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「本当に、これでいけるんでしょうね!」
「俺を信じろよ。それとも、信じられねえか?」
「あーもう、どうにでもなれ、よ!」
アルベドの作戦通り風の魔法と、火の魔法をあわせて、核や、その周辺を吹き飛ばすことになった。ただ、問題なのが、火の魔法が、風の魔法によって消されないか、それだけが心配だった。それに、どちらかの魔法が強すぎてもダメだから、息を合わせないと、二つの魔法が共存することは出来ないと。
私の魔力量と、アルベドの魔力量は違う。でも、先ほど、吸われてしまった魔力を考えると、もしかしたら、今アルベドの方があるのかも知れない。それに、二つの魔法を一緒にぶつけるということはこれまでやったことがない。
三すくみでいえば、火の魔法、水の魔法、木の魔法はそれぞれ苦手、得意があるし、風の魔法と土の魔法も組み合わせるのは難しいと。
一番難しいのは、やはり、光魔法と闇魔法だろう。
でも、ここは、アルベドの作戦に乗って、二つの魔法を同時にぶつけてみる。きっと、出来るって信じているから。
「あわせろよ、エトワール」
「誰にいってんのよ!」
さすがに、いっせーのーで、なんていわなかったけど、二人で目配せして、タイミングを揃え、私は火の魔法を、そして、アルベドは風の魔法をぶつかるようにして発動した。
ゴゴゴゴゴと燃える炎が、ヒュロロロロと泣き叫ぶ風がぶつかる。
「ちょっと、アルベド、もう少し抑えてよ」
「はあ!?エトワールこそ、もう少し火力を抑えろよ!」
簡単にいかないもので、発動できたまでは良いものの、私達の魔力はバチバチとぶつかってしまう。己の魔法が、互いの魔法を消そうとぶつかり合うので、そこで私達が想像していなかった電撃が走る。
反発だ。
「ッ……」
「ッチ」
上手くいっていないわけじゃない。ただ、このままでは、魔法を発動している私達にも危害が及んでしまうと思った。
二つの魔法を組み合わせるという考えは悪くない。反発し合う魔法を使ったため、対処しきれなくなった、ヒル達は瞬く間に消し炭になっていく。けれど、私達の方にもダメージがいってしまっているのだ。
(光魔法と、闇魔法の反発!)
どうしようもない、此の世界の原理。
魔法を発動しているのが、光魔法を使う私と、闇魔法を使うアルベドだから起きてしまっているのだろう。そこまで、考えられなかった。でも、きっとアルベドはそれすら視野には入れているはず。だから、反発で自分たちがダメになる前に決着をつけたいんだと思う。
(でも、これ厳しいって!)
自分たちのまわりにいたヒルは吹き飛ばすことは出来たけど、私達に吹き飛ばされるのを感じ取ってか、ヒルは、核の周りに集中し始めた。これじゃあ、ヒルは吹き飛ばせても、核までたどり着かないんじゃないかと。
こっちの魔力がきれるのが先になってしまったら……それは、本末転倒だ。
「アルベド、どうするのよこれ!」
「んなの、押し切るに決まってんだろ。エトワール、手え、抜くんじゃねえぞッ!」
「ちょ、ちょっと、強い……ああ、もう!」
力業が過ぎる。
脳筋!
いや、そこまでは言わないし、思っていないけれど、あまりにも力業だと思った。魔法なのに、力業と言われたら違和感があるけれど、そう言うしか表しようがない。
いきなり、魔力最大限で、ぶっ放し始めたアルベドに押されてなるものかと、私はありったけの魔力を注ぐ。火の魔法は正直苦手だった。基本的に、万能な風の魔法や、水の魔法を使っているから、火の魔法は、あまり使ったことがなかった。それに、前世でも、火って危ないものだったから、そこでストップがかかっちゃって、イメージしづらい。だからこそ、上手く魔法が放てているか分からなかった。
光魔法を常に使うっていうのもあって、聖女の特権だと、ずっとそれだけで戦ってきたから。
ヒルは、負けじとバリケードを作り、核を守っていた。けれど、私達の攻撃にはさすがに太刀打ちできないのか、どんどんと、その核の周りから剥がれていく。もう少しだ、と私達は、魔法で押し切ろうとしたが、ぱちりと瞬きしたとき、視界の端に赤黒いものが見えた。それが、ポタリポタリと、地面に落ちるのを見てしまった。
「ある、べど!?」
「手え、抜くなっていっただろうが。押し切るぞ」
「アンタ、なんで……傷」
「いいから、やれ!」
アルベドの声に押される形で、私は、意識を核の方に向けた。ようやく全てのヒルが剥がれ落ち、核が露わになる。だが、その核も堅い障壁を張っているようで、すぐには砕くことが出来なかった。
魔力もなくなり始め、このままでは、こちらが先に力尽きてしまうと。どうすればいいかと思っていれば、アルベドが片足をついた。その瞬間、彼の風魔法がきれ、地面を這いずるヒルの音が聞えてくる。
(まずい!)
核の周りに、ヒルが集まり始め、このままでは先ほどまでの努力が無駄になると、私は、ハッと顔を上げる。隣では、はっ、はっ……と息を切らしているアルベドがいる。魔力の枯渇。このままでは、危険かも知れない、と私は、少しだけ障壁が薄くなった核に向かって手を伸ばす。そして、光の弓矢を生成し、思いっきりひいて放った。
ギチギチと嫌な音を立て、それから、しろい光を放つと、核の障壁が破れ、大きな心臓に矢が突き刺さった。
「……やった?」
瞬間、まばゆい光に包まれ、あたりが一気に明るくなる。地面には赤黒いヒルが倒れていたが、それらは黒い煙をたてて灰となって消えていった。
魔力を使ったことで、私も立っているのがやっとだと、その場に足をつく。もう少しで、この空間も崩壊して、外に出ることが出来るだろう。何とか倒すことは出来たが、やはりこの人工的に作られた魔物は、強い。
ヘウンデウン教がもし、この生命体を大量に作っていたら? そう考えると恐ろしくてたまらなかった。
「そうだ……アルベドっ!」
気が抜けたため、すっかり頭から剥がれ落ちていたが、アルベドのことが心配で、私は、よたよたとする足でアルベドに歩み寄った。彼の脇腹からは血が流れており、口の端からも赤黒い液体が滴っている。
「アルベド!」
「……ああ、エトワールやったんだな」
「やったって……アンタ、なんで黙ってたのよ。いつ攻撃されたの?」
「んなことどうでも良いだろ。傷は深くねえ」
「じゃあ」
擦れた声でアルベドが言う。
どう見ても、傷が深くないわけがない。強がり? ううん、そんなことどうでも良いけれど、全然大丈夫に見えなかった。いつ攻撃を受けたのとかも分からない。でも、分かることがあった。
「アンタ、魔力」
「悪ぃけど、エトワール。肩貸してくれねえか」
「は……っ」
言い切る前にアルベドは、私にもたれ掛るような形で、前に倒れた。私は、何とか彼を抱き留めて、彼の体温をチェックする。とても冷え切っていて、汗もかいている。ひゅ、ひゅと小さな音が聞え、私の体温も下がりそうだった。
(魔力の枯渇……)
一番恐れていた自体だ。でも、アルベドは、自分で魔力の管理はしていたし、無理はしていなかったはず……
(じゃあ、もしかして、最後押し切るっていったのは……)
もしかすると、魔力がきれてしまうから、その前に押し込もうと思ったのだろうか。それにくわえて、傷も……
きっと、黙っていたんだ。
「バカ……」
さあっとようやく崩れた空間。モグラの身体の中から、私達は現実世界の森の中に戻る。かなり暴れ回っていたようで、あちこちにクレーターやら、折れた木々やらが散乱している。助けを呼べそうにも、休むところもない。
「エトワール!」
「エトワール!」
暫く、辺りを見渡していれば、ルクスとルフレの声が聞え、私は声と足音に耳を傾け顔を上げる。彼らは、少し土で汚れた顔をしていたが、なんともないようで、心配そうに駆け寄ってきた。送れて、ヒカリが到着し、私の安否を確認した後、アルベドの様態を見て青ざめた。
「レイ卿……」
ルクスとルフレも、この状態はまずいと思ったのか、顔をつきあわせて、眉をひそめた。
誰が見ても、アルベドの様子は危険なのだ。
魔力を注ごうにも、私も少し回復しないと無理だし。何よりも……
(でも、そんなの考えていたら、アルベドの命が危ない)
考えるより先に、まず、この傷を塞がなければ。勿論魔法じゃなくて、ちゃんとした処置を。
はらりと、紅蓮の髪が私の肩に流れ、私は、グッと拳を握る。自分の体力も、魔力もかなり削られているため、今の私じゃ、彼をどうしようも出来なかったから。その無力さを噛み締めながら、私は彼らにお願いした。
「ヒカリ……ルクス、ルフレ。今すぐ、ダズリング伯爵家に連れて行って。お願い」