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窓の外からカラスの鳴く声が聞こえる。
込み上げる吐き気はようやく止まった。
気持ちも先程より落ち着いている。けど今度はずいぶんと気が抜けてしまった。
夕飯の支度をしようと食材をテーブルに並べたはいいが、手を動かす気になれない。清心は項垂れるように椅子に腰掛けた。
胸の中に大きな穴が空いて、そこからガソリンが流れ落ちたような感覚だ。
恐怖も不安もない代わりに、生きる気力、意欲そのものを失いかけていた。
抗いようのない無気力に囲われ、二時間も宙を見て過ごした。
頭が働かない。何もやる気がしない、この感覚は寝起きと似ている。しかし寝ているのは頭じゃなく、心の方だと思った。
全ての感情が光の届かない深海に沈み、寝静まっている。
まばたきすら忘れかけていた頃、近くで物音がした。
「……清心さん?」
匡だ。彼は髪の毛が跳ねて、半開きの目でこちらにやってくる。どうやら今起きたようだ。
彼が起きる前に食事を作ろうと思っていたのに、と少しだけ後悔の念が目を覚ます。
「あぁ。具合、どう?」
未だ頭は働いてないけど、その一言だけは何とか搾り出せた。彼は静かに俯いて、目の前に屈む。
「おかげさまで、だいぶ良くなりました。それより貴方の方が大丈夫ですか? ちょっと、顔色が悪いような」
「うん。……ごめん、飯作ろうと思ったんだけど」
テーブルの上に置きっぱなしの食材に視線を移す。匡はそれに気付くと、徐に立ち上がって袖を捲った。
「ちょっと休んでてください。俺でよければ、また何か作りますから」
匡は台所に立ち、料理を作り始めた。予定とは全く違ってしまったが、まだ動く気がしない。
自分は一体どうしてしまったんだろう。
まるで魂の半分近くが抜き取られたようだ。
「何か……生きてる気がしない」
渇ききった独白。
しかしそれを聞いた匡は手を止めてこちらを振り返った。光のない渇いた瞳で見据えてくる。
「別に身体のどこかが悪いわけじゃないんだけど、ボーッとして、何にもやる気がしない。俺が頑張らなくても、どっかの誰かが頑張ってくれてる。……気がする」
我ながら意味不明だと思うけど、正直な気持ちだった。今こうしてくたびれてる自分がいるけど、どこか知らないところで頑張ってる自分もいる。離れている。分裂、している気がする。
匡は黙って頷くと、また調理に取りかかった。