「お待たせいたしました!それでは○×県冒険者支援イベント本選第一戦をこれから執り行います!
進行と実況は私、○×県庁冒険者支援課課長、役所 勤 と解説は現役B級冒険者の雷 電次郎さんでお送りいたします!
雷さん、本日はよろしくお願いいたします!」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」
「いや~、それにしても雷さん、冒険者同士の戦いという事ですが、雷さんはこの組み合わせでどちらが勝つと思われますか?」
「勝負は水物、と言われますが、私の見た所だと小野麗尾君は手堅く実力を積んで、
露理葉さんは召喚モンスターに頼る部分が結構大きいので、どうでしょうねー……
小野麗尾君が彼女のモンスターにどれだけ対策してきたか、そこがこの戦いのポイントになると思いますよ」
「なるほど…… ご意見、ありがとうございます。では間もなく試合開始となります。両名とも開始位置に移動願います」
「選手が位置について、審判が中央に近づいてきました。間もなく試合開始です……」
”パンッ”
「さぁ、試合開始です。両名ともまずは何を……おおっと!いきなりアクシデントか!露理葉さんが召喚機を取り落した!?」
「いえ、これは小野麗尾君のボウガンによる妨害ですね。露理葉さんの初手を読んでいたのでしょう。彼、開始から迷いなく動きましたよ」
「何と」
「おっと、彼も召喚機を操作し始めましたね。ここから戦闘が本格化しますよ、役所さん」
「おお、ゲートが展開しましたが…これは大きい!?」
「そうですね。彼の手持ちには大型のモンスターは居なかったと記憶していますがこれは……むっ!?」
「ゲートから筏の様な物が飛んできた!?雷さん、これは!?」
「私の知る限りではあの様なモンスターは見た事がありません。あれはゲートの中からモンスターが投げ込んだ……?」
「そう言えばさっき彼がモンスターを召喚する時にジジイ共、と……」
「もしかして……」
「何かご存じなのですか!?雷さん!?」
「確実ではないのですが、工作と老人のキーワードで心当たりが一つ、彼はもしかしたらドワーフと契約しているのかもしれません!」
「ドワーフ!? 聞いたことがありますよ!」
「そうですね、物語でよく出てくるイメージで間違っていないかと」
「ただ、ドワーフは前衛要員として結構人気がありますからね。値段もそれなりにしますからE級だと購入は厳しいと思うんですが……」
「雷さん、ここで丸太の投げ込みが終わったようです。ゲートの中から何やら大きな鉄の板の様な物が…
おお、ドワーフです!何人ものドワーフがゲートから出てきました!これから何をするんでしょうか?」
「運び込まれた物が資材だとすると……」
「おおっと!ここでドワーフ達が丸太を立てて固定をし始めた!?あれは筏ではなく柵だったのか!?
ゲートを中心にすごい勢いで陣地が築かれていく!」
「陣地も気になりますが、私としては今彼が柵の陰に隠れて何かを呼び出したのが気になりますね。少しだけ姿が見えましたが、あれはフォレストハンター……?」
「フォレストハンター、ですか?」
「ええ、すぐに柵に張り付いて擬態したようですが」
「何かの仕掛けでしょうか?」
「おそらくは。露理葉さんからは一連の動きは見えない様に動いていたようですし」
「何をする積りなのか気になる所ですね」
「陣地の方もほぼ完成したようです。扉の取り付けも終わり、今は陣地内に何かの設備を築いていますね」
「入口脇に……物見櫓のようですね。さらに入り口から続く建物がありますが……あれは何でしょうか?」
「何かゴチャゴチャした作りになっていますね。見当が付きません」
「おおっとここで小野麗尾君が何か荷物を取り出そうとしている!あれは……法螺貝!?」
ブオオオー!ブッ!ブオオオオオオォォォォー!!!!!
「いやあ、良い音ですねぇ」
「フゥーハハハハハハハ!此れなるは我が小野麗尾家が配下:怒倭悪腐衆一門の習作、風雲:小野麗尾城ver.0.01なり!
露理葉 青葉!我が首欲しくばこれからちょこっとだけ開ける正面正門より入り我が元まで見事辿り着いて見せるがよい!!!」
「陣地ではなく城だったようですよ、雷さん」
「そう見たいですねぇ、本丸が無いのは習作だからですかねぇ。バージョンも0.01と正式リリースに至っていないようですし」
「おっと、ここで露理葉さんがモンスターを召喚するようです!」
「出てきたのはバードマンですね。一先ず中の偵察でもするのでしょうか?」
「小野麗尾君も何か召喚しようとして……、出てこない?雷さん、これは?」
「ゲートが開いたままなので何かが呼ばれているのは確実ですが……今回の彼に関してはイレギュラーが多いので何が起こるのか……
っと。キラーナイトビー!続いてキラーソルジャービー!驚かせてくれますねー……同種族とはいえ、ドワーフといい、キラービーといい、同時複数召喚を出来るサマナーはあまり見かけないんですが。彼にはぜひノウハウを聞いてみたい所ですね……」
「そうなのですか?」
「ゴブリンやコボルト等、同種族の仲間を召喚させるスキルはよく知られるところですが、サマナーが一回の召喚で複数のモンスターを呼び出す、と言うのは寡聞にして知らなかったですね…… いや、解説として呼ばれながら不勉強で申し訳ないです」
「いえ、それはつまり小野麗尾君がサマナーとして特別な技能を身に着けているかもしれない、ということも……!?」
「可能性としては無くもない、って所でしょうか」
「露理葉さ~ん!家のキラービー達が君の所のバードマンの遺体をお土産に持ち帰りたいって言うんだけど、良いかな!?」
「いいとも~♪ って言うと思う訳!?遺体は速やかかつ丁重に返還するし!」
「身代金はいくら出す?」
「ちょっ!?フザケンナ!アンタそれ最低だし!?」
「我々の間には一切の交戦規定が結ばれていない。繰り返す、我々の間には一切の交戦規定が結ばれていない。
こちらの提示した正門からの入場ではなく、飛行による不法侵入に対する罰則の上限もまた定められていない。
これらの事案に関してよく考慮されたし」
「……やっぱり無いと思いますね」
「私もそう思います」
「露理葉さん、俯いて肩を震わせています。これは、まさか降参してしまうのか!?」
「結論を出すのは早いですよ! ただ彼女のモンスターで攻城戦となると相当に厳しい物があります。どうするのか……」
「分かったわよ。あんたの言うとおりにしてあげる。その代わり、私があんたの所まで辿り着いたらバドちゃんは返してもらうし!!!」
「おお、悪しき小野麗尾君の卑劣な脅迫を跳ね除けて露理葉さんが今、力強く立ち向かうことを宣言しました!!」
オォオオオオオオオオ!!!
「コードネーム:SNAKE、出番だ。一撃で仕留めろ」
「役所さんの実況に観客の皆さんも沸いています。が、小野麗尾君はもう決着を付けるようです」
「え!? 雷さん、今何と……」
ビー!!!
「おおっと、ここで勝負終了の合図!!? 雷さん、いったい何が起きたのでしょう?」
「役所さん、さっき小野麗尾君がフォレストハンターを召喚したのを覚えていますか?」
「ええ、小野麗尾城の築城中に召喚していたと……」
「はい、その時に召喚していたフォレストハンターによる奇襲です。擬態により壁に溶け込む様に潜んでいたあの一匹が
小野麗尾城に意識を集中していた露理葉さんの認識の外から完全な奇襲を仕掛けた形になります。
《斬爪》を左脇下から差し込み心臓を狙い、《咬み千切り》で喉を食い千切り、致命傷判定を出した形になりますね。
随分と大がかりな仕掛けを用意したと思いますが、これが彼の作戦だったのでしょう」
「城に意識を引き付け、本命は奇襲……う~む、なんともスケールの大きな作戦を……「ヤクドコロサン、ヤクドコロサン」はい、小野麗尾さん、何か」
「すいません。この小野麗尾城ですが、仕舞った方が良いですよね?決勝戦まで出したままというのは……」
「申し訳ありませんが、次の試合もありますので、出来る限り早く片づけてもらえますと……」
「デスヨネー……ハァ。おい、ジイさん達、バカ騒ぎしゅ~りょ~。ほら、皆で片づける。
酒とツマミはこっちにしまう!」
「イヤジャ、イヤジャ!ワシャこの屋外D-3エリアの外はカリカリ中はふっくらホクホクのたこ焼きをツマミにおビール様をもっと飲むんじゃ!?」
「そうじゃ、そうじゃ!老人はもっと労わらんか!と言う訳でワシもこの屋外D-2エリアのイカ焼きをアテにおビール様をグイッといくんじゃ!」
「ほれ、坊も勝ったんじゃから祝杯の一つもグビッといかんか!それともワシ等の酒は飲めないと……!?」
「シャラップ!!!前にも言ったがこっちじゃ未成年はお酒飲んじゃいけないの!?あとボンは止めろって言っただろ!?
最後に今日の酒はお前等が用意したもんじゃなくて白須等商店街の白須等酒店で売ってた物だろう!?」
「お~ そうじゃった、そうじゃった!あそこの酒はどれも美味いんじゃのう~♪」
「まぁ、あそこまで行かなくても今日はDエリアでビールは買えると思うけど」
「何じゃと、坊!それを早く言わんか!!?者共!さっさと手仕舞いしておビール様とツマミの追加じゃ!
急げ!買い遅れてはドワーフの恥ぞ!?」
「「「「「おお~!!!」」」」」
「何か最後に小芝居的な事をされましたが、第一戦はこれで終了、勝者は小野麗尾 守さんとなります。
第二戦が始まるまで時間がありますが、只今外への通路が大変混み合っているとのことです。移動の際にはお時間に余裕をもって行動願います」
「さて、それじゃ私、タコ焼きとヤキソバ、ビール買ってきますが、役所さんの分も良かったら買ってきますよ」
「雷さん、私は今日は公務ですし、まだ雷さんも仕事はありますよ……」
「……はっはっは。分かっていますとも。次の試合までにはアルコールヲヌイテオキマスカラ……」
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