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かきだめたすかるぅぅぅぅ!
昼休みのチャイムが鳴った。
教室のあちこちで椅子の音が動き始める。
「購買行こうぜ!」
「今日パン残ってるかな」
そんな声が飛び交う中、いるまは静かに席を立った。
鞄から小さなパンを取り出してポケットに入れる。
そしてそのまま教室を出た。
向かう先はいつも同じ。
屋上だった。
階段を上り、屋上のドアを押す。
ガチャ。
外の空気がふわっと流れ込んできた。
今日は少し風が強い。
フェンスがカタンと小さく揺れる。
いるまはフェンスの近くに座り、パンの袋を開けた。
「……やっぱここが一番落ち着く。」
学校の中で、ここだけは少し静かだった。
遠くでグラウンドの声が聞こえるくらい。
それ以外は、空と風だけ。
パンをかじろうとしたそのとき。
ガチャ。
また屋上のドアが開いた。
「やっぱここにいた!」
聞き慣れた声だった。
いるまは振り向かずに言う。
「……うるさいの来た。」
「ひどくね?」
らんが笑いながら近づいてくる。
そして、当たり前のように隣に座った。
「なんで分かったんだよ。」
いるまが聞く。
するとらんは肩をすくめた。
「なんとなく。」
「は?」
「いるま、静かなとこ好きそうだし。」
その答えに、いるまは少しだけ黙る。
確かに当たっていた。
「……別に。」
そっけなく答える。
らんは弁当を広げながら笑った。
「またそれ。」
少し沈黙が流れる。
風の音。
遠くの声。
そんな中、らんがぽつりと言った。
「ここさ。」
「?」
「いい場所だよな。」
いるまは空を見上げる。
青い空に白い雲がゆっくり流れていた。
「……まあな。」
短く答える。
すると、らんが横を見た。
「いるまってさ。」
「なんだよ。」
「優しいよな。」
いるまは一瞬止まった。
「……は?」
思わず聞き返す。
らんは普通に言った。
「なんかさ、話してて思った。」
「どこがだよ。」
いるまは少し眉をひそめる。
そんなこと言われたことは、ほとんどない。
むしろ逆だった。
冷たいとか、近づきにくいとか。
そう言われる方が多かった。
だから、らんの言葉は不思議だった。
らんは少し笑う。
「だってさ。」
「?」
「俺がずっと話しかけても、ちゃんと答えてくれるじゃん。」
「……それは」
言いかけて、いるまは言葉を止めた。
「なんだよ。」
らんが聞く。
いるまは少し視線をそらす。
「……無視するのも面倒なだけ。」
そう言った。
本当は少し違う気もしたけど、言わなかった。
らんは少しだけ笑った。
「そっか。」
それだけ言って、空を見上げる。
風がまた吹いた。
そのとき、らんのスマホが震えた。
「お。」
画面を見る。
「みことだ。」
その名前に、いるまは少しだけ耳を傾けた。
らんは電話に出る。
「もしもし?」
数秒の会話。
それから、らんが笑う。
「今屋上。」
「うん、いるまと一緒。」
その言葉に、いるまは小さく眉をひそめた。
(また俺の話かよ。)
電話の向こうで何か言われたらしい。
らんが「え?」と言う。
それから少し笑った。
「それ言う?」
少しして電話が終わる。
スマホをポケットにしまった。
すると、いるまが聞く。
「……なんて言われた。」
らんは少しだけ考える顔をした。
それから笑う。
「秘密。」
「は?」
「うそうそ。」
そして、少しだけ優しい声で言った。
「『その子、大事にしてあげてね』だって。」
いるまは少し黙る。
会ったこともないのに。
そんなこと言われる理由が分からない。
「……変なやつだな。」
小さくつぶやく。
らんは笑った。
「でもいいやつだぞ。」
風がまた吹いた。
空はどこまでも青い。
その下で。
二人の時間は、少しずつ増えていた。
そして、いるまの心の奥で——
閉じていたドアが、
ほんの少しだけ、
また開いた気がした。