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「ちょっといいかな?」
「珍しいですね。貴方が尋ねてくるなんて」
にこりと笑った、漆黒の髪の男は、その優しく輝くアメジストの瞳を細め、俺を見た。苦手だなあ、何て言ってられないから、俺は視線を逸らしつつも彼、ブライト・ブリリアントに近付く。彼は、依然として変わらない態度で、俺を警戒している様子もなかった。俺の事を信頼してなのか、俺を侮っているのか知らないが、気にくわない。
光魔法の貴族は気にくわない奴らが多い。
「……ここで、暴れられると困ります」
「殺されるかもっていう危機感無いの?笑えるね」
「殺す気なんて無いでしょう。それに、リスクが高すぎます」
俺は、どちらかと言えば、人を信用出来ない人間だった。だからこそ、俺を信じる此の男が、苦手だった。否、俺を信じているというよりかは、俺が信じている人を信じているからこそ、俺は何もしないとそう高をくくっている感じか。
どっちにしろ、良い気分にはならない。
「闇魔法は、光魔法と違って隠蔽工作に長けているんだけどさあ。そこの所どうなの?俺が、アンタのこと殺して、誰かに罪をなすりつける可能性だってある訳じゃん?」
「きっと、彼女は気づくと思います」
と、ここでようやく彼女の存在を出す。
俺は、ブライト・ブリリアントに向けていたナイフを下ろして、懐へしまった。ああ、矢っ張りそうじゃないか。気にくわない。気にくわない。
「それで、今日は何のようですか。ラヴァイン・レイ卿」
「ラヴァインで良い。アンタに別にフルネームで呼ばれたいわけじゃないし」
「そうですか、ではラヴァイン様で」
ブライトはそう言って先ほどと同じようににこりと笑う。
何故、俺がブライト・ブリリアントの元を訪れたのかと言えば、今後の作戦について、彼に知っていて貰おうと思ったからだ。彼は貴族の中でも、魔力に長け、口の堅い男だった。それに、こういう秘密事に関しての口の堅さは異常だ。
秘密の多い男、ミステリアス……何て、令嬢達が好みそうな男ではあったし、その容姿や、艶やかな黒髪に、アメジストの瞳は光魔法の家門でありながらもよく目だった。髪色、瞳の色がどうこう問題ではないが、やはり、黒という色は闇魔法を彷彿とさせるもので、あまり好かれていない。だが、その黒さえも、彼は輝かしいものとして靡かせている。
別にそれが何、と言うわけでもないし、だからどうしたって俺からしたら思うが、その貼り付けたような笑みは気にくわなかった。
多分、そういう所が兄さんも気にくわなかったんだろう。兄弟揃って……と思われても、それもどうでもいい。
「記憶が戻った」
「はい、その報告は受けました。よかったですね。記憶が戻って。もう、魔力の方も戻ったんですよね?」
「……そりゃあ、まあ。というか、使えなかったわけじゃないし。使わなかっただけだし」
勝手が分からなきゃ、魔法なんてただの毒だ。力量を間違えれば、その魔道士さえ殺すようなもの。魔法はそんな簡単なものじゃないし、安全なものではない。だから、記憶喪失だったとき、俺は安易に魔法を使わなかった。自分の魔力量も忘れていたから。
まあ、そのせいもあってエトワールにはつかえないのかとかいうめで見られていたんだけど。今となっては使わなくて正解だったと思った。兄さんとぶつかったとき、久しぶりに魔法を使ったせいで、目眩がした。あの場で倒れていたら、危なかっただろうし、何よりもエトワールに迷惑をかけただろうから。
「それで、今日はその報告に来たわけじゃないですよね」
「まさか。てか、大体気づいていてそれ言うって、本当にアンタ性格悪すぎ」
「初めて言われましたよ、そんなの」
と、ブライト・ブリリアントは言うと、自傷気味に笑った。
こんな男が、エトワールに信頼されていると思うと、彼女の懐の広さというか、鈍感さが危うく思う。エトワールは優しいから、こういう男も兄さんも……全て受け止めているんだろうなあって。俺もその一人だったけど。
だからこそ、彼女を守りたいって思ったわけで。
「兄さんの話し聞いた?」
「はい。レイ卿が、誰かに洗脳されていると。そして、エトワール様の姿と酷似した女性と共に行動していると。にわかには、信じられない話ですが」
「俺も、そう思う」
兄さんは洗脳されていた。あの時、確かにそう感じた。俺のなかで最強の人間である兄さんが、誰かに洗脳されているなんて信じたくなかった。兄さんを洗脳できるって事は、兄さんよりも上級の魔道士と言うことになる。でも、そんな人間が存在するのだろうかと。出来るとしても、聖女ぐらいなのではないかと。若しくは、混沌か……だが、混沌は封印されたし、聖女は洗脳魔法なんて使えない。だからこそ、エトワールと姿が酷似したあの女はいったい誰なのかという話になる。
目で見たものが全て、そのままそっくり真実とは限らないだろうけど。
「レイ卿が洗脳されていると、僕は信じたくありませんが。彼が、敵になられると、本当に厄介ですからね。彼の、ユニーク魔法の事もありますし」
「何?アンタ、兄さんのユニーク魔法知ってるの?」
「いえ、ですが、彼の戦い方を見ているとよっぽど自信があるように思えたので、それに相応するユニーク魔法だと……僕の勝手な想像で、仮説ですが」
「そう」
まさか、兄さんのユニーク魔法を知っているのでは無いかと思ったが、どうやらそうでないらしい。普通、ユニーク魔法というのは、人に言わないものなのだ。唯一無二の魔法だし、それこそ切り札だから。俺が兄さんのユニーク魔法を知っているのは、その身で体験したからって言うのもあるけれど、兄弟だから知っている……と言いきりたい。俺は、兄弟だから、兄さんの弟だから、兄さんのことは知っている。誰よりも……そう言いたいけれど、言い切れなくなってきた。
そりゃ、他の人よりかは、兄さんのこと知ってるし、兄さんの考えること大体分かるけど、兄さんも隠す癖があるから。だからこそ、今回本当に兄さんが洗脳されているのかも、怪しくなってくる。でも、あんな兄さん始めてみて。
「それで、結局何が言いたいんですか。貴方が、ここにくるってことは、相当な事でしょう。知られたくない事……僕だけに伝えたいこと、知っていて欲しいこと。何でもいいですが。僕も暇じゃないんです。すみません」
と、頭を下げられる。別に誰もブライト・ブリリアントが暇だなんて思っていない。だが、少し棘のある言い方に、ムッとなってしまう。
矢っ張り、光魔法の奴らは皆嫌いだ。
その気持ちは、ずっと持っていたし、膨れあがったときがあった。光魔法の奴らにとって、闇魔法の奴らは天敵で憎き相手。そして、闇魔法の奴らにとって、光魔法の奴らは天敵で憎き相手。どちらもが憎悪しあって、此の世界は成り立っている。二つの魔法、交わることのない世界。
負のスパイラルしか産まないくせに、何で彼らは対立するのか俺には分からなかった。どちらかを悪にすることで、自分を正当化しようとしている。そう思った事だって、一度や二度じゃない。この仕組みがあることで、人間の憎悪が消えないように、人智を越える何かが設定したのだろう。そして、混沌と女神。この両者も対立させることで、世界の均衡を保って……
(いいや、考えても仕方ないよ。どうしようもないんだから)
変えられないシステムにあーだこーだ言うつもりはない。それに、そんなこと考えるために、わざわざここに来たわけでもない。貴重な、転移魔法と、事前に手紙を出すって言う面倒くさいことをしてまでここに来た理由。
「アンタならさ、俺と組んだらエトワールなしでもどうにか出来る?出来るでしょ?だから、俺と組んで欲しい」
「それは、僕に何のメリットがあるんですか?」
と、ブライト・ブリリアントは聞いてくる。だが、その目は俺を試すようで、それでいて、結果は聞かずとも……と訴えてきているようにさえ思えた。
メリット……そりゃ、こういう交渉にはつきものだと思う。
「エトワールを、危険な目に遭わせなくてすむ。だから、俺と組んでエトワールをこの件から離れさせて欲しい」
兄さんなら、きっとそうするだろうから。