テラーノベル
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#ワンナイトラブ
#ざまぁ
ある日の朝、オフィスに入った瞬間に肌を刺すような視線を感じた。
同僚たちがひそひそと顔を見合わせ、私が通り過ぎるとパッと目を逸らす。
「……ねえ、聞いた? 天音さん、専務とデキてるって噂だったけど、あれ実は……」
「借金のカタに無理やりってマジ? 専務がそんなことするなんて……」
耳を疑うような言葉が飛び込んでくる。
私のデスクには、一枚のコピー用紙が置かれていた。
それは、私が大切に隠していたはずの、あの「契約書」の断片だった。
(どうして…鍵のかかる引き出しにしまっていたのに……!)
エリカ様の勝ち誇ったような顔が脳裏をよぎる。
絶望で視界が歪む。噂は一瞬で広まり、私は「専務に買われた女」として好奇の目に晒されていた。
「天音さん。専務がお呼びだ。……至急、会議室へ」
上司の冷たい声に促され、私は重い足取りで向かった。
会議室には、涼さんと、数人の役員、そしてなぜかエリカ様までが揃っていた。
「涼様、ご覧になって? こんな破廉恥な契約を結ぶなんて、一ノ瀬の恥ですわ。今すぐ彼女を解雇して、公表すべきです」
エリカ様の声が響く。
涼さんは、机に置かれた契約書のコピーをじっと見つめたまま、微動だにしない。
私は唇を噛み締め、震える声で絞り出した。
「……申し訳、ありません。すべて私のせいです。専務は、私を助けようとしてくださっただけで……。今すぐ、会社を辞めます」
そう言って頭を下げ、逃げるように部屋を出ようとしたその時。
「——その必要は無いよ、天音さん」
低く、地を這うような涼さんの声。
彼はゆっくりと立ち上がると、役員たちを一人ずつ冷徹な目で見据え
それから私の手首を強く、けれど壊れ物を扱うように優しく掴んだ。
「涼さん……っ、これ以上私に関わったら、あなたのキャリアが…」
「そんなもの、君一人も守れないならゴミ同然だ」
涼さんは、エリカ様が持ち込んだ「契約書」のコピーを、その場で無造作に破り捨てた。
「確かに、最初は契約だったかもしれない。……だが、エリカ。君が思っているような『後腐れない盾』として彼女を選んだんじゃない」
涼さんは私を自分の胸に抱き寄せ、全社員に聞こえるような堂々とした声で宣言した。
「僕が、彼女に一目惚れして、どうしても側にいてほしくて、卑怯な手段を使ってでも繋ぎ止めたんだ。……悪いのは僕だ。彼女を侮辱することは許さない」
しんと静まり返る会議室。
エリカ様は顔を真っ青にして絶句し、役員たちもその気迫に気圧されている。
「涼、さん……」
「……怖がらせてごめん。でも、もう『契約』という言葉で君を縛るのはやめだ」
涼さんは私の耳元で、自分だけに聞こえる温度で囁いた。
「——ここからは、僕の本気を見せる番だ」
周囲の目も、社会的地位も関係ない。
ただ一人の男性として私を守り抜こうとする彼の瞳には
これまでのどの「王子様」の笑顔よりも、激しく一途な愛が宿っていた。
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