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真っ暗。
(当たり前か……)
もう慣れてしまった。慣れというものは本当に恐ろしいものだと思う。
「怖がらないんだな」
「うーん、怖いけど、慣れたというか、まあ、こんな感じだよねって……んーでも、ベタベタしてるかも」
「まあ、はらんなかだしな」
歩くたびに、べちゃべちゃいうのは、何か、モグラの腹の中に居るって感じがしなかった。何か別のもののよな……そんな。
アルベドは慣れた足取りで、モグラの腹の中を進んでいく。私は、その紅蓮を見失わないように追いかけていく。
前にも入った肉塊の体内だったり、リースが暴走したときに占領された皇宮だったり、後はヤバい神父の教会だったりもこんな感じだった。中が、入るたびに変わるというか、内部にも明確な意思があるようなそんな感じ。
上手く表せないけれど、誰かが悪意を持ってねじ曲げた空間といったら正しいか。
「アンタも、慣れてるのね」
「まあ、これくらいはよくあんだろ」
「……アンタも知ってるの?魔物を作るとか、肉塊を作ったこととか……」
アルベドは、一瞬足を止めた。
以前にも話してくれていた気がしたけれど、もう一回聞きたくなったのだ。彼は、それを見て、どう思ったのか。私じゃ耐えられないけれど、それが普通という人もいるだろうから。
「狂ってると思うぜ」
「……っ」
「俺も、別に見て、きもちわりいとは思うが、エトワールほど、拒絶反応は起きねえな。ただ、人として、それが正しいかどうかは別だ。それは、俺も否定している」
「慣れって怖い……って話?」
「そういうこった。だから、エトワール……お前は、そんな風になるんじゃねえぞ」
「ならないわよ」
私が、そう返せば、アルベドは安心したように笑った。その笑顔の意味が少し分からなくて、問いただそうとしたが、私が話し掛ける前に歩いて行ってしまう。
アルベドは、汚い世界を見てきた。だからこそ、変えたいっていう思いも誰よりも強いし、自分の中にこうしたいという思い、夢があるからこそ、動けているんだと思う。一度、挫折というか、地獄を見たからこそ、彼は強いんだろう。
だから、根拠を持って言える。明確な意思を持って。
「ほんと、つくづく、アンタが味方でよかったって思っている」
「今更だな」
「アンタが敵だったら……って、考えたりしたけどさ。アンタの、夢を聞いてから、アンタは絶対私の敵にならないなって思ったの」
「根拠は?俺が、お前の思想と相反していたら、俺は迷わず、エトワールを殺したかも知れないのに?」
「そうかも知れないけど……でも、何だろう。ほら、アルベドって、悪人を殺す、暗殺者だから。私は、その……」
自分で自分を悪くないって言うのは、何だか恥ずかしいし、それいってもいいのかなって思うんだけど、私は悪人ではないと思うから。そうだったとしたら、アルベドの抹殺対象からは、外れるわけで。
私が、言葉を濁らせると、アルベドは、少しだけ、ふんっと鼻を鳴らして、頭をかいていた。
「俺もそうだが、お前も大概だよな。信じると決めた奴にはめっぽう弱い」
アルベドはそう吐き捨てて、もう一度足を止めた。
何かと思って覗いてみれば、目の前に心臓のようなものがドクンドクンと脈打っていた。以前、あの肉塊の中で見たものにそっくりだ。
「……っ」
「その反応を見るに、前にも一度見たことがあるンだろ?」
「で、でも、なんで?」
「こりゃあ、ヘウンデウン教がからんでるっつうことで間違いねえな。つか、あの研究終わってなかったのかよ。それも、さらに技術を高めやがって。誰が、手を貸してるんだか」
「……じゃあ、モグラじゃなくて、これは……うっ」
私は思わず、口を押さえた。
嘔吐いて、顔が上げられなかった。
あの肉塊は、人の成れの果てだといった。けれど、確かに今回この魔物は、モグラだった。じゃあ、どういう経緯でモグラになったのか。もう、色々考え出したらまとまらないし、分からないけれど。この魔物は以前、人間だったかも知れないと、そう言うことなのだと。
アルベドのいうとおり、ヘウンデウン教が絡んでいるとみて、まず良いだろう。けれど、気になるのは誰がこの実験をしているか。そして、何故この怪物を作り続けていたかということ。
それに、その魔物が、そこら辺を徘徊しているなんて考えられない。それって、恐ろしいことだから。
(ヒカリや、ルクス、ルフレをおっていたのは偶然?まさか、仕込まれた……)
浮かぶのは、私と同じ髪色のエトワール・ヴィアラッテア。ここまでするの? 何て思うけど、彼女の腹の底が見えない以上、彼女を疑うのが一番だろう。
「まあ、此奴を壊せば、全て解決すんだからとっとと……ッ」
「アルベド!?」
アルベドが一歩踏み出すと、心臓のような物体が大きく脈打ち、暗闇から、ヒルのようなものがあらわれた。アルベドはそれを、振り払ったが、真っ二つにされたそのヒルは、一つ一つが新たな個体となって襲い掛かってきた。分裂。
「モグラの腹のなかだしな、ミミズぐらいいるだろう」
「み、ミミズって、分裂しないわよ!?」
そんな、プラナリアみたいな……
でも、魔法でおかしくなっているのなら、ミミズだろうが何だろうが、それに似た生き物であれば、分裂してしまうのかも知れない。よく分からないけれど。
(じゃあ、一発で倒さなきゃ無限にわいて出てくるってこと!?)
そんなの最悪!
やはり、あの核を守る為に、体内は変化し続けるのだろう。暗闇からは、無数の赤黒いヒルやらミミズやらが這い出てきて、私達に向かってくる。動きこそ遅いが、そのぶよぶよとした身体は、変則的に動き、的が定まらなかった。
「これじゃあ、近づけねえなッ」
アルベドは、風魔法を駆使し、一気に吹き飛ばすが、無限にわいて出てくるヒルには、あまり効果がないようだった。
私は、火の魔法で焼いてみるが、やはり、量が多すぎる。
核には近づけない。こちらが一方的に、魔力を消費するばかりだ。
良い方法はないかと探してみるが、無限にわいて襲い掛かってくる、ヒルを前に、私達が出来ることは、自分の身を守るだけだった。
そんな風に、襲い掛かってくるヒルを相手にしていると、後ろから、びたんっと音を立てて跳ね上がったヒルが、私の右肩に吸い付いた。
「あぁッ!」
「エトワール」
「こんのっ!」
顔よりも大きいヒルに血を吸われたら、一発で血抜きされてしまうのではないかと、私は必死にそのヒルを振り払った。ヒルはべしゃりと、地面に落ちて、また私に向かってきた。魔力消費にはなるが、これ以上近付かれたくないという恐怖からきた感情が爆発し、火の魔法で、辺り一面を焼き尽くす。
「エトワール大丈夫か!」
「あ、アルベド。うん、大丈夫……だと、思う……?」
血を吸われたような感覚はなかった。だが、クラリと視界が歪んで、思わずその場で片足をついてしまう。
「……ッチ。彼奴らが吸ったのは魔力か」
「え、へ?」
アルベドは、私がヒルに吸い付かれ場所に触れながら、思い詰めたように、顔を歪めた。
確かに、吸い付かれた一瞬、血ではないけれど、体内から、何かが引き抜かれるようなそんな感覚に恐れた。あれが、魔力だったとしたら……
「他に、痛むところはないか?」
「う、うん……でも、ここで立ち止まってたらまたやられる」
「ああ、分かってる。だが、お前が、火の魔法で追い払ってくれたおかげで、彼奴らは近付いてこれないみたいだ」
ほら見て見ろよ、とアルベドは顎をクイッと向けた。確かに、焼け野原になったそこは、ヒルがいる様子はない。ぼうぼうと燃える火に、ヒルは近付こうとしなかった。
「もしかしたら、火に弱い?」
「かもな……だが、核にたどり着けるまでの道がねえ」
「ま、まあ……大事なところは隠すものよね……」
先ほど見えていた核は、ヒルが覆い隠してしまい、とてもじゃないが、近づけないし、容易に破壊できないようになっていた。ヒルに気づかれる前に、攻撃できたら良かったんだけど、そうはいかないだろう。いつも、こんな感じだから。
「じゃあ、火の魔法で振り払いつつ、核に近付くって感じ?」
「それが一番だろうな。だけどよ、エトワール、魔力は残ってんのかよ」
「大丈夫よ。私聖女だし」
「信用ならねえな」
どれだけ、魔力を吸い取られたかは、分からないけれど、また立ち上がれるし、枯渇はしないだろう。枯渇する=命に関わるから。そこら辺は、ちゃんとしているし。
(けど、近づけたとしても、あのヒルのバリケードを突破できるか分からない……)
魔力を大量にぶち込めばいけそうだが、核もそれなりに堅いだろうし……
「アルベド?」
「近付いてから考えようぜ」
すくりと立ち上がったアルベドは、何か策があるというように、ニヤリと笑い、私に背中を向けた。