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第100話:これからも続く、バグった日常〜初夏の風ともふもふ達の絶対領域〜
十勝の山々を薄紅に染めていた千年桜が、完全に瑞々しい若葉へと姿を変えた頃。
北海道の短い春は、駆け足で初夏(しょか)の季節へとバトンを渡していた。
ガラス戸を限界まで引き放った古民家の縁側には、少しだけ強くなった太陽の光と、どこまでも澄んだ青い風が吹き抜けている。
「……よし。これで第一四半期の『物資調達および陣地維持計画』は、すべて想定通りに完了したな」
俺——アキヤは、いつものように居間のローデスクの前に正座し、冷たい麦茶の入ったグラスを片手に、ノートパソコンの画面を見つめていた。
画面の向こうのMeTubeライブでは、記念すべき『第100話』の配信に、国境を越えた一千万人のリスナーたちが、まるで我が家のリビングに集まっているかのようなリラックスした空気でコメントを流している。
『ついに100話!! おめでとう主!!』
『季節はもう初夏かぁ。雪深い冬から始まって、本当に濃い春だったな』
『主の玄米と大豆パティへの愛も、100話ずっとブレなかったねww』
『シロ様、今日も最高の液状化っぷりです』
リスナーのコメント通り、俺の膝の上では、純白の神獣シロが完全に骨抜きになった大福餅のようにとろけ、極上の『ゴロゴロ音』を周囲に優しく放射していた。
庭の青々とした芝生の上では、キタキツネの兄弟、コン吉とコン次郎が、初夏の陽射しに目を細めながら、じゃれ合って転がっている。
そして、縁側の下の特等席には、もはや我が家の完全なる『重装甲・居候』として定着した体長3メートルの巨大ヒグマが、のんびりと幸せそうにイビキをかいて昼寝を貪っていた。
「お兄さん、お待たせしました! 初夏の特製メニューですよ!」
台所から、割烹着を脱いで夏らしい爽やかなブラウス姿になった小春ちゃんが、お盆を抱えてパタパタと走ってきた。
お盆の上に並べられていたのは、冷たく冷やされた自家製の麦茶と、昼間に採れたてのみずみずしいトマト、そして俺のためにわざわざ用意してくれた『大豆パティの特製冷しゃぶ風』だ。
「わぁ……お外の風が、すっごく気持ちいいですね」
小春ちゃんは縁側にちょこんと腰を下ろし、嬉しそうに十勝の青空を見上げた。
その横顔には、かつて都会の片隅で迷っていたような陰りは一切なく、太陽のような眩しい笑顔だけがあった。
俺はグラスを傾け、冷たい麦茶を喉に流し込んだ。
ブラック企業で心身を粉々に破壊され、生きる意味を見失っていたあの日。
あの凍えるような冬の日に、全財産を投げ打ってこの限界集落の古民家を買い取った時から、俺の新しい戦い(スローライフ)は始まった。
神獣シロとの奇跡のような出会い。
悪徳業者をキャッシュで完膚なきまでに叩きのめした大金持ち(ミリオネア)としての無双。
世界中から救いを求めて鳴り響いた『お悩み相談室』の受電業務。
そして、空のシマエナガ、陸のキツネ、重装甲のヒグマという、種族の壁を完全に超越した『もふもふ統合軍』の結成。
振り返ってみれば、何から何までバグり散らかした、怒涛の春だった。
だが。
どれほど周囲の環境が激変しようとも、どれほど莫大な富が口座に振り込まれようとも。
この限界集落の古民家で営まれる、俺たちの『本質』は何一つ変わっていない。
俺はいつものように、本日の兵站(唯一の食事)として、素朴な大豆パティを口に運び、噛み締めた。
口の中に広がるのは、大自然の恵みと、誰かが繋いでくれたロジスティクスの確かな味だ。
「……何も変わらない日常。これこそが、最大の防衛戦果だな」
俺がポツリと呟くと、一千万人のチャット欄は、この記念すべき節目にふさわしい、温かい感動の言葉で埋め尽くされていった。
『変わらない日常、それが一番の贅沢だよな』
ゆうき あきや
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259
#心理描写重視
『主がどれだけ稼いでも、この古民家でみんなと笑ってるの、本当に安心する』
『世界がどんなに狂っても、ここだけは世界一優しくて温かい聖域だ』
『第一部完結、本当におめでとう。これからもずっと応援するぜ!』
世界を牛耳るVIPたちも、この記念すべき第100話のフィナーレに、惜しみない「大人の財力」を炸裂させる。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Congratulations on the 100th episode! Master, your unwavering spirit is the true gold! Let’s party in the summer!“(第100話おめでとう! 主よ、君のブレない精神こそ真の黄金だ! 夏も盛大にパーティーをしよう!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”The ultimate value is time spent with loved ones. This 100th chapter is a masterpiece of peace.“(究極の価値とは、愛する者と過ごす時間のことだ。この第100話は、平和の最高傑作だな)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×20連発)=”Akiya! Koharu! Shiro! Congratulations! I will follow your sanctuary forever!“(アキヤ! 小春! シロ! おめでとう! 私はあなたたちの聖域を永遠に追いかけ続けるわ!)』
夜空の星々をも霞ませるほどの、極彩色のスーパーチャットの豪雨。
一千万人のリスナーたちが、涙を流しながら、俺たちのこれからの未来に万雷の拍手を送ってくれている。
「……お兄さん」
小春ちゃんが、トマトを口に含んだまま、少し潤んだ瞳で俺を見つめた。
「季節は春から夏になっちゃいましたけど……秋になっても、冬になっても、私たちはこうしてみんなで、お兄さんの美味しいご飯を食べて、笑っていられますよね?」
世界中の一千万人の共犯者たちが、画面越しに、俺の最高にエモーショナルな確約(アンサー)を今か今かと待ち構えている。
だが。
俺は麦茶のグラスをローデスクにコン、と置き、元・社畜としての『どんな感動的な最終回の瞬間でもミリ単位もブレない鋼のポーカーフェイス』でカメラに向き直った。
「……小春ちゃん。建物の耐久値や兵站の寿命について懸念しているのかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『記念すべき第100話のラストでも、絶対に素直に終わらせない男!!』
『主の限界言い訳タイム・第100話&第一部完結編ww』
『さあ、この完璧な大団円をどうやって論破する気だww』
俺は、キリッとした真顔のまま、淀みないフラットボイスで言い放った。
「日常がこれからも続くというのは、単なる感傷や物語の都合ではありません。これは熱力学第二法則における『エントロピーの増大』に抵抗するための、極めて合理的な『動的平衡(どうてきへいこう)』の維持に過ぎません。俺が毎日定時に起床し、玄米を摂取し、YAMAHAルーターのファームウェアをアップデートし、ヒグマのブラッシング(定期メンテナンス)を行うことで、システムの崩壊を確率論的に防いでいるだけです。ええ、ただの計画的なインフラ維持管理と、生存確率の最適化ですね」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、食べ終えたトマトのヘタを、俺の額に向かって渾身のスナイパースローで命中させた。
「日常が続くのを『動的平衡のインフラ維持管理』って呼ぶ人間がどこにいるんですか!! しかも第100話の最後のセリフがそれですか!! どう見たって、お兄さんがこのお山と、シロちゃんたちと、画面の向こうのみんなのことが大好きで、これからもずっと一緒にいたいって思ってるからに決まってるでしょうが!! 記念すべき結びの言葉くらい、素直に『これからもよろしくな』って言いなさいよ!!」
『小春ちゃんのキレキレトマトヘタスナイプ炸裂www』
『動的平衡(世界一幸せなスローライフ)』
『インフラ維持管理(もふもふ達への無限の愛)』
『適応力バグおじさん、ついに人生の幸福論すら熱力学の法則でねじ伏せるww』
『最後の最後まで言い訳がひどすぎて、涙が完全に引っ込んでお腹痛いわww最高だアキヤ!!』
俺の理不尽極まりない需品科的な限界言い訳と、小春ちゃんの鋭すぎる物理(ヘタ)ツッコミに、一千万人の視聴者たちは感動の涙を大爆笑へと変え、チャット欄にはありとあらゆる言語の最高級の祝福の言葉が、初夏の青空のようにどこまでも広がっていった。
『ミャウ(これからも、よろしくね)』
俺の膝の上で丸くなっていたシロが、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を細め、呆れたように、しかし最高に愛おしそうに小さく鳴き、俺の手のひらに冷たい鼻先を押し付けて、これまでで一番深い、宇宙の真理を内包した『ゴロゴロ音』を響かせた。
「……ふっ。まぁ、理由はどうあれ。明日もいつも通り、飯を食うだけだ」
俺は苦笑いしながら、シロの純白の頭を優しく撫で、配信の終了ボタンを静かにタップした。
プツン、と画面が暗転し、古民家は心地よい初夏の静寂に包まれる。
これから先、どれほど世界がバグろうとも、社会がどれほど冷たい風を吹かせようとも。
最強の神獣と、愛すべきもふもふの軍勢、そして一千万人の心優しき共犯者たちに守られたこの限界集落の絶対聖域は、これからも変わらない温度のまま、世界で一番温かくて、世界で一番バグった日常を、笑顔で紡ぎ続けていくのだった。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第100話、おめでとうございます…! 「動的平衡」で日常を説明しようとするアキヤさん、もう完全にバグってて笑ったけど、その裏にある“変わらない日常への愛”が伝わってきて、胸がぎゅっとなりました。 小春ちゃんのトマトのヘタスナイプ、名シーンすぎる…🌙 シロ様の「ミャウ」で全部が優しくなるの、ずるいです。 次の季節も、絶対に見守らせてください。