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神崎による二十四時間の健康管理が始まってから、あっという間に一週間が経過した。
朝は移動中の車内で手渡される特製のグリーンスムージーに始まり、昼は社長室の奥の休憩室で一口ずつ食べさせてもらう三段重弁当、そして退勤時には「帰ったらこれを温めて食え」と持たされる無添加の作り置き惣菜。
その徹底した栄養管理のおかげで、私の肌は見違えるほど艶を取り戻し、慢性的だった胃痛や夕方の倦怠感も嘘のように消え去っていた。
そして迎えた、金曜日の夜。
百億円規模の海外医療ファンド提携プロジェクトが正式に調印を終え、一週間の重圧から解放された私は、久しぶりに自分のマンションの自室で羽を伸ばしていた。
(あー……やっと終わったぁ……! 明日は仕事の電話も鳴らない、完全にお休みの土曜日!)
壁掛け時計の針は、すでに深夜二時を回っている。
いつもなら神崎の言いつけ通りベッドに入って眠っている時間だが、今夜はどうしても抑えきれない誘惑があった。
私は薄手の柔らかいルームウェアにショートパンツという無防備な部屋着姿でキッチンに立ち、換気扇のスイッチを「強」に入れて、オレンジ色の小さな手元灯だけを点けた。
そして戸棚の奥からこっそり取り出したのは、一週間前に買い置きしていた大袋のコンソメ味ポテトチップスと、糖分たっぷりの炭酸飲料だった。
(社長の作ってくださる和食や薬膳は本当にほっぺたが落ちるくらい美味しいけれど……大きな仕事が終わった金曜日の夜だけは、どうしてもこういうジャンキーな味が恋しくなっちゃうのよね……っ)
低い換気扇の回転音の下、罪悪感にドキドキしながら袋を開け、パリッと一枚口に放り込む。
舌を刺激する濃厚な塩気と油分、そしてシュワッと喉を鳴らす冷たい炭酸の刺激。背徳の味に「んんっ、最高……」とだらしない笑みをこぼしながら、私はスマートフォンで動画サイトを眺めつつ、気づけば大袋の中身を最後の一枚まで平らげていた。
(いけない、証拠隠滅しなきゃ……! もし社長に知られたら、どんな顔で叱られるかわからないわ)
私は空になったポテトチップスの袋と空き缶をビニール袋に入れて三重に固く縛り、シンク下のゴミ箱の一番奥底へと押し込んだ。さらにキッチン中に消臭スプレーを念入りに撒き、洗面所で歯を磨いてマウスウォッシュまで済ませてから、何食わぬ顔でリビングへ戻ろうとした――まさにその瞬間だった。
『ブブッ、ブブブッ!!』
左手首のスマートウォッチが、深夜の静寂を切り裂くように激しい警告振動を放った。
ビクッと肩を跳ねさせて画面を見ると、神崎からのメッセージが表示されている。
『深夜二時十五分。心拍数八十八、交感神経の亢進と消化活動の兆候を検知した。……白石、まだ起きているな?』
「ひゃっ……!?」
生体データから夜更かしと間食の兆候まで読み取られている事実に血の気が引いた直後、ピンポーン、と玄関のインターホンが鳴り響いた。
まさかと思って震える足でモニターを覗くと、そこには黒の洗練されたジャケット姿で腕を組み、静かな目でカメラを見据える神崎が立っていた。
『居留守は無駄だぞ、琴音。君の心拍数が今、百三十を超えたのも手元の画面に出ている。開けろ』
逃げ場はどこにもなかった。観念して震える指で玄関のロックを外すと、神崎は静かに室内へ足を踏み入れ、ほのかに漂うシトラスの香りを残して真っ直ぐキッチンへと向かった。
換気扇の下で立ち止まった彼は、空気中に残る人工的な消臭スプレーの香りとシンク下の扉を一瞥し、そこから三重に縛られたビニール袋を迷いなく引きずり出した。
「……白石。これは何だ」
「あ、あの……それは、その……お水を飲みに起きたついでに、ゴミの整理を……」
「深夜二時に、大袋のスナック菓子と炭酸飲料を完食し、あまつさえビニール袋を三重にしてゴミ箱の底に隠蔽していたわけか」
神崎は声を荒らげなかった。しかし、その琥珀色の瞳は氷のように静かで、一切の言い逃れを許さない絶対的な威厳を放っていた。
「なぜ三重の袋に入れて隠した。自分がやってはいけないことをしていると、明確に自覚していた証拠だな?」
「うっ……ご、ごめんなさい。今週の調印式が無事に終わって、どうしても少しだけ気が緩んでしまって……」
「俺がこの一週間、君の弱り切った胃腸をどれだけ丁寧に整えてきたと思っている。五年前、俺自身が不摂生で倒れてどれほど苦しんだか話したはずだ。自分の身体を粗末にし、俺との約束を破って嘘で誤魔化そうとした罪は、言葉の謝罪だけでは済まされないぞ」
神崎は持参した黒いレザーバッグをダイニングテーブルに置くと、リビングのソファの端に深く腰を下ろし、自分の引き締まった太ももの上をポンと叩いた。
「ここへ来い、琴音」
「えっ……? しゃ、社長……?」
「夜更かしをしてジャンクフードを隠れて食べた悪い子には、二度と自分の身体を粗末にしないよう、身体で約束を覚えてもらう。ほら、俺の膝の上にお腹を預けてうつ伏せになれ」
「な、何を……っ!? 私、もう二十六歳の大人ですよ!? そんな子供みたいなお仕置きなんて……!」
「大人の女が、深夜二時に菓子の袋を三重にしてシンクの下に隠すのか? 自分の健康すら守れないうちは、俺の前ではただの聞き分けのない子供と同じだ。……五秒待つ。自分の足で来るか、俺に抱え上げられるか、好きな方を選べ」
低く静かなカウントが始まる。
彼の瞳の奥にある「本気で私の身体を案じてくれている熱」を感じ取った私は、逆らうことができず、耳の裏まで真っ赤に染めながら神崎の前へと歩み寄った。
神崎の力強い腕に細い腰を支えられ、彼の硬く引き締まった太ももの上へとゆっくりとうつ伏せに倒される。視界が逆さまになり、部屋着のショートパンツに包まれたお尻が、一番高い位置に無防備に晒された。
「きゃっ……! は、恥ずかしいです、社長……っ」
「恥ずかしいことをしたのは君の方だ。両手は床についていろ。これから十回、俺の手で叩く。一回ごとに、自分がなぜ叱られているのかを噛み締めながら数を数えろ」
神崎の左手が私の背中を逃げられないようにしっかりと押さえ、右手の大きな手のひらが、ショートパンツの上から私のお尻に重く振り下ろされた。
パァンッ!
「ひゃぅっ……! い、いち……っ!」
乾いた音とともに、薄い布地越しにじんわりとした熱と衝撃が広がる。
暴力的な痛みではない。けれど、大好きな上司の膝の上で、子供のように真っ当にお尻を叩かれているという圧倒的な羞恥心に、視界が一気に涙で滲んだ。
パァン! パァン!
「に、にぃ……っ! さんっ……!」
「声が小さいぞ、琴音。深夜に塩分と油分を大量に摂れば、明日の朝どれだけ胃腸と自律神経に負担がかかるか考えなかったのか」
パァン! パァン! パァン!
「よんっ、ごぉ……っ、ろく……っ! ご、ごめんなさい、考えないで食べちゃいました……っ!」
一打ごとに、神崎の掌の熱い温度がお尻の奥まで真っ直ぐに伝わってくる。
普段はクールな「氷の秘書」として張り詰めていたプライドが、彼の手のひらによって一枚ずつ剥がされ、ただの素直な女の子へと戻されていく感覚に、胸の奥が激しく高鳴った。
パァン! パァン! パァン!
「なな、はち、きゅう……っ! もう、隠れて夜更かしも間食もしません……っ、社長がせっかく整えてくださった身体、大事にしますからぁ……っ!」
「その言葉を忘れるな。……最後だ、十!」
パァンッ!
「じゅうっ……!うぅ、ぐすっ……ごめんなさい、社長ぉ……」
十回目が終わった瞬間、私は堪えきれずに床についた両手に顔を埋めてポロポロと泣きじゃくった。
すると、それまで厳格だった神崎の纏う空気が、嘘のように甘く優しいものへと一変した。
彼は私を膝の上からゆっくりと抱き起こし、自分の広い胸の中へとすっぽりと抱きしめた。
「……よく最後まで逃げずに数えたな。偉いぞ、琴音。痛かったか?」
神崎の大きな手が、私の涙で濡れた頬を親指で優しく拭い、ショートパンツの上から熱を持ったお尻をゆっくりと撫でさすってくれる。
厳しく叱られた直後の、あまりにも温かい抱擁と甘い声の落差に、私の心はきゅっと締め付けられた。
「うぅ……痛かったですけど、それより恥ずかしかったです……っ。でも、社長に嘘をついた私が悪いです……」
「素直に反省できたなら、お仕置きはこれで終わりだ。……ほら、泣き止んでこれを飲め」
神崎は私をソファに座らせると、レザーバッグから保温タンブラーを取り出し、マグカップに温かい飲み物を注いで私の口元へ差し出した。
「胃の粘膜を保護するホットミルクだ。神経を鎮めるカモミールと、少量のアカシア蜂蜜をブレンドしてある。ゆっくり飲め」
両手でカップを受け取って一口飲むと、優しい甘さとハーブの香りが、泣いて熱くなった喉から胃の奥へとじんわりと染み渡っていく。
空っぽになったカップをテーブルに置くと、神崎は私を横抱きに軽々と抱き上げ、寝室のベッドへと運んだ。
「仕上げだ。うつ伏せになれ。交感神経が昂ったままだと睡眠の質が落ちるからな、俺が直接ほぐしてやる」
神崎が小瓶を開けると、ラベンダーとサンダルウッドの極上のアロマオイルの香りが部屋いっぱいに広がった。
先ほどお尻を厳しく叩いたはずの彼の大きな手のひらが、今度は滑らかなオイルを纏い、私の首筋から肩甲骨、そして腰へと、プロのセラピスト顔負けの絶妙な力加減で滑り降りていく。
「んんっ……あ……っ、社長の手、すごく温かいです……」
「一週間、プレゼンのために緊張しっぱなしだったんだろう。肩が石のように凝っているぞ。……もう全部終わったんだ。俺の前では、完璧な秘書でいようとしなくていい」
背中から伝わる彼の高い体温と、規則正しい心音。
厳しく叱られた後の極上のマッサージと甘やかしは、どんな睡眠薬よりも深く私の心と身体を溶かしていく。左手首のスマートウォッチが、穏やかに落ち着いていく心拍数を静かに記録していた。
「……おやすみ、琴音。朝まで俺の腕の中で、どこにも行けないように見張っていてやる」
額に落とされた柔らかなキスの感触と、背後からすっぽりと抱きしめられる温もりの中で、私は幸福な眠りの淵へと深く沈んでいった。
コメント
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わあ、3話ももうこんなに甘くて尊いんですね……!(涙) 琴音ちゃんが金曜の夜にこっそりポテチと炭酸に手を出すシーン、めちゃくちゃ共感しました。あの“背徳の味”って表現、すごく分かります……。 そして神崎さんの監視精度が怖い(笑)。心拍数でバレるとか完全に逃げ場なし。でも、お仕置きの後のホットミルクとアロママッサージのギャップがもう……破壊力高すぎます。あの温かさに包まれて眠りにつくの、どれだけ幸せなんだろう。2人の信頼関係がじんわり伝わってきて胸がいっぱいです🌷