テラーノベル
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この土日、迅は予定通り友人の結婚式に赴いていた。一泊してこちらに戻ってくるのは、今日の昼前くらいになると言っていた。
帰って来たその日に、私との時間を作ったりするのも大変だろうと思い、この前の電話では無理をしなくていいよと言ったけれど、やっぱり彼と会えない休日はなんとなく物足りない。これまでは、休日に一人で過ごすことなどまったく普通のことだったのにと、そんな自分の変化に驚く。
あの時の電話で彼は、今度からは平日も誘うようなことを言っていた。けれど、実際には互いの仕事の都合でそれはなかなか難しく、先週は会えなかった。恐らくそれは今週も同じだろうから、次回彼に会えるとすれば、一週間後の週末になるに違いない。
土曜日の昨日は実家に行き、その日のうちにマンションへと戻ってきた。
そして今日は午前中のうちに買い物に出かけた。その時買って来たサンドイッチで昼ご飯を済ませた後は、ソファの上で膝を抱えながらテレビを眺める。
画面の向こうでは、日曜の昼下がりらしい番組が賑やかに進行していく。しかし、内容が全く頭に入ってこない。私はリモコンを手に取り、テレビを消した。ふっとため息をつき、時計を見る。これからまたどこかに出かけるのも億劫だ。
「何しようかな。掃除は済ませたし。買い物も終わったし。たまには読書でもしようかな」
私はのろのろと立ち上がり、テレビ脇に置いた本棚に足を向けた。その中からお気に入りの小説を抜き取り、再びソファに腰を下ろした。
途端にテーブルに置いたスマホが高らかに鳴り響いた。
誰からだろうと画面をのぞき込んで、どきっとした。迅からの電話だった。もしかして、とわずかな期待を胸に、私は急いでその電話に出た。
『塚本です』
柔らかく響く声に耳がくすぐったい。私はぎこちなく、また、彼に合わせてかしこまった口調で答える。
「は、はい。遠野です」
『もう何回も電話してるけど、出る時はいまだに、遠野です、って言うね』
「それを言うなら、迅君もでしょ?それに合わせてるだけよ」
『そっか。それなら次からは名前を言おう』
くすくすと笑い、それから迅は声を改める。
『今、何してた?』
「これから本でも読もうかな、って思ってたところ。迅君は?もうこっちに帰って来たの?」
『うん。予定通り、昼前にね』
「そう。お帰りなさい。いい結婚式だった?」
『あぁ、とっても。アットホームな雰囲気で良かった』
「そっか」
互いに奥歯に物が挟まったような他愛のない会話だった。しかしその流れを迅が変える。
『あのさ、これから行ってもいい?』
私は戸惑いながら訊き返す。
「あ、あの、私の部屋に……?」
『うん。お土産を買って来たから、それを渡したい。って言うのは建前で、美祈ちゃんに会いたいんだ。だめかな?』
「で、でも、あの……」
『今日も、部屋が片付いていないからっていう理由で断られちゃうかな?俺は別に、部屋が片付いていようがいまいが、構わないんだけど』
「そ、掃除は終わってるけど……」
『うん?それなら?」
答えを促されて、私はおずおずと口を開く。
「え、えぇと、私も会いたいなって思ったよ……」
迅の声が嬉しそうに和らぐ。
『美祈ちゃんがそんな風に言ってくれたの、もしかして初めてなんじゃない?』
「そ、そうだったかな」
『そうだよ。なんにせよ、ちゃんと俺に会いたいと思ってくれていたのが分かって安心したし、嬉しいよ。ということで、部屋に入れてくれる?』
私の意思を確かめようとする迅の言葉には、どこか緊張の響きがにじんでいた。また、それが伝染したのか、私まで緊張してきてしまった。
彼はいつも私をそういう目で見ているわけではないと言っていたし、部屋に招いたからと言って、すぐにそういう展開になるわけでもない。それに、迅は彼氏だし、私は彼を好きだし、と、私の頭の中では思考がとりとめなく入り乱れた。それを落ち着かせるために深呼吸をしてから、私は彼に答える。
「待ってるね」
電話の向こうから、迅のほっとしたような息遣いが伝わってきた。
『これから準備して向かうね。そっちに着くのは、三時過ぎになるかもしれない。マンションに着いたら、電話を入れるよ』
「分かった。じゃあ、後でね。部屋番号は……」
こうして迅との電話を終えた私は、慌ただしく立ち上がった。
部屋中をうろうろと移動しながら、ひと通り片付いていることを確かめる。続いてキッチンに行き、冷蔵庫の中をのぞき込んだ。もし、夕ご飯を一緒にとることになった時のために、今ある材料を確認する。定番の料理を出す分には特に問題はなさそうで、ひとまずほっとする。その後は、自分自身の身支度のために鏡の前に立ち、手早くメイクを整えた。服はどうしようかと少しだけ考えて、午前中外出した時から着ていた、ふんわりとしたシルエットのワンピースのままでいることにした。
「これでよし、っと」
ひと通り準備が整い、あとは迅がやってくるのを待つだけだ。時計を見ると、彼が予告した時間まであと三十分ほどだった。
お茶の準備をしておこうと、食器棚からマグカップを二つ取り出した。不揃いなそれらをトレイに並べながら苦笑がもれる。
「こんなことなら、ちゃんとしたマグカップを買っておけばよかったな」
コーヒーや紅茶のパックも用意し終え、手持無沙汰になってしまった私は、急にそわそわと落ち着かない気分になった。
ソファに座っては立ち上がり、用もないのに部屋の中を歩き回る。そんなことを何度か繰り返しているところに、電話が鳴った。私はどきどきしながらスマホに耳を当てた。
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