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休日も終わり、今日はそれぞれが仕事の日だ。
朝食を済ませ、A型の作業所に向かう樹と高地は送迎車に乗り込んでいく。
北斗は、この日からジェシーや大我と一緒にB型の作業所に行くことになっている。A型よりも柔軟なタイミングで働けるのがB型だ。
一方の慎太郎は、一般企業に就職しているので5人とは別で出勤する。
「大我。行けそう?」
玄関にやってきた大我にジェシーが声を掛けるが、その返事はない。それもいつものことだ。
ジェシーは静かに笑いかけて、先に自動ドアをくぐっていった。
「ほら、北斗くんも!」
彼に呼ばれた北斗は、付き添う職員と恐る恐る車に乗る。
「……ぼく、なにするの」
「北斗くんはね、俺と大我と一緒にお仕事をするんだよ」
「おしごと…?」
「うーん……、お仕事っていうのはぁ、楽しいことかな」
座席に座る北斗に、後ろから車いすで乗り入れたジェシーはそう説明した。北斗の隣には大我が腰掛けたが、2人の会話に加わることはない。
「たのしいこと、する!」
と北斗の目が輝く。ジェシーはほっと安堵したけれど、本当に楽しんでくれるか不安でもあった。
「今日するのは、お菓子作りだって」
「おかし。たべる!」
「ふふっ、そうだね。頑張ったらおいしいの食べられるよ」
弟ができたみたいで、ジェシーはずっと笑顔だった。今までは年下の慎太郎がいたが、北斗の天真爛漫さもかわいらしいもの。
心なしか、大我の頬もいつもより緩んでいる気がした。
樹が歩く横で、高地は白杖をつきながら歩いている。
交わされる言葉はないけれど、お互いが付かず離れずみまもっているような関係だ。
2人の間に約束なんて必要ない。築いてきた信頼以上のものはなかった。
しかし、樹の腕に高地が触れた。たまたまかと思ったが、立ち止まったので樹も振り向く。急いでスマホを取り出し、入力してから音声出力をした。
『どうした』
「なんか、部屋が騒がしいよ」
そこで、彼らの担当スタッフが廊下を歩いてくるのに樹が気づいた。
「あっ田中さん、高地さん!」
何かありましたか、と高地が訊く。
「実は…利用者さんが、パニックを起こしちゃって。2人とも、ここで少しだけ待っていてくれませんか」
手話もつけて説明する。2人は黙ってうなずいた。
作業所には、クラリティよりももっとたくさんの人がいる。こういうことだって日常茶飯事だ。
『Bの2人、北斗くんとちゃんとやれてるかな』
「ははっ。ジェシーに懸かってるな」
『今、どんくらい騒がしいの』
少しの間があっての、「けっこう」という返事に樹は苦笑する。
「あ~、今日も仕事だりぃな~。工賃も低いし」
そのつぶやきはスマホは拾ってくれず、高地は手持ち無沙汰で廊下の壁にもたれた。
樹が、「同じ」という意味の手話をしたのには気づかずに。
続く