テラーノベル
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「ここどう!?でかい収納がある!嫁たくさん飾れるよ!」
「いや、佐久間くん。俺の嫁は飾るものじゃ無いんで」
「ここは?日当たりいいし、寝室広め。あと、いつから阿部ちゃんはお前の嫁になったんだ」
「寝室でかいのいいっすね!何言ってんすか、しょっぴー。出会った瞬間から、亮平は俺のお嫁さんになる運命でしたよ?」
「こっわ…」
「目黒、ここいいと思うんだけど。アイランド型のキッチン。おしゃれ。」
「岩本くん、アイランド型って……なんですか?」
「アイランド型っつーのは、部屋の真ん中とか端っこにキッチン台があんの。壁とか仕切りとか無いから、阿部ちゃんが料理してるとこ、ずっと見れるよ〜」
「ふっかさん!最高じゃないすか!!えー…迷う…。」
俺たちは、真っ昼間から自分たちのスマホを大いに稼働させて、物件サイトの海を泳ぎ回っていた。
みんなは半分真面目に、半分ふざけながら俺と亮平の家を探してくれている。
広い楽屋のすみっこに固まって、メンバーとふっかさんたちは、俺に自分たちの液晶画面を次々に見せてくれる。
その情報一つ一つに目を通しては、みんなの一押しポイントをメモアプリに打ち込んでいく。
嫁は飾らないけど確かに収納は大きい方がいいだろうし、日当たりがいいのも、寝室の大きさも重要だ。
それに、俺のためにって、ご飯を作ってくれる亮平がじっくり見られるなんて最高すぎる。
アイランド型は是非とも家探しの中で外せない条件の一つに加えたいと思った。
とはいえ、家一つ一つにそれぞれ良さがあって、なかなか一つに絞れない。
唇を軽く撫でながら思案する。
「んんん〜…悩みますね…全部良い。全部借りる…?」
「それ、お前初デートの時にも、おんなじこと言ってたぞ」
「そうでしたっけ?」
「忘れてんのかよ…。まぁ、なんでもいいけど、お前はどんな家に住みたいわけ?」
「そうですね…」
しょっぴーに尋ねられて、少し頭の中で考えてみる。
正直、自分の中には強いこだわりというものがなかった。
自分一人だけなら、住めればなんでもいいと思っているし、古過ぎず、設備もある程度整っていれば、それでいい。
俺が大事にしたいことはなんだろう?
いや、考えるまでもない。
亮平と一緒に暮らせるなら、それでいい。
俺にとって一番大切なのは、亮平がそばにいてくれることなんだ。
みんなが勧めてくれた物件情報と、俺が見て良いと思ったものをいくつか、亮平のトークルームに共有した。
「もしもし、聞こえる?」
「うん、聞こえてるよ」
「ふはっ、電話するの、初めてだね」
「そうだね、なんか、ちょっと緊張するかも…」
「亮平の声が聞こえる。これ、やばいかも。会いに行きたくなる」
今日の朝、手を振ったばかりの恋人の声がスマホから聞こえる。
先程、蓮くんが送ってきてくれた物件情報に目を通していたら、突然電話がかかってきたのだ。
どうやら今、蓮くんは次の現場への移動中だそうで、近くにはメンバーの皆さんと、ふっかしかいないからと、掛けてくれたようだった。
「ご迷惑にならない?大丈夫?」と聞くと、蓮くんはスピーカーモードにしているのか、「全然大丈夫!」と元気な佐久間さんの声が聞こえてきた。
それなら何よりだが、俺たちの会話を皆さんに全部聞かれているのかと思うと、少しの気恥ずかしさも残る。
しかし、そんなことをよそに蓮くんは話し始めていく。
「亮平、物件のサイト送ってみたんだけど、どう?」
「ありがとう、今見てたとこだよ。綺麗なお家ばっかりでびっくりしてた」
「どれが一番よかった?」
「三個目に送ってきてくれたの、良いなって思ったよ」
「それか!それね、岩本くんが見つけてくれたんだ。阿部ちゃんが料理作ってくれてるとこがよく見えるって!」
「な、なるほど…?」
「それから、最後に送ったやつは、日当たりが良くて、寝室が大きいって。しょっぴーが見つけてくれたの。それから、お風呂が大きい!」
「そうだね、明るくてあったかそうなお家だね」
「ここなら、二人で入れるね」
「へ?」
「お風呂、一緒に住むようになったら、毎日入ろうね」
「蓮くん…っ、皆さん聞いてるから…っ!!」
「あついねぇ〜!」
「砂糖吐きそう…」
「砂糖?ふっか、甘いもの食べたい。」
「そこの袋に板チョコ入ってるから食べなー」
「やった、ありがと」
どこにいても、誰といても、自分の気持ちを包み隠さない蓮くんに少し困りながらも、うきうきと話してくれるのが可愛くて、つい絆される。
佐久間さんは冷やかすというよりかは、なんだか興奮するみたいに大きな声を上げていて、渡辺さんからは本当に吐きそうな声が聞こえてきて、少し心配になった。
ふっかと岩本さんの間には独特の雰囲気が漂っていて、阿吽の呼吸とはこういう時に使うんだろうな、というくらいに通い合った何かが、そこにあるような感じがした。
蓮くんとのトーク画面に残っているいくつかの物件情報を、もう一度見ていくと、ふと、あることに気がついた。
「ねぇ、蓮くん」
「ん?」
「これ全部、今俺が住んでるところに近いところなんだけど、それでもいいの?」
「うん、いいよ?どうして?」
「蓮くん、お仕事行くの大変にならない?大丈夫?このあたりには、あんまりお店もないし…」
「亮平の今の生活が変わって大変になっちゃう方が嫌だし、俺は最悪ふっかさんが迎えにきてくれるから」
「おぉい!」
よくよく見ていくと、全部、俺にばっかり良い条件の揃ったお家が集まっている気がして、少し不安になる。
昨日お邪魔した蓮くんのお家みたいなオートロックは付いておらず、車を止めるスペースもなさそうだった。
これでは、俺だけのための家になってしまう。
それは、なんだか寂しかった。
俺だけじゃない、二人で住むんだもん。
俺も蓮くんも「ここが良いね」って思えるところにしたい。
「蓮くん、蓮くんの希望はないの?俺だけが良いなって思うところは申し訳ないよ…」
「俺は、亮平が毎日そばにいてくれるなら、それだけで充分幸せだよ」
「蓮くん…」
とても嬉しい。勿体無いくらいに、そうやって俺を大事にしてくれるたびに、表現できないほどの幸せを感じる。
でも、でもね、、蓮くん……。
自分がアイドルだってことは忘れないで…。
自分を大切にして………っ!!
たくさんの時間をかけて探してくれたのだと思うと、今俺が思っていることをストレートに言うことは少し気が引けて、やんわりと電話越しに伝えた。
「…蓮くん、せめて、オートロックはつけよう?」
「そう?」
「だって、芸能人さんでしょ?何かあったら危ないよ…?それに、駐車場のあるところにしよう?車置くとこないと大変だし…。」
「あ、たしかに…。」
「ふふっ、忘れんぼさんなんだから。でも、ありがとう。大事に思ってくれて」
「俺の方こそありがとう。亮平が俺のこと考えてくれるの、すげぇ嬉しい」
蓮くんと会話を続けながら、俺も探してみた。
蓮くんが安心して帰れる場所、大変な毎日を過ごした後で、少しでも快適に過ごせるようなお家をスクロールして探していく。
「蓮くん、今送ったお家、どうかな」
「綺麗なとこだね。すご。セキュリティ万全だ。しかも地下に駐車場も付いてる」
この間お邪魔した蓮くんのお家と、少し似ているお家をいくつか見繕って送った。
なんだか不思議。
蓮くんは俺のために、俺は蓮くんのために。
俺たちの意見は、自分のことを考えてじゃなくて、お互いのことを思ってぶつかり合っていて、交わった先で優しく混ざり合う。
スマホのスピーカーからザーザーと車の走行音が聞こえる。
隣にはいなくとも、時間と声を重ねて、俺たちはそれぞれが今いる場所で一心不乱に不動産サイトと格闘し続けた。
しばらくの間、閲覧しては戻って、また別のお家の詳細を見にいった。それを繰り返して良さげなものが出てきたので共有すると、同じタイミングで蓮くんからもメッセージが飛んできた。
トーク画面に戻って、見てみると、それは今さっき俺が蓮くんに送ったものと全く同じお家だった。
「あ、被ったね」
「ほんとだね」
同じサイトで、同じような検索条件で調べていたからだろうとは思うが、ついに二人の「ここが良い」が一つになって嬉しくなる。
キッチンも広くて、今俺が住んでいるところにも近い。
オートロックも付いてるし、駐車場もあるから蓮くんが不便になってしまうことも無いと思う。
俺たちの大切にしたいことが重なる。
不思議な感動が胸にじわぁっと広がっていく。
ふと、蓮くんの嬉しそうな声が端末から聞こえてくる。
「ここなら、オーナーのお店にもいつでも行けるね」
無くしたくないもの、ずっとお付き合いさせていただきたい人、俺のそういうものにも気を向けてくれる。蓮くんのそんな優しさが、ただただ幸せだった。
「そうだね」と返そうとした瞬間、俺よりも先に渡辺さんの声がした。
「毎日は来んなよ。俺と涼太だけの時間が減る」
渡辺さんに、「気を付けます!」と伝えてから、俺は、その物件情報ページの【内見する】と書かれた黄緑色のボタンを押した。
To Be Continued…………
コメント
4件
お互いがすごく想いあっててほんと素敵だなぁ…って毎回ほっこりする☺️🖤💚
わくわくが伝わってきて、こっちまで幸せになるわ💖