テラーノベル
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キュッ、キュッという鋭いシューズの音が、いつもより高く響く。
白鳥沢学園の体育館。今日は青葉城西との練習試合だ。
「……いたいた。やっほー、ななちゃん。今日も応援、俺のためにしてくれるのかな?」
コートの入り口で、及川さんがヒラヒラと手を振る。
その瞬間、チームのアップを指示していた白布君の肩が、ピクッと跳ねた。
「……及川さん。ここはうちの体育館です。余計な喋り(ノイズ)は効率が悪いんで、さっさとネットの向こうに行ってください」
白布君の声は、氷のように冷たかった。
でも、私にはわかる。彼がボールを握る指先に、いつも以上の力がこもっているのが。
「おーおー、怖いねぇ賢二郎君。……ななちゃん、あんなに余裕のない男、疲れちゃうでしょ? 試合終わったら、またお喋りしよ?」
「……させねーよ。……お前が奈々花に話しかける暇もねーくらい、ボコボコにしてやるから」
白布君は及川さんを真っ向から睨みつけると、私の方をチラリとも見ずに、コートの中央へと歩き出した。
背中で語る、「見てろ」という無言の圧力。
試合開始のホイッスル。
及川さんのサーブが唸りを上げて白鳥沢のコートを襲う。
強烈な威力。でも、白鳥沢のレシーブがそれを繋ぐ。
「……回せ!」
白布君の鋭い声。
彼はセッターとして、完璧なポジションに潜り込む。
いつもなら、牛島さんのパワーを最大限に活かす「合理的」なトスを上げるはずの彼が――。
「……そこだ、五色!」
あえて、及川さんがブロックに跳ぼうとした「一瞬の隙」を突く、超高速のツーアタックを決めた。
「……っ、……賢二郎君、今のは性格悪いね?」
「……お前ほどじゃねーよ。……一点も、一秒も、奈々花の視線を譲る気はねーんだわ」
ネット越しに火花を散らす二人。
白布君のトスは、いつになく攻撃的で、執念深い熱を帯びている。
私は観客席の端で、祈るように拳を握りしめた。
バレーの勝敗以上に、私の心を「一点差」で支配しようとする、彼の計算狂いの執着。
「……白布君、頑張れ……!」
私の小さな声が届いたのか、白布君は一瞬だけ、こちらを見て不敵に笑った。
その瞳は、及川さんへの敵意よりも、私への「独占欲」でギラギラと輝いていた、気がする
セットカウント1対1。ファイナルセットのスコアは、24対24のデュース。
体育館の空気は、肌がヒリつくほどの緊張感に包まれていた。
「……はぁ、……はぁ」
白布君の肩が、激しく上下している。いつもならもっと効率的に動くはずの彼が、今日は及川さんのすべての攻撃に反応し、執念深くボールを繋いでいた。
ネットを挟んで対峙する及川さんは、不敵な笑みを浮かべているけれど、その額には大粒の汗が流れている。
「……しつこいねぇ、賢二郎君。ななちゃんが見てるからって、そんなに格好つけたいの?」
「……うるせーよ。……お前に一点も、一秒も、奈々花の視線を譲る気はねーんだわ」
白布君の声は掠れている。でも、その瞳はかつてないほどギラギラと燃えていた。
及川さんの強烈なサーブ。それを白鳥沢のリベロが必死に上げた。
「……持ってこい、賢二郎!」
牛島さんの声。
白布君はセッターとして、完璧な落下点に潜り込む。
及川さんのブロックが、牛島さんをマークして跳び上がる——その瞬間。
「……そこだ、五色!」
白布君が放ったのは、牛島さんを「囮」に使った、五色君への超高速バックトス。
及川さんの手が届かない、その一瞬の隙を突いた。
ドォォォン!!
五色君のスパイクが、青葉城西のコートに突き刺さる。
試合終了のホイッスル。
26対24。白鳥沢の勝利。
「……っ、……っしゃあ!!」
白布君が、珍しく大きな声を上げて拳を握りしめた。
彼はすぐに観客席の私を見つけ、挑発するように、そして独占欲を隠さずに不敵な笑みを浮かべた。
「……負けたよ。完敗だね、賢二郎君」
ネットを挟んで、及川さんが歩み寄る。
彼はタオルで汗を拭いながら、切なそうに、でもどこか清々しい顔で私をチラリと見た。
「ななちゃん。……あんなに必死な賢二郎君、初めて見たよ。……俺の時とは、全然違う顔してんじゃん」
及川さんは私の元へ歩み寄ると、白布君の鋭い視線を無視して、私の耳元で小さく囁いた。
「……ななちゃん。あいつの『執着』、重すぎて壊されないようにね? ……ま、俺の負け惜しみだけどさ」
及川さんが去っていこうとしたその時、白布君が私の肩をがっしりと抱き寄せた。
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「……二度と来んな。……奈々花は、俺が壊れるくらい愛してやるから余計なお世話だ」
及川さんの去り際の一言と、白布君の重すぎる宣言。
勝利の味は、熱い勝利の喜び以上に、甘くて重い束縛の予感を孕んでいた。
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