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2章 Start
昨夜の、体育館裏での出来事。
重なった熱い温度と、白布君の「好きだ」っていう掠れた声。
……一晩寝ても、全然夢じゃなかった。
「……うわ、心臓に悪い」
登校中、校門が見えたあたりで、聞き慣れた足音が後ろから近づいてくる。
振り返らなくても分かる。あんなに規則正しくて、少しだけ急かされているような歩き方。
「……おい、西村。……いや、奈々花」
横に並んだ白布君が、わざとらしく前を向いたまま私の名前を呼んだ。
……名前。昨日までは「西村」だったのに。
「……な、何よ。白布君。おはよう」
「おはよ。……お前、顔赤いぞ。また知恵熱か?」
「白布君のせいでしょ! いきなり名前呼びとか、反則なんだけど!」
私がポカポカと彼の腕を叩くと、白布君は「……うるせーよ。慣れろ」と言いながら、私の手を不器用に掴んだ。
人目がある校門前。彼は周りを警戒するように鋭い視線を飛ばしながらも、繋いだ手だけは絶対に離さない。
「……ちょっと、白布君! みんな見てるってば!」
「……見てりゃいいだろ。お前が俺のパシリ……じゃなくて、彼女だって分からせとかねーと、また五色みたいなバカが寄ってくるだろ」
相変わらずの独占欲。セッターとしての冷静さはどこへ行ったのか、彼の耳の先はやっぱり真っ赤だ。
「……効率悪いな。……お前と手を繋いでると、歩くスピードが二割は落ちる」
「じゃあ離せばいいじゃん!」
「……嫌だっつってんだろ。……スピード落としてでも、離さない効率の良さを俺は選んだんだよ」
理屈になってない理屈。
教室に着くまでの短い距離が、昨日の帰り道よりもずっと、熱を帯びて長く感じられた。
放課後。部活へ向かう白布君を見送りに、昇降口まで歩いていた時のこと。
校門の前に、明らかに白鳥沢の生徒ではない、モデルみたいな体型の男が立っていた。
「あ、いたいた! やほー、ななちゃん。相変わらず可愛いね?」
聞き覚えのある、少し浮ついた、でも心臓が跳ねるような甘い声。
「……えっ、及川さん!? なんでここに……」
「なーに、冷たいなあ。近くで練習試合があったから、元カノの顔拝みに寄っただけだよ?」
及川さんはニッコリ笑って、私の頭にポンと手を置こうとした。……その瞬間。
パシィィィン!!
乾いた音が響いて、及川さんの手が弾かれた。
私の前に割り込むように立ったのは、全身から氷のような殺気を放っている白布君だった。
「……気安く触んじゃねーよ、青城(せいじょう)の主将さんよ」
「おっと……これはこれは。白鳥沢の次期セッター君かな? 怖い顔しちゃってさ」
及川さんは余裕の笑みを崩さず、白布君を値踏みするように眺める。
白布君の手は、私の手首を折れそうなほど強く掴んでいた。
「……西村。何だよ、こいつ。……『ななちゃん』って、何だ」
「あ、えっと、中学の時の……その……」
「元カレ、だよ。ね、ななちゃん? 賢二郎君だっけ? 君、セッターとしては優秀みたいだけど、女の子の扱いに関しては……ずいぶん余裕がなさそうだねぇ(笑)」
及川さんの挑発的な言葉に、白布君の奥歯がギリッと鳴るのが分かった。
いつも冷静な彼が、今は隠しきれないほどの嫉妬と怒りで、肩を震わせている。
「……余裕なんてねーよ。……お前みたいなチャラい奴が、俺の奈々花にベタベタ触ってんのが、効率悪すぎて虫唾が走るんだわ」
「へぇ、『俺の』だって。独占欲強いねー」
及川さんはわざとらしく溜息をつくと、私に顔を近づけてウィンクした。
「ななちゃん。そんな怖い顔するセッターより、俺の方が優しくていいと思うけど? ……気が向いたら連絡してよ」
とスマホを上にあげる
及川さんが去っていこうとした瞬間、白布君が私の肩を抱き寄せ、耳元で掠れた声を漏らした。
「……行かせねーよ。……一ミリも、思い出させねーからな。……奈々花の頭ん中、俺だけでいっぱいにしとけっつったろ」
及川さんへの敵意。そして、私への剥き出しの執着。
白布君の「計算」は、及川さんの登場で、完全に沸点を超えてしまった、みたい
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