてくる昭和のダンサーTOP10という番組を見ながら言っていた。

「リョータ〜、この人すごいぞー。安西光義って、日本版マイケルジャクソンみたいだぞ。」

あの頃は、ソーちゃんの方が上手いって思っていたけれど、ソーちゃんが死んだ今、俺のダンスのお手本は、安西光義だった。


「君のダンスを見たよ。うち、今アイドルになれる人材を探してて、うちの事務所に入ってくれないか?」

アイドル…。

今だって、自分とソーちゃんのためにしか踊ってない俺が…?

「一度、ご両親にも伺って、答えを出してほしい。」



「りょーちゃん、アイドルになるの!?すごいすごい!!」

家に帰りその話をすると、アンナは大はしゃぎ。

「まだ決めたわけじゃねーって。」

「りょーちゃんがステージに立って〜、グッツとか売って〜、学校で、これうちのお兄ちゃんなんだよねとか自慢して〜…それから…」

「おーい、アンナ〜?」

そして、アンナが先に寝たあと、そっと母さんが伺ってきた。

「りょーちゃん。どうするん?」

「俺、ダンスが好き。…でも、俺は…人のために踊ったりとか無理だから、ステージに立つ資格はない。」

「りょーちゃん。ごめんね。りょーちゃんに、ソーちゃんのことで苦しんでほしくなくて、神奈川まで逃げてきて。」

「なんで、急にそんな話?」

「ソーちゃん、言ってたんよ。りょーちゃん、ほんとはもっとステージに立ちたいって思ってる。ソーちゃんが踊ってる間、ずっと出番が来るのを待ってる顔してるって。資格とか、関係ないよ。頑張れること頑張ればいいじゃない。」


カチッ

俺の心の歯車が、動き出した音がした。

気がつくと、事務所に電話をかけていた。

彼らがアイドルになる話。

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

30

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚